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【番外編】
楓花の怪我の話 (4)
しおりを挟む「ごめん……ごめんな、颯太……」
白いTシャツを楓花の血で真っ赤に染めながら、天馬はひたすら楓花に話しかけ、ひたすら歩き続けていた。
ーーくそっ! 俺が気付いていれば……。
本当に迂闊だった。
目の前の羽田と大河にばかり気を取られ、後ろから颯太が来ていることに全く気付いていなかった。
そんなの分かることなのに。
大河が天馬に会いに行くのだと知ったら……もしも大河が天馬のピンチを口にしていたなら……颯太はついてくるに決まってるんだ。
『天にい!』
颯太はいつもそう言って天馬の後を追ってくる。
天馬と大河がどんどん先に進んでしまっても、泣きそうな顔をしながら必死でちょこちょこと追いかけて来る。
そして立ち止まって手を差し出してやると、頬を赤く染めてちょっと照れながら、それでも本当に嬉しそうにパアッと花開くような笑顔で、ギュッと手を握ってくるんだ……。
ーーもしもあの笑顔が見られなくなったら……俺の手を握り返す小さな柔らかい手を失ったら……。
背中にかかる重みをズンと感じて……肩から胸にかけて流れ込む血の生暖かさとシャツを染め上げる真っ赤にヒュッと息を呑んで……ゾッとして全身に鳥肌が立った。
ーーそんなこと、絶対にさせるかっ!
「颯太、頑張れ……もう少しだからな……絶対に助けるからな……」
痺れて感覚がなくなりかけた腕と自分自身にも言い聞かせるように、天馬は同じセリフをブツブツと繰り返しながら、更に歩調を速めた。
楓花を抱えた天馬がスッと開いた自動ドアから入って来ると、途端に待合室がザワついた。
鬼気迫る顔をした血だらけ汗まみれの高校生が額から血を流す女の子を背負って立っているんだ。そりゃあ何事かと思うだろう。
ーーこの場合は診察室か? 手術室……じゃないよな。
行き先に迷って一瞬だけ躊躇して、とりあえず父親に診てもらうのがいいだろうと診察室に足を向ける。
するとちょうど中から出て来たベテランナースが天馬に気付き、驚いて駆け寄って来た。
「天馬くん、どうしたの?! その子は……」
「石が当たって……父さん……院長は?」
「中にいらっしゃるわ。今呼んでくるから!」
宗馬は本当にすぐに飛び出して来て、白衣の裾をはためかせながら速足で近付いてきた。
「父さん……楓太が……楓太がっ!」
宗馬は楓花の額を覗き込みながら、
「これは……こめかみに怪我をしたのか。切れてるな」
低い声で呟く。
「俺のせいで颯太が怪我をしたんだ。俺のせいで颯太が……」
「天馬、落ち着け。ちゃんと事情を説明しなさい」
落ち着いた声で言われ、自分のパニック具合に気が付いた。息をスッと吸って吐く。
「俺の喧嘩に巻き込まれて……相手の投げた石が当たったんだ。……俺のせいだ」
「天馬、お前、駅からここまで楓花ちゃんを背負って来たのか」
汗だらけの天馬を上から下まで眺めて感心したように言う。
「そんなのどうでもいいんだよ! 親父、お願いだから早く颯太を助けてやってくれよ!」
宗馬が天馬の背中から楓花を引き剥がそうとした時、楓花がフッと意識を取り戻した。
「ゔぁ~~~ん! あーーーっ!」
驚きからか痛みがあるのか、楓花は目を覚ました途端に火がついたように泣き始める。
「飯島さん、ナートの準備だ。その後で採血、頭部レントゲン、CT」
「点滴はどうされますか?」
「生食にFe剤1アンプルで点滴。それと抗生剤も」
「はい」
宗馬は口頭でナースに指示を伝えながら大泣きする楓花を抱え、診察室の隣の処置室へと入って行った。
「颯太っ!」
楓花の姿が処置室に消えてしまった途端に、もうこのまま会えないような気がして怖くなった。
ーーいや、今あんなに大声で泣いてたんだ、大丈夫……大丈夫に決まってる。
だけど……傷は残るかもしれない。
『切れてるな……』
『ナートの準備』
宗馬の言葉が頭の奥でガンガン響いてグルグル回る。
気付くと天馬は処置室のドアをガラリと開けて叫び出していた。
「親父、颯太は女の子だから傷が残らないようにしてやってくれよ!」
処置室のベッドでは、ナースに手足を押さえられた楓花がギャンギャン泣き叫んでいる。
その姿を見たら苦しくて切なくて、胸がギュウッと締め付けられた。
「颯太! 傷が残ったら俺が嫁に貰ってやるからな! 絶対だからな!」
「天馬、出て行け。飯島さん、ドアを閉めて下さい」
「はい」
「颯太、心配しなくていいから! 大丈夫だからっ! 俺が……俺が……っ!」
目の前でドアが閉められ、ガチャリと内側から鍵がかかる音がした。
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