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19、天にい、大好きだよ
しおりを挟む「あっ……ふ……んんっ……」
後頭部と肩に腕を回し、天馬は執拗なくらい濃厚なキスの雨を降らせ続けている。
楓花はそれを受け止めるのに精一杯で、息継ぎをする余裕もない。
口内で唾液を掻き混ぜ、わざと大きな音を立てられ恥ずかしくて仕方がないのに、それが心地良いと思ってしまっている自分がいる。
いくら唇を重ねても足りない気がして、更なる天馬の情熱を得ようと必死で口を開き舌を伸ばした。
ーーもしかして私、今日このまま天にいと……?
恍惚として上手く働かない脳をフル回転させて、今後の流れを予測してみる。
ーーホテルにいるって時点で、天にいはそういう事をするつもりだって事だよね?
いくら楓花が経験不足とはいえ、大人の男女がラブホテルに来る意味くらいは知っている。
つい今しがた自分たちの気持ちを確かめ合い、しかも不倫でも何でもなかったと判明したのだ。
だとすれば、その先に進むことに何の障害も無いはずだ。
怖くないと言ったら嘘になる。
だけど……
ーー天にいが私を想ってくれていると分かった今なら、そうなっても構わない……。
楓花は覚悟を決め、瞼をギュッと固く閉じた。
不意に唇が離れ、ムニュッと鼻を摘まれた。
酸素を求めて首を振り、真っ赤な顔で「プハッ!」と息継ぎをすると、それを見た天馬がクスッと笑う。
ーーえっ?
驚いて目を開けたら、すぐそこに楓花の瞳を覗き込む妖艶な笑み。
楓花の前髪を掻き上げて額にそっと唇を寄せ、それから鼻、そして唇に戻る。
チュッチュッと短い音を立てて名残惜しそうに何度か上唇を啄んでから、ようやく唇を解放した。
「ところで…… 」
コツンとおでこをくっつけて天馬が口を開いた。
「えっ? 」
このままの流れで先まで進むものだと思っていた楓花は、拍子抜けしてキョトンとする。
「俺はお前の気持ちを聞かせてもらってないんだけど」
「えっ、私ちゃんと自分の気持ちを伝え……あれっ?」
ーーキスした日のことを話して、涼太との関係を釈明して、天にいに気持ちを確認されて……
『お前……俺のことを好きだったの?』
『うん…ごめん……』
「あっ……言って……はいなかった」
「だろ?」
天馬はおでこを合わせたまま、上から超至近距離で瞬きもせずにジッと見つめてくる。
目力の強さに吸い込まれそう。
「俺はお前のことを好きだって言った。お前はどうなの? 俺のことをどう思ってんの? 」
「そんなの…… 好きな人じゃなきゃキスなんてしないよ!」
恥ずかしくなって、両手で顔を覆ってそう言うと、天馬に手首を掴まれ、顔を覆っている手をグイッと両側に開かれてしまう。
いたたまれなくなってフイッと顔を背けても、 天馬は更に鼻までくっつけて距離を近付ける。
「颯太、逃げないで。ちゃんと俺を見て」
「天にい……」
「ちゃんと言って。お前の言葉で安心させてくれよ」
そう言われてハッとした。
ーーああ、そうなんだ……辛い想いをしていたのは私だけじゃない。天にいだって、キスした私の気持ちが分からずにずっと苦しんでいたんだ。
目の前には、いつもの傍若無人さなんて欠片もない、不安そうな顔。
猫のような瞳がユラユラと揺れていて、その中心に映っているのは、他でもない楓花自身で……。
ーー私たちは言葉が足りなかったせいで、すれ違って遠回りしてしまったのに……。
『言わなくても伝わる』なんて思ってないで、ちゃんと言葉で伝えなきゃいけないんだ……。
楓花は真っ直ぐに天馬を見据えると、ゆっくりと口を開いた。
「……好き」
その言葉は涙と一緒に零れ出た。
今まで言いたくて、ずっと言えなかった言葉。
4年前に伝えたくて、伝えられなくて……。
「好き……大好き……私は天に……んっ!」
泣きじゃくりながらの告白は、最後まで言い終わる前に、天馬の唇でチュッと塞がれた。
「んっ……は……待って!まだ途中で……あっ! 」
話そうとして、またチュッと口づけされる。気持ちを聞かせろと言いながら邪魔するって、どういうこと?!
「ちょっ……天にい!……あっ…ふあっ……」
最後に口の中をベロリと舐め上げ濃厚な口づけをすると、ようやく天馬は楓花を解放し、いたずらっ子みたいに微笑みながら、目を合わせた。
「もう十分分かった。嬉しいよ。俺も颯太のことが大好きだよ」
そう言うと、楓花をギューッと苦しいほどに抱きしめた。
「夢みたいだ…… 」
深い溜息と共に吐き出された耳元での囁き声は、何年分もの万感の想いが籠っているようで、楓花の胸を震わせた。
「天にい……大好きだよ…… 」
今度こそ最後まで言い終わると、楓花は天馬の背中に腕を回し、ギュッと力を込めた。
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