強くて弱いキミとオレ

黒井かのえ

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小梅の直感

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 公平と二人して街を駆け回って薫を探す。
 薫は、いつものゲームセンターの近くで拉致られたらしい。
 その辺りを駈けずり回っていたらしい松葉が走って駆け寄ってくる。

 近くまできて首を横に振る。

 見つからないのだ。
 公平が、がっくりと肩を落とした。
 その姿を見て、松葉が舌打ちする。
 
「竹沢のやろう……」
「竹沢がなんか関係あんの?」
「あいつがカオちゃんのこと、罠かけやがったんだよ」
 
 ぴん、と梅野の脳裏にある光景が蘇る。
 
「あいつじゃねぇ?!」
「あいつって誰?」
 
 公平に聞かれ、梅野は勢いこんで話し出す。
 
「この前、俺、竹沢ンこと尾行つけてたんすけど、その時に竹沢が会ってたヤツ」
「誰かわかんねぇだろ」
 
 言う松葉を見て、梅野は言った。
 
「思い出したんだよ! あいつ、表では有名なヤツだった! 俺も表に関しちゃあんまり詳しくなかったから、なかなか思い出せなかったんだけどさ」
「いいから早く言え。誰なんだ」
 
 息を吸い込んでから、梅野はその名前を口にする。
 
「佐安治亮輔。ちょっと前、空手の大会で優勝したって記事見たから間違いない」
 
 ガンッ!!
 
 音に驚いて、梅野も松葉もそっちを見た。
 今まで見たこともないような「怖い」顔で公平が近くにあったゴミ缶を蹴り飛ばしていた。
 
「あの野郎……」
 
 松葉が公平に近づく。
 
「公平さん、そのサージってヤツ、知ってんの?」
 
 黙っている公平。
 梅野は慌てる。
 本能的に今は公平に声をかけてはいけない気がしたのだ。
 
「松葉、相手があいつなら、この間、あいつらがいた辺りなんじゃねぇ?」
 
 公平から視線を外し、梅野のほうを見て松葉が頷いた。
 
「かもな」
 
 二人して公平を見る。
 公平は転がったゴミ缶には目もくれず、地面をにらみつけていた。
 
「案内しろや、そこによ……」
 
 あまりにも低い声に、梅野はビビっている自分を感じる。
 今まで公平のことを怖いと感じたことはなかった。
 
 いつも公平は優しくて。
 
 ごくりと喉が鳴る。
 
「行こうぜ」
 
 松葉が先に歩き出した。
 
「公平さん……」
 
 公平は梅野を見ない。
 言葉をなくしている梅野の前を素通りし、松葉の背を追う。

 あれが。
 公平のもう一つの顔。

 ハッとなり、慌てて二人を追う。
 薫が無事でいてくれればいい。
 そうでなければとんでもないことになる。
 そんな気がしていた。
 
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