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一学期

始業式

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 春休みが終わり、登校してまず最初に確認するのは自分のクラスだ。クラス替えが行われ、友達と一緒になれたか、担任の先生のあたりはずれで一喜一憂する。

「遥じゃないか。クラスみただろ? 久しぶりに一緒のクラスで嬉しいよ。せっかくだし、一緒に行くか」
「あ、あぁ、仁か。俺も嬉しいよ。そ、そうだな」

 160センチの遥に対して、仁は170センチと10センチの差をつけ、頭髪は校則通りワックスもつけず整えられている。もちろん学ランも着崩す事無くきっちりと全てのボタンを止めている。しかし、全体的に野暮ったい感じもダサい感じもないのは純粋に清潔感と顔の良さだろう。

「なんだ、歯切れが悪いな……あぁ……順ならもう教室だろう。相変わらず不良っぽい格好をしているがいままで皆勤賞なんだろう? 今まで別のクラスだったから知らなかったがあいつもようやく心を入れ替えたか」
「今年は順も同じクラスってのは知ってるよな?」
「もちろんだ。結局あいつは3年間、遥と同じクラスになるわけだな」

 仁は遥に歩くペースを合わせながら教室へ向かっていく。3年生の教室は全て2階にあり、何も話さなくても気にならない程度にはあっという間に着いてしまった。
 教室の扉を開けると明らかに生徒が寄り付いていない異質な空間がぽっかりと空いていた。その空間の真ん中には、制服のボタンを全て開け、ワイシャツのボタンもそこそこにド派手な色のインナーを透かしている180cmを超えるデカいのがいた。髪もワックスで遊ばせまくりオシャレなのか寝癖なのか少し分かりづらいぐらいにぐねんぐねんしている。不機嫌そうにまわりを睨みつけていたが、遥たちが目に入るとも獲物を見つけた肉食獣のような表情になる。
 まわりから『ひっ』とか『ひぇっ』とか聞こえてくるが遥と仁は気にせずに肉食獣へと進んでいく。

「おそかったじゃねーか! みろ、凄い奇跡だぞ。全員席が近い!」
「五十音順だから割と近くなるのは必然なんだがな……なんだこれは」
「なんだろうねぇ」

 教室の席は全部で35席。1列7人で5列ある。校庭が見える窓際の黒板に近いところから五十音順に席が割り振られているのだが、浅野、上田、上田、江崎、割田、桜野、冴木と続いている。後ろの方の席で仲良しが固まったのだ。奇跡と言いたいのはよく分かる。そして、桜野こと遥が五十音順を無視して順と仁に挟まれている。

「こんなことあるんだな」
「先生方もお疲れなんだろう……」
「そ、うだねー」

 しかし、遥は知っていた……昨日まではその席には四島が来るはずだったのだ。なぜ知っているか。ドドが話したからである。そして、冴木に変わったのもまたドドの仕業である。

『なんか、冴木様だけ別のクラスになるっぽいので入れ替えときますね! 大丈夫大丈夫。遥様は親友と恋愛関係にはならないんですもんね! なら同じクラスになれる方が思い出もつくれるし悪いことじゃないでしょ? 止めるなら今のうちですよ? 1人の宇宙人の出世を阻む覚悟がおありならどうぞどうぞ!!!』

 と、押し切られてしまった。確かに遥は親友2人と絶っっっっっ対に恋愛なんてするつもりは無い。しかし、ここまでの無理を通すとは思ってもみなかった。

「でも、今年も遥が同じクラスでオレは嬉しいぜ。遥と遊ぶためだけに学校に来てたようなもんだし」
「……順、お前が今まで無遅刻無欠席だったのは心を入れ替えたとかではなく」
「遥と1分でも長く遊ぶためだ!」
「順、今年は受験だし俺も毎日は遊んでられないからね?」
「遥は去年の学年末テストの結果よかったと聞いたぞ。この調子で行けば大学のレベルを上げてもいいんじゃないか?」
「仁と同じところいきたいけどレベルは上げられないなぁ」
「はるかぁ! オレを置いていかないでくれよー!」
「やめろよー!」

 順が大きな体で遥を抱きしめにかかる。いつも通りのいつものじゃれつきだが……遥の頭に昨日のドドの言葉がリフレインする。

『あ、そうそう。もしも恋愛的好感度が100以上になった場合ですが、行動的な人なら我慢できずにプロポーズをしてくるかも知れません。僕としてはそれで構わないんですが、親友を続けたいなら頑張ってください』

 俺はこの1年、2人の好感度をこれ以上稼がないよう……むしろ下げるように頑張るのだ! 遥はそう心に違うのだった。
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