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帝国、夢の宴 一
しおりを挟む公爵の別荘は、ちいさな城といってもよかった。
その土地は、葡萄の産地でも知られ、毎年秋には芳醇な葡萄酒を味わえることで知られているが、森の奥にそびえる石造りの城は、貴族たちのあいだでは別の話でひそかに有名であった。
かつてその城には、異教徒たちを糾問した裁判所があり、地下牢には、棄教や改宗をこばんだ異教徒たちを拷問し、彼らの血に染まった責め具がしまわれてあると、貴族のみならず、村人たちにも囁かれている場所である。先代公爵のときの話であり、今では過去のこととされているが。
だが最近では、その城には美女や美童があつめられ、折々にある種の客をまねいて特別な歓待をすると新たに噂されており、それは真実であることをエンリケは実感した。
「エンリケ、どうしたのよ、不機嫌そうな顔をして? なにかあったの?」
腕を組みながら夕暮れの庭を歩いていると、侯爵未亡人アグスティナがふしぎそうに訊いた。せまりくる宵闇に、黒い瞳が美しく輝いている。
「いえ、べつに」
ぶっきらぼうに答えながら、女というものは奇妙なものだとエンリケは考えていた。
侯爵未亡人の淫蕩さと放埓さは誰より知っているつもりだが、今のように白絹のドレスで黄昏の花園を歩く姿は貴婦人そのもので、瞳はいつにもまして蠱惑的に見える。ふとすると幼女のようにあどけなく可憐にさえ見えるから奇妙で仕方ない。
「夜の宴までにはご機嫌をなおしてちょうだいよ。今夜はとびきり楽しい夜になるはずよ。なんといっても……公爵は、とびきりの御馳走とお酒でわたしたちを楽しませてくれるはずよ」
「公爵ではなく、他の人があなたを楽しませてくれるのでしょう?」
言葉より口調が冷たく響いたようだ。
「あら……」
一瞬、未亡人は鼻白んだ顔になった。
「あなたは楽しみじゃないのかしら? 今夜の宴は? もし、そうなら、私は今宵来られる方のなかで、別の方を付き添い人にするけれども」
そう言われるとエンリケも弱い。
「ああ、いえ、とんでもない! 私だって楽しみにしていますよ。とくにあなたとこうして過ごせるのだから、夢のようだ。私のようなものが、社交界の華、帝国のもう一人の女帝、アグスティナ・デ・コルドバ侯爵未亡人とこうして腕を組んで過ごせるのですから。あなたの相手は私だと、今宵の客に自慢したいぐらいだ」
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