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20、俺たち最初からやり直さないか?

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 長く熱い抱擁の間に、楓花の心は定まっていた。

「楓花……いい? お前を抱きたい」

 甘い声で言われて、楓花はコクリと頷く。
もう迷いはない。

「うん……だけど……どうすればいいか分からないから…… 天にいが全部教えてね」

 恥じらいながら小声で告げると、天馬が目を見開き、弾かれたようにガバッと上体を起こす。

ーーえっ、天にい?

「お前、まさか初めてなの?!」

ーーえっ、すっごく驚いてる!もしかして引いてる? 嫌だ、こんなの恥ずかしすぎる!

 楓花が両手で顔を覆ってコクコク頷くと、天馬はしばし言葉を失い、もう一度確認するように聞き返す。

「今まで…… 一度も? 」
「ごめんなさい。天にいの事を忘れられなくて…… 」

「もしかして……キスも? 」
「天にいだけ…… 」

 耳まで真っ赤な顔を覆ったまま楓花が頷くと、 天馬は楓花の上から跳ね起きて、ベッドの上で正座になった。

「うっわ…… やっば…… 」

 今度は天馬の方が両手で顔を覆い俯く。まるで恥じらう乙女の如く。

「えっ? 」

ーー天にいが困ってる。やっぱり今まで経験が無いなんて重たいのかも……。

 楓花も起き上がると向かい合って正座になり、 肩を落としてうな垂れる。

「天にい、ごめんなさい。私…… 」
「ヤバイな…… 感動で震える」

ーーえっ?! 

「ずっと好きで好きで、諦めようとしても忘れられなくて……その相手が俺のことを好きって言ってくれて、しかも他の誰のモノにもなってないって…… こんなご褒美あっていいのかよ?! 」

「天にい……嫌じゃないの?」
「はぁ? 嫌だって?」

 天馬は顔からバッと手を離すと、楓花の両肩に手を置いて力説し始めた。

「いいか、颯太。好きな女の初めてってのは、男のロマンなんだ」
「へっ?! 」

「好きな女の身体を自分の手で可愛がってトロトロに蕩けさせて徐々に開いて、本当のオンナになる瞬間を見届ける…… なんて、最高以外の何ものでもないだろっ?! 」

「蕩け…… 開いてっ?! 」

 この男は真顔で一体何てことを言ってるんだ。
 楓花には未知の世界過ぎて、想像するだけでパニックになりそうだ。

 「なのに、俺ってヤツは……」

 天馬はもう一度両手で顔を覆い、絶望に打ちひしがれる乙女のように俯いている。

「手術後の寝込みを襲い、消灯後の病室に夜這いをかけて、 退院祝いをすっ飛ばしてラブホテルに連れ込んで…… 鬼畜だな」

「ホントだ…… 改めて聞くと、天にいのやってることって酷いよね。まさしく鬼畜の所業……」
「颯太っ?! 」

 楓花の言葉に焦って顔を上げ、縋るような目で見てくる。それはさながらご主人様に叱られた大型ワンコ。

ーーなんか天にいって……

「ふふっ、天にいって、結構子供っぽいところがあるんだね」

「そうだよ。俺は勇気がなくて諦めが悪いヘタレで、独占欲が強くて嫉妬深くてエロい29歳のオッサンなんだよ」

『幻滅した?』と探るように瞳を覗き込む姿は、 それまで楓花が知っているどの天馬とも違っていて……。

「ううん、なんだか前よりもずっと、天にいが近くなったみたいで嬉しい。もっと天にいのいろんな顔を知りたい」

 天馬はそれを聞くと、目を三日月のように細めて、楓花の髪をクシャリと撫でる。

「颯太 …… 俺たち最初からやり直さないか? 」
「えっ? 」

「颯太がいいって言ってくれてもさ、やっぱりあんな始まり方じゃ不本意だろ? 女の子の初めてって大事だし、楓花もそれなりに夢見てただろうからさ……ちゃんと恋人らしいことから順を追って進めないか? 」

「恋人らしいこと? 」
「ああ、待ち合わせてデート…… とか? 」

「デート? したい!」

 パアッと笑顔になった楓花を、天馬は今にも蕩けそうな表情で愛おしげに見つめる。

「そういえば俺たちってさ、デートどころか、こうやって2人っきりでゆっくり話すことさえ、ほぼほぼ無かったよな……」

「あっ、本当だ……」

ーーそう言えば、私たちはいつもお兄ちゃんと一緒だったから……。

「2人でゆっくり進めて行こうな」
「うん」

「それじゃあまずは……」

 天馬は急に居住まいを正し、膝に両手を揃え、「うん」と咳払いした。


「月白楓花さん、俺はあなたが大好きです。付き合って下さい」

 お辞儀をしながら右手を差し出す。

「……はい、よろしくお願いします」

 楓花が右手を握り返すと、そのままグイッと引っ張られ、ポスンと天馬の胸に抱き寄せられた。そのままベッドに倒れ込む。

「お前は今日から、俺のモン…… 」

 息を吐きながらしみじみと言われ、楓花にもようやく実感が湧いてきた。

ーー私は今日から、天にいの彼女……。

 天馬の厚い胸板に顔を埋めて鼻先を擦り付けていたら、お腹の辺りに違和感を感じて顔を上げる。

ーーあれっ、何か当たってる?

「颯太……悪い、上から退いて。限界」
「えっ、限界? 何?」

「勃ってる。ヤバイ。離れて」

ーーええっ!
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