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5.光と闇
犬もあるけば
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ペチャ……ペチャ……
上の方から何者かの熱い息遣いに合わせて、ねっとりとした水滴が滴ってくる。
とっても、嫌な予感。
顔をあげたくはないけれど……
状況を把握しない方がより危険度は増すだろう。
おそる、おそる上目遣いで様子を伺う。
怖すぎて、俺の細長い尻尾は丸まって自然と体に巻きついてしまった。
ねえ、泣いてもいいかな……?
どっから出てきたんだ、この大きいのっ
鋭利な牙を持った口から赤い舌がだらりと垂れている。
そして、俺を見下ろすその獣はとても大きく、建物の陰であってもなおその目はギラついたままだ。
う、動けない……
何?俺、食べられちゃうの……?!
てか、大きな犬……というより狼なのかっ?
俺なんか食べても美味しくないから、
お願いだから、見逃してーっ!!
目でそんな感情を訴えてみても、伝わるはずはなかった。
相変わらず、熱い吐息が俺に降りかかる。
うあー、暑い。
この温度ではそのふかふかの毛皮もさぞかし邪魔だろう。
犬は体温調節、大変そうだな。
そろり、そろり……
ほとんど動かないようにして、少しだけ後ずさる。
さっきまで休憩していたおかげなのか、
身体が不思議なほど軽い。
今なら全力で逃げたら、振りきれるかもしれない。
猫を甘く見てはいけない。
身軽な小柄さと柔軟な身体があれば、どこにだって潜り込める。
今こそっ、全力疾走っー!!
俺はその場でクルンと後ろを振り向いて路地裏から出ようと一生懸命走る。
後ろを振り返る余裕なんてない。
だけど、最後に見たあの獣は、
舌を仕舞い込んでお座りの姿勢から腰をあげていた。
今、自分の走る音に合わせて聞こえてくる駆ける足音は奴のものだろう。
身体が大きいから、歩幅も大きい。
俺相手だと、全力で走らなくてもいいってか。
追いつくわけでも無く、一定の距離を保っている。
くっそー、遊ばれてるのか?
こっちは、真面目だっていうのに。
ほんとにムカついてきた。
さっさとクロとも合流しないといけないのに。
おまえに構ってる暇なんか、ないーっ!
大通りに面しているところを出たらすぐに左に曲がろう。
クロが去っていた方角に向かえば、
探しに引き返してくれたクロと出会えるかも。
まあ、あまり期待はできないけど……。
タタッ、タタッ―――
角を曲がれば、道路が広がっているかと思いきや、
待ち受けていたのは人の手だった。
誰かがしゃがみこんで、その両手を広げて待っていた。
急に行く手を阻まれても、そんなすぐには止まれない。
ちょっ、邪魔なんだけどっ――!?
ああっ!!
その手は俺が路地裏から飛び出してくるのが分かっていたかのように、すんなりと俺の脇を掴んで持ち上げる。
急に感じるふわっとした浮遊感。
そして、今は聞きたくない声。
「はい、奈緒。捕獲完了ー。
お散歩は楽しかった?
探すの苦労したんだよ。
奈緒は僕のお願いも無視しちゃうし。
傷ついたんだから、なぐさめてよね。」
何故、ここにいるのかっ。
どうして見つかったんだ!?
頭の中はハテナマークでいっぱいだ。
このまま家に連れ戻されれば、振り出しに戻りかねない。
それに警備も今まで以上に厳重に……?
そんなの嫌だ―――っ!!
誰か、タスケテ……。
「僕のバディも負けてないでしょ?」
「ワンっ」
抱えられた俺の下にはさっきの犬か狼なのか判断のつかない総のバディが鎮座していた。
こいつの主人への忠犬っぷり……。
俺なんかより、こいつに構ってあげればいいのに。
―――リードは彼の方がお似合い―――
上の方から何者かの熱い息遣いに合わせて、ねっとりとした水滴が滴ってくる。
とっても、嫌な予感。
顔をあげたくはないけれど……
状況を把握しない方がより危険度は増すだろう。
おそる、おそる上目遣いで様子を伺う。
怖すぎて、俺の細長い尻尾は丸まって自然と体に巻きついてしまった。
ねえ、泣いてもいいかな……?
どっから出てきたんだ、この大きいのっ
鋭利な牙を持った口から赤い舌がだらりと垂れている。
そして、俺を見下ろすその獣はとても大きく、建物の陰であってもなおその目はギラついたままだ。
う、動けない……
何?俺、食べられちゃうの……?!
てか、大きな犬……というより狼なのかっ?
俺なんか食べても美味しくないから、
お願いだから、見逃してーっ!!
目でそんな感情を訴えてみても、伝わるはずはなかった。
相変わらず、熱い吐息が俺に降りかかる。
うあー、暑い。
この温度ではそのふかふかの毛皮もさぞかし邪魔だろう。
犬は体温調節、大変そうだな。
そろり、そろり……
ほとんど動かないようにして、少しだけ後ずさる。
さっきまで休憩していたおかげなのか、
身体が不思議なほど軽い。
今なら全力で逃げたら、振りきれるかもしれない。
猫を甘く見てはいけない。
身軽な小柄さと柔軟な身体があれば、どこにだって潜り込める。
今こそっ、全力疾走っー!!
俺はその場でクルンと後ろを振り向いて路地裏から出ようと一生懸命走る。
後ろを振り返る余裕なんてない。
だけど、最後に見たあの獣は、
舌を仕舞い込んでお座りの姿勢から腰をあげていた。
今、自分の走る音に合わせて聞こえてくる駆ける足音は奴のものだろう。
身体が大きいから、歩幅も大きい。
俺相手だと、全力で走らなくてもいいってか。
追いつくわけでも無く、一定の距離を保っている。
くっそー、遊ばれてるのか?
こっちは、真面目だっていうのに。
ほんとにムカついてきた。
さっさとクロとも合流しないといけないのに。
おまえに構ってる暇なんか、ないーっ!
大通りに面しているところを出たらすぐに左に曲がろう。
クロが去っていた方角に向かえば、
探しに引き返してくれたクロと出会えるかも。
まあ、あまり期待はできないけど……。
タタッ、タタッ―――
角を曲がれば、道路が広がっているかと思いきや、
待ち受けていたのは人の手だった。
誰かがしゃがみこんで、その両手を広げて待っていた。
急に行く手を阻まれても、そんなすぐには止まれない。
ちょっ、邪魔なんだけどっ――!?
ああっ!!
その手は俺が路地裏から飛び出してくるのが分かっていたかのように、すんなりと俺の脇を掴んで持ち上げる。
急に感じるふわっとした浮遊感。
そして、今は聞きたくない声。
「はい、奈緒。捕獲完了ー。
お散歩は楽しかった?
探すの苦労したんだよ。
奈緒は僕のお願いも無視しちゃうし。
傷ついたんだから、なぐさめてよね。」
何故、ここにいるのかっ。
どうして見つかったんだ!?
頭の中はハテナマークでいっぱいだ。
このまま家に連れ戻されれば、振り出しに戻りかねない。
それに警備も今まで以上に厳重に……?
そんなの嫌だ―――っ!!
誰か、タスケテ……。
「僕のバディも負けてないでしょ?」
「ワンっ」
抱えられた俺の下にはさっきの犬か狼なのか判断のつかない総のバディが鎮座していた。
こいつの主人への忠犬っぷり……。
俺なんかより、こいつに構ってあげればいいのに。
―――リードは彼の方がお似合い―――
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