黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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帝国、夢の宴 五

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「あ、いえ、つい、宴ではどんな催しをするのかと」
「ふうん……」
 アグスティナがさぐるように漆黒の瞳を、きらり、と光らせて視線の針を向けてくる。彼女の目には、珍しいことにいつも色気と知性が混在している。
「まぁ、いいわ」
 気を取りなおしたようで、アグスティナはそれ以上詮索せず、石畳の歩道をすすむ。つられるようにエンリケもついていく。
 庭園には薔薇の花が目立つ。白薔薇、紅薔薇、黄薔薇、黒薔薇、桃色の薔薇。ややむせかえるような香気にあふれている。見渡すかぎり、今は薔薇に占められている。花園というより薔薇園と呼んだほうがただしいかもしれない。
 薔薇は公爵の趣味なのか、先代公爵の趣味か、もしくは先代の妻である亡くなった公爵夫人の好みなのか。いずれにしろ、こうして黄昏に咲く幾多の薔薇の列を見ていると、かつてこの館の敷地内で異教徒糾弾の拷問がおこなわれていたとは夢にも思えない。
 もしかしたら、こんなにも今宵の薔薇が美しく見えるのは、異教徒たちが流した血を糧としているからか、と奇妙なことをエンリケは考えてしまう。拷問の果てに殺された異教徒たちの恨みの涙と血と、彼らの屍肉を養分として、薔薇たちはこんなにも美しいのかもしれない。
「今夜は、思いっきり楽しみましょう。私、今夜は、うんと……乱れたいわ」
 乱れたいわ……。
 最後の一言は、エンリケの鼓膜をえぐってから、宵闇色が濃くなってきた世界に消えていく。
「そ、そうですね。私も早く楽しみたいな」
 とは言うものの、エンリケの心は今ひとつ弾まない。
 帝国の栄えある黄金の宮城からこぼれ落ちた男女二人は、妖しい秘密をかかえた館へと向かった。
 そこでは公爵の用意した美しい奴隷たちが、今宵まねかれた客人たちをもてなすための準備をして待っていた。
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