偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

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38☆見えない傷

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うーん、うーん。
ユオは服を脱ぎ散らかしたまま、呻いていた。
あの、触られると、耐えがたい小さな、空洞?は、何だったのだろう?
ユオは、自分の背中を、なんども鏡に写した。

何の傷も、見えない。

それなのに、自分でそっと触れてすら、その小さな空洞から、氷の棘で刺し貫かれるような痛みと異様な痺れが差し込まれて、心臓を締め上げる。

「つ。ふう・・」

断片的な場面をつなぎ合わせるに、この手の空洞は、長いことユオにあって、ユオは、そのことを必死でサフラに隠していたようだ。

よく隠せたなと、素直に思う。

本体の記憶の残像で痛むだけだとわかって、なめてかかったせいもあるけれど。
心臓裏の空洞を撫ぜただけで、全身に震えが走って、数分経ったいまでも歯の根が合わない。

こんなの、相当な負荷だったはず。

私も、サフラに隠すべきなのだろうか。
一応本体の意向は尊重するつもりだけれど、理由がよくわからない。頭の中に、ぐちゃぐちゃに詰まった記憶は、ひどく並びが悪くて、ユオの形になったばかりの私を消耗させた。

目をつぶって、暴れるだけの記憶をやりすごしているうちに、随分と意識が、自分の中に潜ってしまったようだ。

ふわ、と、肩から布がかけられて、飛び上がるほど驚いた。

「裸で、何を、しているの?誘っているとか?」

目を開けると、サフラが、焦点の合わせようもない程近づいていて、私を抱きしめようとしているところだった。

びくん

空洞から這い出す氷の棘の感触を思い出して、体が勝手に怯えた。
間の悪いことに、震えも止まっていなかった。
サフラがため息をつく。

「・・・触るなとか、言うのかな。さっき、乱暴にしたから?」

「い、いえ」

自分のことながら、震えるかすれ声に舌打ちが出そうになる。

「じゃぁ、その震えはなに?期待のあらわれ、とかいいはるわけ?」

ああ、そういいはるのが、マシな気がする?

この脆弱な入れ物で、この子の憤懣が吸収できるのか、微妙な所ではあるけれど。
それでも、多分、サフラは私が来てから誰も殺してはいない。

本体ユオが狭間からのぞいたときのサフラなど、しょっちゅう血がべったりつくような穏やかでないキレ方をしていた。
それが今は、私の側をはなれず、血の匂いが薄まっていくわけで。
この子の注意を、私に向けさせるのは、多分本体の意に沿っている。

注意を向けさせる方法が、会話よりはカラダ側、知性よりは下世話側に偏りがちなのは、頼みの綱がユオそのもののこの外見である以上いかんともしがたい。

まぁ、前世までひっくり返しても、売春どころかロマンス系の経験すらないので、他のルートがあるならそちらを検討しただろうけれど、サフラはもう十分ピリピリしていて、悠長なことは言ってはいられない。。

だから、ここは押すの一択。
肩から布が落ちるのも構わず、サフラに手を伸ばして、シャツの上に頬をつけた。

乱暴に上を向かされて、苛立ったようにも、混乱したようにも見える彼が、降りて来る。
目をつぶったと同時に、頤を掴まれて、不自然に開いた口に、おもいきり唇をぶつけられた。

それでも、さっきの「齧られた」よりはまだキスに近い。

「んんっ」

気分的には、『かかってこいやぁ!』なんだけど。
現実問題として、息はくるしいわ、平衡感覚はおかしいわ。
それでも、指先にあたったサフラのシャツのボタンを、弾くようにして一個だけ、はずす。

ピン

ボタンがはずれる心地よい振動が響いた。
やったね。

はしたないとか、はずかしいとか、そんなことより、嫌がっても、怖がってもいませんよ、の意思表示が重要。

同時に、ああ、ユオはこの子が、とても好きだったのだなと、腑に落ちる。だって、鼓動がうれしげだもの。

ただ、体が言うことを聞かない。目の前がちかちかする。息が苦しい。

脆弱としか言いようがない入れ物が、痙攣のように勝手に震えるのを感じながら、目の前が、昏くなっていく。

やれやれ、役立たずの体なことだ。
嵐と高波にのまれて、ばらける寸前のボロ船みたい。壊れる前につかってもらえるなら行幸だと思う。

できるかぎり、サフラに向かって指を伸ばす。
だって、この子、泣いてる。

まったくもぉ、涙ぼろぼろで、しゃくりあげながら、女抱いても、気持ち良くないと思うぞ?

頭を撫でてあげたかったけれど、もうとっくに腕はもちあがらなかった。

ひっく、ひいっく。

おかしなリズムで抱きしめられるのが、なんか可笑しくて。
堕ちて来る涙が、子守歌みたいで。

身を任せているうちに最後の力までぬけて、自然に意識が落ちていた。
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