黄金郷の白昼夢

文月 沙織

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帝国、夢の宴 二

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「まぁ、いやね」
 エンリケのまじめぶった大袈裟な言い方に機嫌をなおした未亡人は、かるく手でエンリケの袖を打つ。こういう仕草も子どものようだ。
「からかわないでちょうだいよ。ああ、でも本当に夜が待ちどおしいわ。公爵は今夜、グラリオン風のやり方で私たちを楽しませてくれるらしいわ。東方の美しい奴隷をつかってね」
 侯爵未亡人は眉を寄せた。
「あら、いやだ。また怖い顔」
 つい、不機嫌な表情になっていたようだ。エンリケは咄嗟にこわばった笑みをつくってみた。
 思えば、自分はいつも作り笑いをして生きているな、と普段なら考えもしないことを考えてしまう。
「すみません。なんだか、今日はやけに暑いですね」
「そうぉ? 涼しい方だと思うけれど。グラリオンにくらべたら寒いぐらいでしょう?」
「グラリオンにいらしたことがあるのですか?」
「まさか」
 未亡人は左手に持っている黒繻子の扇を振って、けらけらと笑った。
 その手つきもひどく若々しい、というりより子供っぽい。
 彼女はけっして頭が悪い、というわけではないが、幼稚なところがあることはエンリケも気づいていた。だからこそ、口うるさい貴族社会で、どれほど陰口をたたかれようが、貞淑な貴婦人たちから蔑まれようが、好色な男たちから欲望の目で見られようが、己の求めるままに本能にしたがって生きているのだ。
 ある意味で貴族社会のはみだし者であるアグスティナに、エンリケは親近感を持っている。
 だが、彼女には夫の残した莫大な財産と、未亡人とはいえ侯爵夫人という地位と、やはり有力貴族である実家の後見という、いくつもの恵まれた特権があるが、エンリケにはほとんどない。
 名目上の辺境伯という地位と、貴族としての最低限の面目をはたせるだけの扶持を、やはり名目上の父であるアビラ子爵からもらっているだけである。
 エンリケは貴族としては豊かではない。この歳になって縁談のひとつもこないのは、そのきわめて微妙で弱い立場のせいだ。アビラ子爵も、エンリケの結婚を気にかけようとはしない。
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