緑の風、金の笛

穂祥 舞

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6 じぶんのため、だれかのため

4-②

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 伯母は感心している様子である。彼女は奏人のほうを向いた。

「かなちゃんもリディアはだいぶこなれてきたから、おじさんに楽しんでもらおうって気持ちで弾いてみましょうか」
「楽しんでもらう……」

 奏人は言われてみると、いつも楽譜通りに弾くことしか考えず、聴いている人のことなど意識したことがなかった。伯母は続ける。

「人前でパフォーマンスをしたり、創作を発表したりする人間はね、目立ちたがりで他人が自分のやることに注目して面白がってくれるのが快感なの」

 奏大はそうだね、と微笑した。

「そっか、奏人くんはそういう空気感があまり無いんだ」

 それは良くないことなのだろうか。奏人が不安そうな顔をしたので、奏大が今度は苦笑した。

「ピアノや絵を褒められたり、また聴かせてとか見せてとか言われたら嬉しくない?」
「嬉しいけど……」

 伯母はティーポットから、空になった奏人のカップに紅茶を注いだ。

「かなちゃん、嬉しいと思う気持ちを力にして、もっと喜んでもらおうって図々しくなりなさい……芸術は出す人と受け取る人のコミュニケーションで成り立つの」
「コミュニケーション……」
「私たちは受け取ってくれる人たちにね、満ち足りた気持ちになって欲しくて演奏するの……もちろん相手の受け取り方はいろいろだから、こちらの思いが上手く通じないこともあるわ」

 難しい話をしていると思ったが、伯母や奏大の言うことが全く理解できない訳ではなかった。ピアノの発表会があると、父ははなから観に来ないし、母や先生はなかなか全面的には褒めてくれない。しかし去年、知らないおばあさんから、素敵なモーツァルトだったわ、来年も楽しみにしてるわねと言われた時、嬉しくて泣きそうになった。また学校の美術の先生は、高崎くんの絵はいつも空がきらきらしてるね、と言ってくれて、とても誇らしい気持ちになった。……そんな言葉をもらえる時があるから、ピアノも絵も、一生懸命続けているのかもしれない。

「自分も楽しく、相手も楽しく、だよね」

 奏大が言って奏人の頭を撫でると、伯母は少し意地の悪い笑顔になった。

「奏大くんはこれからは自分が楽しいだけじゃ駄目よ」
「はい、肝に銘じます」
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