緑の風、金の笛

穂祥 舞

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8 おわかれ

2-④

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「だからね、お別れとか大袈裟に言わない」

 奏大はいつものように、奏人の頭の上に手を置いた。母とも伯母とも伯父とも違う、優しい手。

「ちょっと距離は離れるけれど、僕は奏人くんの兄だからね、何かあったら遠慮せずに連絡ちょうだい」

 言われて、奏人の鼻の奥がつんとなった。昨夜ぴいぴい泣いたから、今日は泣かないと決めていたのに。見送られるというのは悲しくなるものなんだと知る。
 奏大は一歩奏人に近づき、両腕でそっと身体を包んでくれた。あの夜と同じように、温かくて微かにいい匂いがした。優しい手が背中を撫でてくれる。

「強く生きて、奏人くん……きみはいつだって独りじゃないし、きみに悪意を持ってる人なんか周りにいない筈だ」
「……うん」
「あ、でも変な人には気をつけなきゃだめだ、奏人くんは可愛いから」

 奏大の言葉に、伯母がふふふ、と笑った。

「奏大くんみたいな人にね」
「うるさいです涼子さん」

 伯父まで笑う。奏人は悲しいのか面白いのか、わからなくなってきた。 
 奏大が腕を解き、微笑みながら見つめてくる。奏人は、少し前に読んだギリシア神話のアポロンを連想して、あ、と勝手に合点した。アポロンは竪琴を持っていたけれど、芸術の神さまだから、フルートを吹くこともあるかもしれない。
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