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衆辱 三
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硬直した全身は、つぎにはぶるぶると震えだす。
「なにをしているのだ、おまえたち?」
「晒し刑をしておりますの」
マーメイが代表するように答えた。
朝の林に立つ白衣の美女と、紅い薄布をはおっただけの裸も同然の青年――それも手を吊り上げられるようにして縛られている――を見て、サルドバはまるで官能的な絵巻物語の世界に足を踏み入れたかのように、不思議なものでも見るようにその青い目で彼らを見渡し、さらにもう一度縛られている青年に目をやった。
まさか、その哀れな青年が、親友でもあるラオシン=シャーディー王子だとは夢にも思っていないようだ。
「なかなかの美青年のようですな。手足がなんとも色っぽいうえに品がありますよ」
サルドバに付き従っている部下が面白そうに声をあげた。どうやら多少、男色趣味があるらしい。
軍隊では男色経験がまったくない男の方が珍しいぐらいだが、それでもそれはあくまでもそのときだけの生理的な欲望の発散だけで終わる者と、その後もつねに同性への嗜好を持ちつづける者とがおり、どうやら彼は後者の方で、縛られた青年の細い身体を見る目は、朝の光のもとに夜の背徳をひそめてぎらぎらと輝いている。
「タルス、たいがいにしておけ」
苦笑したように言うサルドバの言葉に、ラオシンはいっそう緊張した。タルスとは、サルドバの腹心の部下で、ラオシンも幾度か顔を見たことがある。すぐ近くにいる二人の雑兵らとちがって、声を交わしたこともあるのだ。今ここで声をあげてしまえば、まちがいなくサルドバとタルスには気づかれてしまうだろう。
(行ってくれ! 早く通り過ぎてくれ!)
内心の、魂が血を吹くような叫びが伝わるわけもなく、タルスは馬から下りると、ラオシンに近づいてきた。
(ああ!)
「ほう。いい身体だな。見ろ、肌なぞ、女よりもなまめかしいぞ。……しかも、可哀想に、つらい目に合わされているな」
と言う声は笑いを含んでいる。
「おい、タルス」
「隊長、ちょっとご覧になってくださいよ。これは、かなりの上玉のようですよ」
言いながらタルスはラオシンの身体に突き刺さっている道具の柄を指ではじく。
(ああ……!)
のけぞることによって胸が突き出される。
「おお、色っぽい。どれ、顔を見せてみろ」
すぐそばに立つタルスの熱い息が首にかかる。
あやうく悲鳴をあげそうになったラオシンの口を閉じさせたのは、サルドバの意外そうな声だった。
「お、そこにいるのはディリオスではないか?」
「はっ」
ずっと後ろにさがってドドとともに控えていたディリオスが、サルドバと目が合い、立ちあがって挨拶をする。
「お久しぶりです、サルドバ隊長」
ラオシンはいっそう仰天して耳をそばだてていた。
「……元気にしていたか?」
「はい。なんとかやっています。今は、この女の店の用心棒をしております」
気の狂うような状況にあって、二人の会話にラオシンはどうにか正気をとどめた。二人は驚いたことに旧知のあいだがらのようだ。
「そうか……」
なぜかサルドバの口調は暗い。
「隊長、お知りあいで?」
「ああ、以前、訓練場で顔を合わせたことがあって」
それ以上タルスはなにも言わなかった。どうも訊いてはいけない雰囲気を感じとったようだ。
「女、たいがいのところで許してやるがいい。ほら」
「ま、ありがとうございます」
マーメイはサルドバの投げた金貨を受けとって愛想よく笑みをかえした。
「行くぞ。おまえたち、遅れるぞ」
馬の蹄が大地を打つ音が再開し、一行は去っていってくれた。ラオシンは安堵のあまり涙が出た。
「お頭、王宮の兵だったんですか?」
ドドの問いにディリオスが素っ気なく答えるのがラオシンの耳にも入る。
「ああ。……もう十年以上も昔のことだがな。マーメイ、もう帰るか?」
「あら、なに言っているの、まだまだこれからよ。殿下、今日は昼までこのままですからね。殿下は、人の目にさらされることに慣れないといけないのよ」
「うう……」
冷酷なマーメイは、言ったとおりに昼までラオシンに晒し刑を受けさせつづけた。
(ああ……!)
その後も通りすがりの兵たちがちらちらとラオシンに物欲しげな目を向け、彼の股間を指さし笑いあったりしていた。近在の樵や猟師、百姓、女や子どもなども通りがかり、晒し刑にされている哀れな犠牲者を指さしたり、笑ったり、眉をひそめたりして眺めていく。
(くぅっ……)
神経が破壊されそうな屈辱の時間に耐えつづけるラオシンをさらに打ちのめすのは、彼自身の内なる熱火である。消えることを知らないその火は、肌を焼く灼熱の太陽よりも激しくラオシンの魂を炙る。
「ああっ、ああ……ああ……!」
「殿下、とんだ淫乱になりましたね。こんな格好をされているのに感じているんですね」
ドドの言葉にラオシンは息を切らしながら首をふる。
「ち、ちが……ちがう、これは、ちがう」
汗と涙で顔を汚しながら、それでも耐えきれず、とうとうラオシンは通りがかった流れ者の男の嘲笑と凝視に耐えきれず、欲望を弾けさせてしまった。
気を失いかけた彼の鼓膜に男たちと女の哄笑がひびいてくる。
そのとき、ラオシンの自尊心も誇りも木っ端みじんに砕け散った。
「なにをしているのだ、おまえたち?」
「晒し刑をしておりますの」
マーメイが代表するように答えた。
朝の林に立つ白衣の美女と、紅い薄布をはおっただけの裸も同然の青年――それも手を吊り上げられるようにして縛られている――を見て、サルドバはまるで官能的な絵巻物語の世界に足を踏み入れたかのように、不思議なものでも見るようにその青い目で彼らを見渡し、さらにもう一度縛られている青年に目をやった。
まさか、その哀れな青年が、親友でもあるラオシン=シャーディー王子だとは夢にも思っていないようだ。
「なかなかの美青年のようですな。手足がなんとも色っぽいうえに品がありますよ」
サルドバに付き従っている部下が面白そうに声をあげた。どうやら多少、男色趣味があるらしい。
軍隊では男色経験がまったくない男の方が珍しいぐらいだが、それでもそれはあくまでもそのときだけの生理的な欲望の発散だけで終わる者と、その後もつねに同性への嗜好を持ちつづける者とがおり、どうやら彼は後者の方で、縛られた青年の細い身体を見る目は、朝の光のもとに夜の背徳をひそめてぎらぎらと輝いている。
「タルス、たいがいにしておけ」
苦笑したように言うサルドバの言葉に、ラオシンはいっそう緊張した。タルスとは、サルドバの腹心の部下で、ラオシンも幾度か顔を見たことがある。すぐ近くにいる二人の雑兵らとちがって、声を交わしたこともあるのだ。今ここで声をあげてしまえば、まちがいなくサルドバとタルスには気づかれてしまうだろう。
(行ってくれ! 早く通り過ぎてくれ!)
内心の、魂が血を吹くような叫びが伝わるわけもなく、タルスは馬から下りると、ラオシンに近づいてきた。
(ああ!)
「ほう。いい身体だな。見ろ、肌なぞ、女よりもなまめかしいぞ。……しかも、可哀想に、つらい目に合わされているな」
と言う声は笑いを含んでいる。
「おい、タルス」
「隊長、ちょっとご覧になってくださいよ。これは、かなりの上玉のようですよ」
言いながらタルスはラオシンの身体に突き刺さっている道具の柄を指ではじく。
(ああ……!)
のけぞることによって胸が突き出される。
「おお、色っぽい。どれ、顔を見せてみろ」
すぐそばに立つタルスの熱い息が首にかかる。
あやうく悲鳴をあげそうになったラオシンの口を閉じさせたのは、サルドバの意外そうな声だった。
「お、そこにいるのはディリオスではないか?」
「はっ」
ずっと後ろにさがってドドとともに控えていたディリオスが、サルドバと目が合い、立ちあがって挨拶をする。
「お久しぶりです、サルドバ隊長」
ラオシンはいっそう仰天して耳をそばだてていた。
「……元気にしていたか?」
「はい。なんとかやっています。今は、この女の店の用心棒をしております」
気の狂うような状況にあって、二人の会話にラオシンはどうにか正気をとどめた。二人は驚いたことに旧知のあいだがらのようだ。
「そうか……」
なぜかサルドバの口調は暗い。
「隊長、お知りあいで?」
「ああ、以前、訓練場で顔を合わせたことがあって」
それ以上タルスはなにも言わなかった。どうも訊いてはいけない雰囲気を感じとったようだ。
「女、たいがいのところで許してやるがいい。ほら」
「ま、ありがとうございます」
マーメイはサルドバの投げた金貨を受けとって愛想よく笑みをかえした。
「行くぞ。おまえたち、遅れるぞ」
馬の蹄が大地を打つ音が再開し、一行は去っていってくれた。ラオシンは安堵のあまり涙が出た。
「お頭、王宮の兵だったんですか?」
ドドの問いにディリオスが素っ気なく答えるのがラオシンの耳にも入る。
「ああ。……もう十年以上も昔のことだがな。マーメイ、もう帰るか?」
「あら、なに言っているの、まだまだこれからよ。殿下、今日は昼までこのままですからね。殿下は、人の目にさらされることに慣れないといけないのよ」
「うう……」
冷酷なマーメイは、言ったとおりに昼までラオシンに晒し刑を受けさせつづけた。
(ああ……!)
その後も通りすがりの兵たちがちらちらとラオシンに物欲しげな目を向け、彼の股間を指さし笑いあったりしていた。近在の樵や猟師、百姓、女や子どもなども通りがかり、晒し刑にされている哀れな犠牲者を指さしたり、笑ったり、眉をひそめたりして眺めていく。
(くぅっ……)
神経が破壊されそうな屈辱の時間に耐えつづけるラオシンをさらに打ちのめすのは、彼自身の内なる熱火である。消えることを知らないその火は、肌を焼く灼熱の太陽よりも激しくラオシンの魂を炙る。
「ああっ、ああ……ああ……!」
「殿下、とんだ淫乱になりましたね。こんな格好をされているのに感じているんですね」
ドドの言葉にラオシンは息を切らしながら首をふる。
「ち、ちが……ちがう、これは、ちがう」
汗と涙で顔を汚しながら、それでも耐えきれず、とうとうラオシンは通りがかった流れ者の男の嘲笑と凝視に耐えきれず、欲望を弾けさせてしまった。
気を失いかけた彼の鼓膜に男たちと女の哄笑がひびいてくる。
そのとき、ラオシンの自尊心も誇りも木っ端みじんに砕け散った。
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