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第二章

61話 ルーカスの懸念

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 フィンが退室した後、ルーカスはソファに横になって天井を見上げながら、先程聞いた話について考えていた。
 フィンには『新入生潰し』と言ったが、何だかそれだけではないような気がしたからだ。
 けれど、自分の中で何が引っかかったのか分からず、モヤのようなそれは、いくら考えてもなかなか形にならなかった。
 ジモンの言葉通りに受け取るなら、出自の身分によって優遇されているということだ。
 階級テストによって、学校内では優劣が決まっており、その体制は長年変わってないはず。
 でも本当に?
 そこに綻びができていないと、何故言い切れる?

「それか、権力を使ってテストで不正をし、階級を取得した可能性があるってことだろうか…」

 だが、本当に不正をしていたなら、わざわざ自らバレる可能性があるような発言をするだろうか。
 深読みされないと思ったのか、正真正銘の大馬鹿者なのか。
 それか、不正はしておらず、本当に貴族は平民と人種が違うと信じている、とか?
 悲しいことに、学校の外へ出てしまえば、爵位による身分社会であるのが現実だ。
 ジモンのように、あからさまに爵位による権力を振りかざす人種は一定数いる。
 だが、そんな貴族ばかりではない。
 貴族としての品格を保ち、平民にも分け隔てなく接し、母国や国民のために尽力している貴族だっている。
 それなのに、嫌な貴族の印象の方が強いのか、『貴族はえらそうだ』という目で見られてしまうことが多々あった。

「はぁー、やだやだ。マジで不正問題なら、あいつフィンは、何て引きがいいんだ」

 何かがおかしい、きな臭いと無意識に感じ取って相談に来たのか。
 どんなことにも抜け道はある。
 真面目にテストに取り組む生徒ばかりではない。
 できないなら、その結果を真摯に受け止めればいいものを、自分の実力以上の結果を欲しがる輩は毎年必ずいる。
 あの手この手で出し抜こうとする生徒と、目を光らせ不正を暴き、実力を見極めようとする教師との攻防は繰り返され、終わることがない。
 実は、どのような方法を使ったのか分からないが、前年のテスト終了後に、持ち込み禁止とされていた魔道具を使用した形跡を一人の教師が発見していた。
 その報告を受け、教師たちの間では使用した生徒の特定の必要性や、再テストの実施などの声があがったが、それらは校長によりすべて却下され、テストの結果はそのまま有効とし、その年の階級が生徒に付与された。 
 そして、その件は何故か王族預かりとなり、箝口令が敷かれた後は、その問題がどうなったのか教師たちには情報が回ってきていない。
 ただ、半年前に教師が一人、行方知れずとなっている。前日まで学校に来ていたのに、突然いなくなったのだ。
 王族側がその後も内密に捜査していて、その教師が不正に関与しており、ついにバレて夜逃げでもしたのかと思いきや、住んでいた家と家族はそのままで、本人だけいなくなったらしい。
 家族曰く『学校へ仕事に出かけてから帰ってきていない』ということだった。
 今回の不正問題と関係あるのか分からず、学校側も王族側もその教師の行方を知らないというスタンスなので、家族が捜索願を出した後、どうなったのかルーカスは知らなかった。見つかったという噂は聞かないから、まだ行方不明のままなのだろう。
 不正問題未解決のまま、再び今年の試験が実施される。
 フィン前国王の時代であったなら絶対にそんなことはなかった。
 フィン前国王は普段は寛容だが、冷徹な部分も持ち合わせており、公平性を重視する方だった。
 この学校で不正行為をしようものなら、教師であれ生徒であれ、国王の逆鱗に触れ、天罰が下ると噂があったほどだ。(一部にフィン前国王を神の化身だと崇めていた集団がいたので、そんな噂が立ったとされている)
 だが、その前国王はもういない。
 世代は交代し、現国王の時代となった。
 カリスマ的存在の前王がいなくなって、学校は、この国はどんな風に変わっていってるんだろうか。
 波乱の予感に、ルーカスは大きなため息をつく。

「課外授業だけでも面倒なのに…」

 年に一度だけ行われる課外授業という名の階級テストの準備は、教師たちにより半年前から行われている。
 テストの内容、班分け、当日の段取り、不正防止対策など考えることは山積みだし、宿や食事、テストで使用する魔道具の手配も必要だ。何より絶対欠かせないのは、現地へ赴き安全確認をすることで、広範囲のため複数の教師が異変や危険がないかを何度も確認しに行く。基本、毎年同じ場所で行われるが、危険な魔物が突然住み着く場合もあるので、念には念を入れなければならない。
 そして、それを通常の授業やその他の学校行事と並行して行うので、教師は常に多忙だった。
 フィンから聞いた情報で、更に面倒な予感を抱いてしまい、ルーカスはうんざりしていたが、一つの閃きが頭をよぎる。

「そうだ!あの二人に臨時バイトに来ないか誘ってみよう!」

 ルーカスは勢いよく起き上がると、机まで移動して手紙を書き始めた。
 階級テストは、毎年監督側の教師の他にも、救護隊や緊急時の救出部隊として、外部の者を臨時で雇っている。
 この学校に入学するためには、ある一定の魔法が使えないと入試には合格できない。基本的に魔法を使える生徒ばかりのため、階級テストでも魔法ありきのテストとなっていた。
 そのため、テストが終了しても自力で帰って来られない生徒や負傷者が毎年必ず出て、それに素早く対応するためにも、魔法士団や騎士団からも応援に来てもらっている。
 教師の紹介状があれば、どこにも属さない魔法士でも参加可能であった。
 ちなみに、将来有望な若手を勧誘するための視察として、各団体の皆さまからは実に協力的に参加してもらっている。

「堅物くんは今は無職って言ってたし、フィンがいるから来るだろ。あいつは…仕事が忙しいって速攻で断られそうだな」

 まぁ、出すだけ出してみよう!とルーカスは、数少ない友人二人へと手紙を書いた。
 憂鬱なテストも、あの二人が一緒なら俄然やる気が出てくる。絶対に楽しいはず、とルーカスはいつの間にか鼻歌を歌っていた。
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