紅蓮の島にて、永久の夢

文月 沙織

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淫花開花 六

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 さすがに以前の部下に辱められるのは耐えがたいのだろう。かくしきれないアレクサンダーの動揺に、マヌエルはかえって普段より言葉が多くなってしまう。
「付き合いが長いだけあって、ヴルブナはあなたのことをよく理解しているようですから、調教の助けになることでしょうよ。あなたも気心の知れた相手のほうが安心でしょう?」
 その言葉は、アレクサンダーの神経を引っ搔いたようだ。
「嫌だと言っているだろう!」
 怒りの火花を弾けさせたあと、アレクサンダーの語気はやややわらいだ。
「あ、あの男だけは止めてくれ……」
 アレクサンダーは目を閉じた。いつも強気な彼がめずらしく弱い一面を見せているが、マヌエルは心動かされない。
 嫌だといってもどうにもならないものだと、いまだにこの生まれながらの貴顕の人は理解できないのだ。
 内心、嘆息した。
 そして、嫌悪をあらわにするアレクサンダーの様子に、やはり傲岸なものを感じてしまう。自分が嫌だといえば、世界がそれを許すのだとでも思っているのだろうか。
 マヌエルの目に、一瞬、ここにはない遠い日の光景が映った。
 とぼとぼと歩き続ける人々。皆疲れきって、重い荷物を背負い、衣服は垢じみて貧相に見える。彼らの目は絶望に暗くにごって見えた。もう一歩も歩きたくないだろうに、それでも彼らは歩きつづけねばならない。行く手にあるのはさらなる苦しみに満ちた地獄だと知りつつも。嫌でも嫌ということなどできない。言ったところで無駄だと知りつくしているからだ。歩いて、歩いて、行きつく先は……。彼らがたどりついたところは……。
 マヌエルは静かに告げた。
「明日、ヴルブナが来ます」
 アレクサンダーが側にあった水差しを床にたたきつけた。

 だが、アレクサンダーが憎んだ相手がその日姿を見せることはなかった。
「こんなことは滅多にないのじゃが」
 ピロテスがめずらしく揶揄も嫌味もなく素の顔で告げる。
「急遽予定が変わった。今宵、殿下の御前におまえをお連れすることになった」
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