-にゃんでどうしてこうなった世界-

もちもちもふぃ

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2.動き出す歯車

しゃべらないで

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人は死に直面すると、スローモーションのように感じるというのだけれど、本当のようだった。
もうだめかと、俺は目を瞑った後、バサッという音とともに強風を感じる。
いくら待っても、俺の身に押しつぶされるような衝撃はやってこない。

その代わりに何故か風を切るような音と定期的に翼のはばたく音が聞こえる。
俺は少し目を開いた。
地面が遥か遠くに見えて、身体が硬直する。

「ひぇっ――」

「奈緒様、どうか暴れないでくださいね。」

ヒデトは、そういって俺と銀髪の少年を両脇に抱えながら、近くの10階以上はある高層住宅の屋上へと向かう。
俺は浮遊感を感じつつ、落ちないようにじっとする事に徹する。
舌をかまないように、喋ることも控えた。

銀髪の少年は、意識を失っているのかぐったりとしている。
ヒデトは屋上の落下防止のために備えられている隔壁を難なく乗り越え、地に足を付けた。
いつでも動ける為か、茶色の大きな翼を背中で折りたたんで備えている。

ヒデトは奈緒の腰からゆっくりと手を離すが、奈緒は足に力が入らずしゃがみこんでしまう。
同様に、少年も傍に横たえる。
彼は大丈夫だろうか。
俺は傍に這いよって、彼の頭を膝に抱える。

「おいっ、大丈夫か……?」

「安心してください、息はされています。」

「……よかったー。」

ヒデトはあたりを警戒している。

「奈緒様、彼を頼みます。」

そういって、どこに隠し持っていたのか、
懐から鋭利なナイフを取り出すと、物陰へと投げ入れる。
突き刺さるような音を立てて、潜む誰かへと命中した。
ナイフに毒でも塗ってあったのか、異様な苦しみの声を挙げながら、
黒いコートで身体を覆った不詳の男は、もがき苦しみながら倒れる。
まだ死には至ってないようで、ヒデトは物体操作能力で
俺たちと距離のあるその男を鎖で拘束した。

それと同時に聞き覚えのある声が遠くから聞こえてくる。

「ヒデト、よくやった。」

ミナトは、身体強化を使って隣のビルから軽々と飛び乗ってきた。
奈緒の方を軽く一瞥して奈緒の無事を確認してから男の方へ向かう。

「おまえ、よくもまあ、俺のものに手を出そうとしたな……」

奈緒の方から、ミナトの顔を見る事は出来ないが、
その背中から恐怖を感じるほどの怒気を感じる。

「どこのものだ……」

男はミナトの覇気を受けてもなお、動揺しない。
既に毒は身体全身にまわっているようで、唇は紫色になり、口の端から血液の混じった涎を垂らしている。
それでも、男は笑み顔に浮かべながら、掠れた声で言葉を紡ぐ。

「……ふ、ははっ。情報は既に伝わった。全ては主様のために。」

「何を――」

「ミナト様、危ないっ――」

ヒデトが叫び、ミナトはその場からすかさず飛び退き距離をとる。
その瞬間、男は大きな青色の炎に包まれて人の形を留めることなく灰へと還った。

「くそっ……」

ミナトは悔しげに呟く。
風は優しげに吹き、その灰をさらっていった。

「んぅ……」

奈緒は、膝上に少年が身じろいだのを感じると、その子に視線をやる。
銀髪の少年は、ゆっくりと瞼を開ける。その赤色の揺れた瞳が奈緒の姿を捉えた。
そして小声で何か呟いて、また意識を閉ざしてしまった。
奈緒はその声を聞き取ることができなかったけれど、その瞳の中には怯えもなかったし、心なしかお礼を言われていたような気もした。

彼から目を離し、あたりを見渡すと、ヒデトはミナトに跪き指示を受けていた。
その後、ヒデトは奈緒の方に歩いてきて、銀髪の少年をその腕に抱いた。

「では、奈緒様またあとで。」

そう言い放ってから、翼を広げて銀髪の彼と一緒に飛び去って行く。
「あっ――」
ヒデトは振り返りもせずに、その姿を街中へと消し去っていった。

俺は街中の安寧と彼の無事を祈るしかなかった。





――その場に残るは二人だけ――
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