そのシスターは 丘の上の教会にいる

丸山 令

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ニアミス ⑶

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(ああ。ルイズに代わって貰って良かった)


 ロラは、寝具コーナーにあるサイドテーブルの上のディスプレイを変更しながら、先程入れ替えを行なっていた食器棚の前で、カップを物色している二人組に、視線を流す。

 白磁のカップを片手に小首を傾げている銀髪の男性は、特別に注文して作らせた陶器のお人形のような、どこか冷たさを感じる美しさ。
 その横にいる背の高い男性は、ガッチリとした体格とは対照的に、気の抜けた軽薄な笑みを浮かべている。

 二人に商品説明を行なっているルイズは、いつもよりワイシャツの合わせを寛げる気合いの入れ様で、上目遣いで二人に擦り寄っている。


(確かに素敵だけど、住む世界が違う感じ。特に、あの銀髪のダンディーは、横に並ぶ人を選ぶわ。それこそ、シスターブロンシュみたいな美しい女性じゃなきゃ。だからルイズは、背の高い彼を狙っているんだろうけど、彼だって相当モテるんじゃないかしら。というか、遊んでそう)


 説明を聞いている風でいて、背の高い方の男性の視線は、時折ルイズの胸元に落ちる。
 ロラは眉を寄せた。


(いやだわ。いやらしい。やっぱり顔が良いだけじゃダメね。テオの方がずっと素敵。ルイズも、もっと男を選ばなきゃ)


 気になって つい見ていると、丁度こちらを向いたらしい長身の男性と、目が合ってしまった。


(いけない!)


 咄嗟に視線をそらしてしまい、お客様だったのだと思い出して、ロラはもう一度視線を戻す。すると、長身の男性はヘラりと笑って手を振って来た。

 思わず硬直するロラをよそに、長身の男は口元を隠して銀髪の男性に何かを話している。
 銀髪の男性が顔を上げたので、ロラは目が合う前に視線を逸らした。

 あの綺麗な目に見つめられると、全て見透かされてしまう気がして、何となく怖い気がしたから。


(あの人は、何だか怖い感じがする。って、私ったら、何を怯えているの? 何も悪いことはしてないんだから、堂々としないと)


 ゆっくりと呼吸をして、もう一度そちらを見ると、銀髪の男性はロラの方を指さして、ルイズに何やら話しかけている。

 ルイズは極上の笑顔で頷くと、踵を返してこちらにずかずか歩み寄って来た。その表情は不機嫌そうだ。
 ロラは眉を寄せる。


「どうしたの?」

「そのカップが、シックで良いって!」


(あ。私が、並べていたカップ? まぁ。お目が高いわ。特に、彼のような大人の男性にはお似合いね)


「どの色が良いって?」

「その、サイドボードに置いた色を」

「まぁ。お洒落な方」


 ロラは笑みを浮かべて、カゴの中に入れていたカップを、ルイズに手渡した。

 ルイズは表情を笑顔に戻して、二人の元に戻ると、銀髪の男性にカップを手渡す。
 男性は、カップを手に取りうなずいて、こちらに笑顔で頭を下げた。

 
(あら。思ったほど、怖くなさそうだわ)


 ロラは丁寧に頭を下げ、会計に向かう三人を見送った。






 夕方。

 ご機嫌の店長が、珍しいことに『定時で帰って良い』と言ってきたため、ロラは嬉しい気分で、家に向かうバスに乗っていた。

 今日は、テオが休みで家にいるから、久しぶりにゆっくり二人で過ごすことができる。


(ディナーは少し豪華にしようかしら? それなら、買い物に寄ったほうが良いわね)


 最寄駅の一つ前でバスを降り、食材を多く扱っている商店街に向かったロラは、馴染みの店で、食材の物色を始める。

 さほど大きくない商店街ではあるが、欲しいものが狭い範囲にまとまっていて、価格も安いことから、彼女はよくここで買い物をしている。


(折角だから、鴨肉のソテーも良いわね。付け合わせは……人参やペコロスをローストすれば良いかしら)


 うきうきしながら、購入した食材をバッグに詰め込むと、ロラは家路を歩き始めた。
 普段なら、再度バスに乗っているところだが、今日はまだ明るかったので、歩いて帰ることにしたのだ。

 夕暮れの街を、ゆったりとした気分で歩いていると、反対側の歩道に愛しい人の姿を見つけた。


(あ!テオだわ!)


 嬉しくて、声をかけようとしたロラだったが、彼が誰かといることに気付き、物陰にかくれる。

 テオは、ロラが知らない女性と二人、親しげに夕暮れの街並みを、バス停に向かって歩いて行った。
 



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