紅蓮の島にて、永久の夢

淫花開花 五

　つい先日、あれほどかつての部下だったヴルブナに辱められたというのに、彼の美しさと気品はすこしも損なわれていないのが、マヌエルにはふしぎであり、たのもしくも思えた。
「その儀式で、あなたは殿下に捧げられることになります」
「……あのときの男だな」　
「男、などと言ってはいけません。殿下です」
　わざとらしく眉をしかめては見せたが、すこしも不快な気がしない。
「この魔窟の主だな」
「この館、いえこの島の支配者です」
「この島は帝国領だ」
　これ以上言わせておくわけにはいかず、マヌエラは話を変えるようにした。
「それまでに仕上げの調教をしましょう。あなたが殿下をちゃんと楽しませられるように」
　冷静そうに見えていたアレクサンダーの全身から、見えない火花がたったのが感じられる。
「これ以上私になにをしろというのだ？　あれだけ私を辱めておいて、まだ足らないというのか？」
　やれやれ……。マヌエルは内心、嘆息した。
　やはりアレクサンダーのこの負けん気は挫かれていない。それでこそアレクサンダーなのかもしれない。
　先日、激しい暴行のあとでも、ヴルブナを睨みつけた気迫を思い出す。そこで睨みつけられたヴルブナが笑ったわけがわかる。なぜか妙にうれしいのだ。
　そして、さらなる嗜虐心と征服欲を呼びおこされることになるのだ。ヴルブナも、ピロテスも、もしかしたらマヌエルも。
「あなたのその気性はまったく矯正できていませんね。殿下の御前でそんなむすっとした顔はいけませんよ、絶対に。一夜だけとはいえ、妻は夫に従順でなくてはいけないのです」
「まだ言っているのか、私はそんなものになる気はない！」
「決めるのはあなたではないのです。……ふむ。わかりました。あなたには荒療治が必要ですね。これはもう一度ヴルブナに来てもらうしかありませんね」
　アレクサンダーの顔がこわばった。怒りと、かすかにだが怯えも感じられる。
「い、嫌だ！　あの男は絶対に嫌だ！」