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ニアミス ⑴
しおりを挟む(はぁ。素敵な作品だったわ……まさか、あんな最後を迎えるなんて、思いもしなかったけれど……)
ロラはため息を落としつつも、手早く商品を前出ししていく。
(恋愛小説でバッドエンドはありえないと思っていたけど……いえ。あれは、バッドエンドとは呼べないわね……っと、あら。このメーカーのカップ、先週から一つも売れていないわ。形は悪くないから、配置が悪いのかも。家で使う時の様子がイメージできるように、後でスペースを作って、ディスプレイしなおしましょう)
カップをかごの中に移動して、空いたスペースに別の商品を並べ直し、ロラは一つうなずいた。
(よし、と。そしたら、このカップはどこに置いたら目立つかしら。大人っぽい印象だから、そうだわ。寝具売り場のサイドテーブルの上にペアで並べたら良いかも。それなら、ファブリックは……)
キッチン雑貨の棚からシックなランチョンマットを選びとると、ディスプレイ用の膝掛けを取りに一度バックヤードに戻る。
(愛し合って結ばれるのが至高の愛だと思っていたけど、私、浅はかだったわ。『この作品を布教したい』と言っていたシスターの気持ちが分かる。愛しているが故に……)
「はぁっ」
ロラが、今日何度目かになるため息を吐き出したとき、後方から同僚のルイズに肩を叩かれた。
「やっぱりロラも見た? 素敵な二人組よね~。若い彼は、背が高くて人懐こい感じだし、渋いあの方は、顔立ちが整っていて最高にクールだし……」
「え?何の話?」
ルイズは、ジト目でロラを見ながら、にやりと口角を上げた、
「またまた~。さっきお店に入って来た、イケメン二人のことよ。アルバイトの子の話だと、応接で店長が対応しているらしいけど、業者さんかしらね?」
「まぁ。そうなの?」
ロラが適当に相槌を打つと、ルイズは頬を膨らませてむくれた。
「まっ。そっけないふりしちゃって! 今、熱っぽくため息ついてたの、私聞いてたんだからね?」
ロラは口ごもる。
(別に、小説を思い出していただけだし、私、もう相手がいるんだけど……)
ロラは職場に、自身が事実婚していることを、まだ話していなかった。本当は、プロポーズを受けてすぐに話すつもりだったのだが、テオから止められていた。
(資格に受かったら、公にする約束だもの。後数ヶ月の我慢だわ)
ロラは笑顔を作った。
「いやだ。聞かれちゃった?」
「聴いてたわよ。恋煩いの深いため息だった。
ね!店長にお願いして、あの二人のこと紹介してもらわない? 私、あの長身の彼が良いわ。ロラは、銀髪の紳士を狙ってみない?」
「私は無理よ。地味で、何の取り柄もないし」
「そんなの、話してみないと分からないじゃない!」
鼻息荒く言うルイズに、ロラは頬を掻いた。
(テオと出会って、結婚できただけで奇跡なのに、これ以上何を望むって言うのよ……)
「私なんかより、レナの方が男受けするでしょ?」
独身の同僚の名前を出して、矛先を違う方向に向けようとしたが、ルイズは首を横に振る。
「レナはダメよ!私、あの娘と趣味がかぶってるの。絶対とられちゃうわ!」
(それって、私なら 好きな相手が重なっても、絶対取られないと安心できるって言う意味よね?バカにしているわ。早く『私、結婚してるの』って話して、鼻をあかしてやりたい)
ロラは引き攣り笑いを浮かべたが、ルイズはそれに気付いた様子もなく、今日やって来た二人組の話を続けている。
「ねぇ。お願い。一緒に来て?」
(これは、行かないとおさまらない感じかしら?)
ロラはため息をついて、頷いた。
「分かった。でも、私は後ろで立っているだけよ?」
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