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取り戻したうさぎとスキャンダル
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病院は、午後一番がのんびりしていると千種が教えてくれたので、朝に彼を送り出したあと、亜希は掃除や洗濯をしながら、昼までのんびりと過ごした。
数度の行き来を経て、何やら既に、同棲カップルみたいな空気感を醸し出している自分たちが可笑しい。千種は照れたような笑顔で、じゃあ昼に待ってる、と言って出勤して行った。昨夜亜希にみっともない兄弟喧嘩を見せたことが余程悔やまれたのか、ベッドに入るまで元気が無かった彼だが、亜希を抱いて気が晴れたらしかった。それだけでも、自分の存在価値を認識できた気がして、嬉しい亜希である。
軽い昼ご飯を済ませて、薄く化粧をしてから部屋を出る。外は良い天気で、暑いくらいだ。そのせいか公園に人は少なかったが、木々の葉は青々として、太陽の光にきらめいている。ゴールデンウィークが過ぎれば、もう夏のようになるのだろう。
ぬくもりぬいぐるみ病院の自動ドアが開くと、受付の奥にある引き戸から、蔵田が顔を覗かせた。
「あっ住野さん、いらっしゃいませ」
「こんにちは、預けてた子を迎えに来ました」
亜希の言葉に、蔵田ははい、と爽やかに応じて、すぐに奥に引っ込んだ。亜希はももちゃんとの再会を目前にして、少しどきどきする。ももちゃんをここに預けた約1ヶ月、長かったような気もするが、あっという間だったようにも思う。
「お待たせしました、ももちゃんをお返しします」
再び出てきた蔵田の後ろに、主治医である千種の顔が見えた。微笑する千種に抱かれたももちゃんは、両耳をぴんと立て、白い肌をしているのがすぐにわかった。
ももちゃんは、千種に手渡した時に首に巻いていたピンクのリボンと、それより少し淡いサーモンピンクのノースリーブワンピースを身につけていた。亜希はその可愛らしさに、ももちゃんが実はお金持ちの家の子で、今本当の姿を現したのを目にしたような思いになった。
「あの、この服……」
亜希は千種に尋ねる。彼はももちゃんを持ち主に差し出した。
「入院した子には退院祝いに服をプレゼントしています、お気に召しませんか?」
「いえ、とんでもない、凄く可愛くてびっくりして」
白い肌になったけれど、つぶらな黒い目やおちょぼ口は、確かにももちゃんだった。ワンピースの下の胴体は、入院前よりも張りがある。腕のつけ根がしっかりとして、首の後ろの破れもきれいに直され、新品のようだ。
祖母からももちゃんを病院で手渡された時のことは、よく覚えていない。でもきっと、こんな姿だったのだろう。亜希はいつものように、ももちゃんを抱きしめてみた。腕の中に収まる感じは、確かに長年一緒に過ごしてきたぬいぐるみに間違いなかった。
「ありがとうございます……」
自然と口からそんな言葉が出る。同時にじわりと涙が出た。自分の手元に戻ってきてくれたことが、ただただ嬉しかった。
「喜んでいただけて何よりです、これからも大切にしてあげてください」
千種は言った。亜希は微笑む彼を見て、涙を我慢しながら頷く。
その時、受付の奥の引き戸が開いて、医師の格好をした女性が出てきた。
「副院長の宮木です、この度は当院をご利用頂きありがとうございました」
彼女が頭を下げると、蔵田と千種もそれに倣って亜希に深々と礼をした。
「ももちゃんがこれからも、ネットで可愛い姿を見せてくれることを楽しみにしています」
宮木がももちゃんのファンであることは千種から聞いているので、亜希も思わず頭を下げた。
「いつもありがとうございます、素人のスマホ撮りにいいねいただいて」
「いつも楽しみにしてるんですよ……もものかいぬしさんが、ももちゃんの入院中もSNSで何かと当院に触れてくださったおかげで、修理依頼が増加して有り難い限りです」
そんな風に言われて、亜希はひたすら恐縮した。宮木が奥に引っ込むと、蔵田がカルテのコピーをファイルしたものを渡してくれ、治療費を精算した。代金が高いとはもう思わなかった。こんなに幸せな気持ちにしてもらえたのだから。
数度の行き来を経て、何やら既に、同棲カップルみたいな空気感を醸し出している自分たちが可笑しい。千種は照れたような笑顔で、じゃあ昼に待ってる、と言って出勤して行った。昨夜亜希にみっともない兄弟喧嘩を見せたことが余程悔やまれたのか、ベッドに入るまで元気が無かった彼だが、亜希を抱いて気が晴れたらしかった。それだけでも、自分の存在価値を認識できた気がして、嬉しい亜希である。
軽い昼ご飯を済ませて、薄く化粧をしてから部屋を出る。外は良い天気で、暑いくらいだ。そのせいか公園に人は少なかったが、木々の葉は青々として、太陽の光にきらめいている。ゴールデンウィークが過ぎれば、もう夏のようになるのだろう。
ぬくもりぬいぐるみ病院の自動ドアが開くと、受付の奥にある引き戸から、蔵田が顔を覗かせた。
「あっ住野さん、いらっしゃいませ」
「こんにちは、預けてた子を迎えに来ました」
亜希の言葉に、蔵田ははい、と爽やかに応じて、すぐに奥に引っ込んだ。亜希はももちゃんとの再会を目前にして、少しどきどきする。ももちゃんをここに預けた約1ヶ月、長かったような気もするが、あっという間だったようにも思う。
「お待たせしました、ももちゃんをお返しします」
再び出てきた蔵田の後ろに、主治医である千種の顔が見えた。微笑する千種に抱かれたももちゃんは、両耳をぴんと立て、白い肌をしているのがすぐにわかった。
ももちゃんは、千種に手渡した時に首に巻いていたピンクのリボンと、それより少し淡いサーモンピンクのノースリーブワンピースを身につけていた。亜希はその可愛らしさに、ももちゃんが実はお金持ちの家の子で、今本当の姿を現したのを目にしたような思いになった。
「あの、この服……」
亜希は千種に尋ねる。彼はももちゃんを持ち主に差し出した。
「入院した子には退院祝いに服をプレゼントしています、お気に召しませんか?」
「いえ、とんでもない、凄く可愛くてびっくりして」
白い肌になったけれど、つぶらな黒い目やおちょぼ口は、確かにももちゃんだった。ワンピースの下の胴体は、入院前よりも張りがある。腕のつけ根がしっかりとして、首の後ろの破れもきれいに直され、新品のようだ。
祖母からももちゃんを病院で手渡された時のことは、よく覚えていない。でもきっと、こんな姿だったのだろう。亜希はいつものように、ももちゃんを抱きしめてみた。腕の中に収まる感じは、確かに長年一緒に過ごしてきたぬいぐるみに間違いなかった。
「ありがとうございます……」
自然と口からそんな言葉が出る。同時にじわりと涙が出た。自分の手元に戻ってきてくれたことが、ただただ嬉しかった。
「喜んでいただけて何よりです、これからも大切にしてあげてください」
千種は言った。亜希は微笑む彼を見て、涙を我慢しながら頷く。
その時、受付の奥の引き戸が開いて、医師の格好をした女性が出てきた。
「副院長の宮木です、この度は当院をご利用頂きありがとうございました」
彼女が頭を下げると、蔵田と千種もそれに倣って亜希に深々と礼をした。
「ももちゃんがこれからも、ネットで可愛い姿を見せてくれることを楽しみにしています」
宮木がももちゃんのファンであることは千種から聞いているので、亜希も思わず頭を下げた。
「いつもありがとうございます、素人のスマホ撮りにいいねいただいて」
「いつも楽しみにしてるんですよ……もものかいぬしさんが、ももちゃんの入院中もSNSで何かと当院に触れてくださったおかげで、修理依頼が増加して有り難い限りです」
そんな風に言われて、亜希はひたすら恐縮した。宮木が奥に引っ込むと、蔵田がカルテのコピーをファイルしたものを渡してくれ、治療費を精算した。代金が高いとはもう思わなかった。こんなに幸せな気持ちにしてもらえたのだから。
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