昭和幻想鬼譚

文月 沙織

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泥色の夏 四

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 泥色の夏の日は終わらないかのように、日毎夜毎くりかえされた。
 実際にはそれはひと月にも満たぬ日々だったはずだが、朝となく夜となく展開する官能の甘美な地獄絵図は望から時間の感覚をうばっていったのだ。
 その日は座敷のなかで幾度となくからみあい、あまりのことに耐えきれなくなった仁が廊下へ逃げ出すと、控えていた牛雄が仁の前にたちはだかり、廊下で組み敷いた。
 牛雄という男はひどく愚鈍なのだが、奇妙なことに命じられたことを的確にこなすことができるのだ。
「まったく、往生際の悪い人だな」
「ああっ」
 望は牛雄に命じて仁を四つん這いにさせ、剥き出しの臀部を平手で打った。
 廊下の端にいつ人が来るかわからないという状況が、望を興奮させ、仁を怯えさせる。
 もっとも、望はもはや人目など気にしてはいなかった。
 使用人たちがこの様子を見ておどろき目を見張ろうが、かまいはしない。
 自分は今や相馬の当主であり、この屋敷のなかでは何をしても許されるのだと信じていたし、事実、そうだった。父であっても今の望を制止することはできない。祖父ですら、だ。
 相馬家というひとつの小王国のなかで、望は幼き王になったのだ。今や仁は王の奴隷であり、勇や父忠でさえ望の下僕なのだ。
 夏のぎとつく熱風のなかで、望は、もしかしたら自分は少し狂いかけていたのかもしれない、と後になって思うのだが、このときはまるで自分の異常性に気づかなかった。
 このときの望の願いはただひとつ。徹底的に仁を凌辱し、思いのままにすること。それだけだった。
「ううっ……! あっ、ああっ、いや、いやだ!」
 廊下でまた四つん這いの姿勢を強い、望は仁に欲望をぶつけた。
「はぁぁぁぁーっ!」
 仁が背を反らす。
 互いに白い欲情の証しをまき散らし、獣に堕ちていく。
 それでもまだ足りなかった。まだまだ足りない。

「少し散歩しませんか?」
 望の言葉に仁は怯えた顔を見せた。
 また良からぬことを考えているのだろう、と推測していることが、ありありだ。
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