黄金郷の白昼夢

文月 沙織

文字の大きさ
136 / 184

帝国、夢の宴 五

しおりを挟む
「あ、いえ、つい、宴ではどんな催しをするのかと」
「ふうん……」
 アグスティナがさぐるように漆黒の瞳を、きらり、と光らせて視線の針を向けてくる。彼女の目には、珍しいことにいつも色気と知性が混在している。
「まぁ、いいわ」
 気を取りなおしたようで、アグスティナはそれ以上詮索せず、石畳の歩道をすすむ。つられるようにエンリケもついていく。
 庭園には薔薇の花が目立つ。白薔薇、紅薔薇、黄薔薇、黒薔薇、桃色の薔薇。ややむせかえるような香気にあふれている。見渡すかぎり、今は薔薇に占められている。花園というより薔薇園と呼んだほうがただしいかもしれない。
 薔薇は公爵の趣味なのか、先代公爵の趣味か、もしくは先代の妻である亡くなった公爵夫人の好みなのか。いずれにしろ、こうして黄昏に咲く幾多の薔薇の列を見ていると、かつてこの館の敷地内で異教徒糾弾の拷問がおこなわれていたとは夢にも思えない。
 もしかしたら、こんなにも今宵の薔薇が美しく見えるのは、異教徒たちが流した血を糧としているからか、と奇妙なことをエンリケは考えてしまう。拷問の果てに殺された異教徒たちの恨みの涙と血と、彼らの屍肉を養分として、薔薇たちはこんなにも美しいのかもしれない。
「今夜は、思いっきり楽しみましょう。私、今夜は、うんと……乱れたいわ」
 乱れたいわ……。
 最後の一言は、エンリケの鼓膜をえぐってから、宵闇色が濃くなってきた世界に消えていく。
「そ、そうですね。私も早く楽しみたいな」
 とは言うものの、エンリケの心は今ひとつ弾まない。
 帝国の栄えある黄金の宮城からこぼれ落ちた男女二人は、妖しい秘密をかかえた館へと向かった。
 そこでは公爵の用意した美しい奴隷たちが、今宵まねかれた客人たちをもてなすための準備をして待っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

少年達は吊るされた姿で甘く残酷に躾けられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

青年は淫らな儀式の場に連行される

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。

処理中です...