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眠れない夜はゆったりと
しおりを挟む日々冬の深まりを感じるようになった今週。
つい二、三日前には、初雪も降った。
そんな、独り寝に淋しさを感じるこの頃。
ロラは、今晩も一人だった。
ここのところ、テオの夜勤が増えており、二日に一回は家にいない。
『流石に多すぎるのではないの?』と、口にしたくなる気持ちをぐっと抑えて、ロラはテオが夜勤に出掛けていくのを、笑顔で見送っていた。
(職場が悪いのよ。テオだって、行きたくて夜勤に行っているわけではないもの……)
正社員のロラでも、月末や繁忙期に仕事を休む選択肢はない。
まして、現在のテオは資格未習得ゆえに、アルバイト扱い。『代わりはいくらでもいる』と言われてしまえば、多少無理な勤務でも断ることは出来ない。
そう、ロラは考えていた。
(もし、私までテオを責めたら、彼はきっと追い詰められる。私だけは彼の味方で、彼の全てを受け止めてあげると決めたんだから……)
そう思い、頬を緩めたロラだったが、次の瞬間、奇妙な感覚に見舞われた。
(あら? 何だか……また、不安な気分になってきちゃった。どうして?)
心臓が嫌な音を立て始めたので、ロラはゆっくり深呼吸を繰り返した。
(テオのことを考えると、私幸せすぎるんだわ。だから、彼がいない今の状況に、不安な気分になっているのかも。きっとそう。それなら、別のことを考えれば、落ち着いてくるかも?)
ロラが最初に思い浮かべたのは、シスターブロンシュの優しい声と真っ白な手。
そして、礼拝堂の中で初めて見た、神々しいほどの彼女の微笑みだった。
(大丈夫よ。大丈夫。吸って……吐いて)
優しい声に導かれるように、呼吸を繰り返す。
ロラが次に思い出したのは、サシェアンジェの店長の明るい笑顔。
(そうだわ。お茶を飲もうかな……)
ゆっくりと立ち上がると、何とか動くことは出来そうだった。
リビングルームからキッチンへ移動して、ケトルを火にかけると、数日前に買ったばかりのハーブティーのパッケージを開く。
すると、ふわりとラベンダーの香りが漂って、ロラは気分が落ち着いていくのを感じた。
(ああ。これでもう大丈夫。あとは、そうだわ。今日もシスターから頂いた本を読みましょう。一昨日の晩は眠くなってしまって、まだ序盤までしか読んでいないのだけど、とても雰囲気のある書き出しだったのよね)
沸騰したお湯を数分冷ましている間、ロラは寝室から小説を持って来た。
そしてキッチンに戻り、大きめのティーポットの中にお湯を注ぐ。
強いラベンダーの香りが部屋中を満たした。
(良い匂い。家にテオがいないのは淋しいけど、こうやって、私自身の時間を充実させていれば、穏やかに過ごせる気がする。あら。私、ちょっとイイ女みたいだわ)
ロラは、ポットとカップをトレーに載せて、ダイニングテーブルに移動し、ラベンダーティーをカップに注ぎ入れる。
鮮やかな青を眺めると、ますます自信が溢れてくるような気がした。
彼女はそのまま椅子にかけ、ゆったりとした気分でお茶を口に含みながら、分厚い小説のページをめくる。
「聖なる乙女と、暗殺者の恋の物語。二人は、お互いの素性を知らずに出会い、気付かないうちに恋に落ちた。前回読んだのは、確かそこまでだったわね。この先二人がどうなっていくのか、はらはらする展開に目が離せないわ。架空の世界はこれまであまり読まなかったけど、続きが楽しみね」
ロラはその晩、夜が更けるまで、ゆっくりと読書を楽しんだ。
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