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帝国、夢の宴 六
しおりを挟む控えの間は、混沌とした空気に満ちていた。
十数人の女奴隷たちは、皆グラリオンから連れてこられた若い女性たちだ。
この国の人とくらべると、やはり肌がやや鳶色がかっている。目つきも鋭く、印象的で攻撃的にとられかねない。そんな彼女たちが、肌が透けて見えるほどの薄い衣をまとわせられ、あたえられた装飾品を身に着け、踊りの支度をしている姿は、劇場の裏部屋の雰囲気と似ている、とバルバラは思った。
バルバラは何度か芝居小屋の粗末な舞台に出たことがある。それはバルバラにとって、仕事というより趣味か遊びのようなものだ。
舞台の上でそのまま娼婦の役もやれば、人妻、未亡人、令嬢、ときに男役で騎士を演じたこともある。それなりに受けて拍手喝采をもらった。男よりも女客に人気が出たものだ。
職業上、バルバラは男もさることながら、女でも金を積んでくれれば相手をした。誰しもバルバラが一度相手をすると、夢中になって追いかけてきたものだ。全財産をバルバラにつぎこんで破産した商人もいれば、自殺未遂をした令嬢もいた。だが、バルバラはそんな自分の殉教者たちにたいして、哀れみの心をもつことはなく、彼らの不幸を聞いても、冷笑をこぼしただけだった。
(愚かだな。このバルバラに本気で惚れるなんて。惚れたそっちが悪いんだよ、お馬鹿さんたち)
夏の太陽のように陽気そうな外見に似合わず、バルバラの心の奥底は万年雪に覆われた北国の山のように凍てついているのだ。
「どうだ、バルバラ、今宵の宴の演出は? なかなかのもだろう?」
公爵が目ざとくバルバラを見つけて近づいてきた。背後では、女たちが忙しそうに着替えたり化粧をしている。まるっきり舞台の楽屋のようだ。女たちよりさらに肌の色が濃い男――いや、宦官たちも、まるで役者のように装いを凝らしている。東方らしさを演出するために、彼らが身にまとっているのは生成り色の腰巻だけだ。それは帝国の人々がグラリオンに持つ印象であって、そういう宦官や奴隷たちもいるが、それはごく下級の者で、すくなくとも王族や貴族の身近で仕える宦官たちはもう少し肌を隠している。
「まあね」
特別にやとわれた楽士たちが、めいめいの楽器の調律や準備をしている。異国の香が焚かれ、黄金の香炉からはなんとも甘くふしぎな香があふれてくる。
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