上 下
12 / 80
2.動き出す歯車

しゃべらないで

しおりを挟む
人は死に直面すると、スローモーションのように感じるというのだけれど、本当のようだった。
もうだめかと、俺は目を瞑った後、バサッという音とともに強風を感じる。
いくら待っても、俺の身に押しつぶされるような衝撃はやってこない。

その代わりに何故か風を切るような音と定期的に翼のはばたく音が聞こえる。
俺は少し目を開いた。
地面が遥か遠くに見えて、身体が硬直する。

「ひぇっ――」

「奈緒様、どうか暴れないでくださいね。」

ヒデトは、そういって俺と銀髪の少年を両脇に抱えながら、近くの10階以上はある高層住宅の屋上へと向かう。
俺は浮遊感を感じつつ、落ちないようにじっとする事に徹する。
舌をかまないように、喋ることも控えた。

銀髪の少年は、意識を失っているのかぐったりとしている。
ヒデトは屋上の落下防止のために備えられている隔壁を難なく乗り越え、地に足を付けた。
いつでも動ける為か、茶色の大きな翼を背中で折りたたんで備えている。

ヒデトは奈緒の腰からゆっくりと手を離すが、奈緒は足に力が入らずしゃがみこんでしまう。
同様に、少年も傍に横たえる。
彼は大丈夫だろうか。
俺は傍に這いよって、彼の頭を膝に抱える。

「おいっ、大丈夫か……?」

「安心してください、息はされています。」

「……よかったー。」

ヒデトはあたりを警戒している。

「奈緒様、彼を頼みます。」

そういって、どこに隠し持っていたのか、
懐から鋭利なナイフを取り出すと、物陰へと投げ入れる。
突き刺さるような音を立てて、潜む誰かへと命中した。
ナイフに毒でも塗ってあったのか、異様な苦しみの声を挙げながら、
黒いコートで身体を覆った不詳の男は、もがき苦しみながら倒れる。
まだ死には至ってないようで、ヒデトは物体操作能力で
俺たちと距離のあるその男を鎖で拘束した。

それと同時に聞き覚えのある声が遠くから聞こえてくる。

「ヒデト、よくやった。」

ミナトは、身体強化を使って隣のビルから軽々と飛び乗ってきた。
奈緒の方を軽く一瞥して奈緒の無事を確認してから男の方へ向かう。

「おまえ、よくもまあ、俺のものに手を出そうとしたな……」

奈緒の方から、ミナトの顔を見る事は出来ないが、
その背中から恐怖を感じるほどの怒気を感じる。

「どこのものだ……」

男はミナトの覇気を受けてもなお、動揺しない。
既に毒は身体全身にまわっているようで、唇は紫色になり、口の端から血液の混じった涎を垂らしている。
それでも、男は笑み顔に浮かべながら、掠れた声で言葉を紡ぐ。

「……ふ、ははっ。情報は既に伝わった。全ては主様のために。」

「何を――」

「ミナト様、危ないっ――」

ヒデトが叫び、ミナトはその場からすかさず飛び退き距離をとる。
その瞬間、男は大きな青色の炎に包まれて人の形を留めることなく灰へと還った。

「くそっ……」

ミナトは悔しげに呟く。
風は優しげに吹き、その灰をさらっていった。

「んぅ……」

奈緒は、膝上に少年が身じろいだのを感じると、その子に視線をやる。
銀髪の少年は、ゆっくりと瞼を開ける。その赤色の揺れた瞳が奈緒の姿を捉えた。
そして小声で何か呟いて、また意識を閉ざしてしまった。
奈緒はその声を聞き取ることができなかったけれど、その瞳の中には怯えもなかったし、心なしかお礼を言われていたような気もした。

彼から目を離し、あたりを見渡すと、ヒデトはミナトに跪き指示を受けていた。
その後、ヒデトは奈緒の方に歩いてきて、銀髪の少年をその腕に抱いた。

「では、奈緒様またあとで。」

そう言い放ってから、翼を広げて銀髪の彼と一緒に飛び去って行く。
「あっ――」
ヒデトは振り返りもせずに、その姿を街中へと消し去っていった。

俺は街中の安寧と彼の無事を祈るしかなかった。





――その場に残るは二人だけ――
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

催眠アプリ(???)

あずき
BL
俺の性癖を詰め込んだバカみたいな小説です() 暖かい目で見てね☆(((殴殴殴

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

兄が届けてくれたのは

くすのき伶
BL
海の見える宿にやってきたハル(29)。そこでタカ(31)という男と出会います。タカは、ある目的があってこの地にやってきました。 話が進むにつれ分かってくるハルとタカの意外な共通点、そしてハルの兄が届けてくれたもの。それは、決して良いものだけではありませんでした。 ハルの過去や兄の過去、複雑な人間関係や感情が良くも悪くも絡み合います。 ハルのいまの苦しみに影響を与えていること、そしてハルの兄が遺したものとタカに見せたもの。 ハルは知らなかった真実を次々と知り、そしてハルとタカは互いに苦しみもがきます。己の複雑な感情に押しつぶされそうにもなります。 でも、そこには確かな愛がちゃんと存在しています。 ----------- シリアスで重めの人間ドラマですが、霊能など不思議な要素も含まれます。メインの2人はともに社会人です。 BLとしていますが、前半はラブ要素ゼロです。この先も現時点ではキスや抱擁はあっても過激な描写を描く予定はありません。家族や女性(元カノ)も登場します。 人間の複雑な関係や心情を書きたいと思ってます。 ここまで読んでくださりありがとうございます。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

処理中です...