偏食王子は食用奴隷を師匠にしました

白い靴下の猫

文字の大きさ
38 / 93

38☆見えない傷

しおりを挟む
うーん、うーん。
ユオは服を脱ぎ散らかしたまま、呻いていた。
あの、触られると、耐えがたい小さな、空洞?は、何だったのだろう?
ユオは、自分の背中を、なんども鏡に写した。

何の傷も、見えない。

それなのに、自分でそっと触れてすら、その小さな空洞から、氷の棘で刺し貫かれるような痛みと異様な痺れが差し込まれて、心臓を締め上げる。

「つ。ふう・・」

断片的な場面をつなぎ合わせるに、この手の空洞は、長いことユオにあって、ユオは、そのことを必死でサフラに隠していたようだ。

よく隠せたなと、素直に思う。

本体の記憶の残像で痛むだけだとわかって、なめてかかったせいもあるけれど。
心臓裏の空洞を撫ぜただけで、全身に震えが走って、数分経ったいまでも歯の根が合わない。

こんなの、相当な負荷だったはず。

私も、サフラに隠すべきなのだろうか。
一応本体の意向は尊重するつもりだけれど、理由がよくわからない。頭の中に、ぐちゃぐちゃに詰まった記憶は、ひどく並びが悪くて、ユオの形になったばかりの私を消耗させた。

目をつぶって、暴れるだけの記憶をやりすごしているうちに、随分と意識が、自分の中に潜ってしまったようだ。

ふわ、と、肩から布がかけられて、飛び上がるほど驚いた。

「裸で、何を、しているの?誘っているとか?」

目を開けると、サフラが、焦点の合わせようもない程近づいていて、私を抱きしめようとしているところだった。

びくん

空洞から這い出す氷の棘の感触を思い出して、体が勝手に怯えた。
間の悪いことに、震えも止まっていなかった。
サフラがため息をつく。

「・・・触るなとか、言うのかな。さっき、乱暴にしたから?」

「い、いえ」

自分のことながら、震えるかすれ声に舌打ちが出そうになる。

「じゃぁ、その震えはなに?期待のあらわれ、とかいいはるわけ?」

ああ、そういいはるのが、マシな気がする?

この脆弱な入れ物で、この子の憤懣が吸収できるのか、微妙な所ではあるけれど。
それでも、多分、サフラは私が来てから誰も殺してはいない。

本体ユオが狭間からのぞいたときのサフラなど、しょっちゅう血がべったりつくような穏やかでないキレ方をしていた。
それが今は、私の側をはなれず、血の匂いが薄まっていくわけで。
この子の注意を、私に向けさせるのは、多分本体の意に沿っている。

注意を向けさせる方法が、会話よりはカラダ側、知性よりは下世話側に偏りがちなのは、頼みの綱がユオそのもののこの外見である以上いかんともしがたい。

まぁ、前世までひっくり返しても、売春どころかロマンス系の経験すらないので、他のルートがあるならそちらを検討しただろうけれど、サフラはもう十分ピリピリしていて、悠長なことは言ってはいられない。。

だから、ここは押すの一択。
肩から布が落ちるのも構わず、サフラに手を伸ばして、シャツの上に頬をつけた。

乱暴に上を向かされて、苛立ったようにも、混乱したようにも見える彼が、降りて来る。
目をつぶったと同時に、頤を掴まれて、不自然に開いた口に、おもいきり唇をぶつけられた。

それでも、さっきの「齧られた」よりはまだキスに近い。

「んんっ」

気分的には、『かかってこいやぁ!』なんだけど。
現実問題として、息はくるしいわ、平衡感覚はおかしいわ。
それでも、指先にあたったサフラのシャツのボタンを、弾くようにして一個だけ、はずす。

ピン

ボタンがはずれる心地よい振動が響いた。
やったね。

はしたないとか、はずかしいとか、そんなことより、嫌がっても、怖がってもいませんよ、の意思表示が重要。

同時に、ああ、ユオはこの子が、とても好きだったのだなと、腑に落ちる。だって、鼓動がうれしげだもの。

ただ、体が言うことを聞かない。目の前がちかちかする。息が苦しい。

脆弱としか言いようがない入れ物が、痙攣のように勝手に震えるのを感じながら、目の前が、昏くなっていく。

やれやれ、役立たずの体なことだ。
嵐と高波にのまれて、ばらける寸前のボロ船みたい。壊れる前につかってもらえるなら行幸だと思う。

できるかぎり、サフラに向かって指を伸ばす。
だって、この子、泣いてる。

まったくもぉ、涙ぼろぼろで、しゃくりあげながら、女抱いても、気持ち良くないと思うぞ?

頭を撫でてあげたかったけれど、もうとっくに腕はもちあがらなかった。

ひっく、ひいっく。

おかしなリズムで抱きしめられるのが、なんか可笑しくて。
堕ちて来る涙が、子守歌みたいで。

身を任せているうちに最後の力までぬけて、自然に意識が落ちていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

処理中です...