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第37話 産まれし時は誰しもがただの童
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佐藤コーチはグラウンド整備そっちのけで祐輝に話す。
「お前の生い立ちも小学時代の野球歴も詳しくは知らんがな。 野球楽しくなかっただろ?」
「えっ!?」
まるで占い師かの様に祐輝の人生を言い当てた。
驚いた祐輝は目を見開いて言葉を失う。
うなずきながら佐藤コーチはマウンドの土を足でいじりながら口を開く。
「越田はなあ。 野球が好きなんだよ。 そりゃずっと昔からな。」
「俺はナインズに入ってからですね。」
「そう。 お前は野球が楽しくなった。 ピッチャーになって活躍する楽しさを知った。」
「越田はそれより前からですか?」
佐藤コーチはうなずいた。
野球をやってきた時間は恐らく越田と変わらない。
何が越田との差なのかは野球を愛した時間だった。
それはもはや取り返しのつかない時間だ。
祐輝はうつむいた。
「小学時代がどれだけつまらなくても今が楽しいなら頑張らんかい。 越田の背中を追いかけてみろ。」
「はい。」
「うちの雄太なんて家に変えるとゲームばっかりだ。 お前を見習ってほしいもんだ。」
そして高笑いをしながら佐藤コーチはベンチに戻っていった。
タバコを吸ってから帰りの支度を始めている。
祐輝はせっかく綺麗に整備したのにもう一度ピッチャーマウンドに立った。
そこで目をつぶって越田の事を思い出す。
あの強烈なスイングに物凄い快音。
あれが同じ1年生なのか。
「オラッ!! 早く帰らんかい!!」
「あ、ああすいません!」
「はっはっは!! 怪童だって最初はただの童だぞ。 お前はまだ童だ。 化けるには時間はたっぷりあるぞ。 頑張らんかい!」
佐藤コーチは自転車に乗って家に帰っていった。
大きな体で自転車に乗る姿はまるでサーカス団の熊の様だ。
その滑稽な姿に祐輝は吹き出した。
そして一礼した。
「野球を好きにさせてくださって。 本当にありがとうございます。」
「あー祐輝君?」
「ミズキ!?」
「こんな所で何してるの?」
「俺のチームはここが本拠地なんだよ。」
「へー!! 土日はここで練習しているの?」
「まあね。」
偶然通りかかったミズキは頬を赤くして喜んでいる。
自転車のカゴに入っている買い物袋は今日の夕飯の材料か?
祐輝はチラッと見るとミズキは恥ずかしそうにしていた。
「み、見ないでよ・・・」
「長ネギしか見えなかった。」
「材料だけじゃ今晩何かわからないか。」
「俺は家庭科の授業嫌いだからな。」
「こ、今度さ。 家庭科の調理実習同じ班になったら作ってあげようか?」
「マジで? 俺焦がして食えなかった・・・」
恥ずかしそうに笑うミズキの純粋な笑顔を見ても祐輝は気が付かなかった。
ミズキは小学生の頃から祐輝の事が好きなんだが、本人は越田の事で頭がいっぱいだった。
気がつくと先輩も健太達も帰っていた。
グラウンドから出てベンチに座るとミズキも自転車から降りて隣りに座った。
「帰らないの?」
「あのよ。 あるやつの事が頭から離れないんだよ。」
「えっ!?」
「俺がいくら頑張ってもダメなんだ・・・」
「そ、そうなの?」
「俺は抑えられない・・・」
「おさえって・・・え、ええ!?」
顔を真っ赤にするミズキだが祐輝の言う「抑えられない」は越田をアウトにできないという意味だがミズキには違う意味に聞こえている。
大きなため息をついて黙り込む祐輝を見てミズキは動揺が隠せずにいる。
下を向いて自分の胸元を見ていた。
「必ず抑える。」
「む、無理しなくてもいいんだよ・・・?」
「いや。 抑えなくちゃダメだ。」
「え、ま、まあそっか・・・」
「じゃあ今度家庭科の授業頼むわ。 じゃあな!」
祐輝も自転車に乗って帰った。
その場に残ったミズキはふうっと息を吐いた。
服を引っ張って胸を覗き込んでいる。
「やっぱり男の子ってそうなんだ・・・」
童が化けるのはいつになるのか。
ミズキの思いは届くのか・・・
「お前の生い立ちも小学時代の野球歴も詳しくは知らんがな。 野球楽しくなかっただろ?」
「えっ!?」
まるで占い師かの様に祐輝の人生を言い当てた。
驚いた祐輝は目を見開いて言葉を失う。
うなずきながら佐藤コーチはマウンドの土を足でいじりながら口を開く。
「越田はなあ。 野球が好きなんだよ。 そりゃずっと昔からな。」
「俺はナインズに入ってからですね。」
「そう。 お前は野球が楽しくなった。 ピッチャーになって活躍する楽しさを知った。」
「越田はそれより前からですか?」
佐藤コーチはうなずいた。
野球をやってきた時間は恐らく越田と変わらない。
何が越田との差なのかは野球を愛した時間だった。
それはもはや取り返しのつかない時間だ。
祐輝はうつむいた。
「小学時代がどれだけつまらなくても今が楽しいなら頑張らんかい。 越田の背中を追いかけてみろ。」
「はい。」
「うちの雄太なんて家に変えるとゲームばっかりだ。 お前を見習ってほしいもんだ。」
そして高笑いをしながら佐藤コーチはベンチに戻っていった。
タバコを吸ってから帰りの支度を始めている。
祐輝はせっかく綺麗に整備したのにもう一度ピッチャーマウンドに立った。
そこで目をつぶって越田の事を思い出す。
あの強烈なスイングに物凄い快音。
あれが同じ1年生なのか。
「オラッ!! 早く帰らんかい!!」
「あ、ああすいません!」
「はっはっは!! 怪童だって最初はただの童だぞ。 お前はまだ童だ。 化けるには時間はたっぷりあるぞ。 頑張らんかい!」
佐藤コーチは自転車に乗って家に帰っていった。
大きな体で自転車に乗る姿はまるでサーカス団の熊の様だ。
その滑稽な姿に祐輝は吹き出した。
そして一礼した。
「野球を好きにさせてくださって。 本当にありがとうございます。」
「あー祐輝君?」
「ミズキ!?」
「こんな所で何してるの?」
「俺のチームはここが本拠地なんだよ。」
「へー!! 土日はここで練習しているの?」
「まあね。」
偶然通りかかったミズキは頬を赤くして喜んでいる。
自転車のカゴに入っている買い物袋は今日の夕飯の材料か?
祐輝はチラッと見るとミズキは恥ずかしそうにしていた。
「み、見ないでよ・・・」
「長ネギしか見えなかった。」
「材料だけじゃ今晩何かわからないか。」
「俺は家庭科の授業嫌いだからな。」
「こ、今度さ。 家庭科の調理実習同じ班になったら作ってあげようか?」
「マジで? 俺焦がして食えなかった・・・」
恥ずかしそうに笑うミズキの純粋な笑顔を見ても祐輝は気が付かなかった。
ミズキは小学生の頃から祐輝の事が好きなんだが、本人は越田の事で頭がいっぱいだった。
気がつくと先輩も健太達も帰っていた。
グラウンドから出てベンチに座るとミズキも自転車から降りて隣りに座った。
「帰らないの?」
「あのよ。 あるやつの事が頭から離れないんだよ。」
「えっ!?」
「俺がいくら頑張ってもダメなんだ・・・」
「そ、そうなの?」
「俺は抑えられない・・・」
「おさえって・・・え、ええ!?」
顔を真っ赤にするミズキだが祐輝の言う「抑えられない」は越田をアウトにできないという意味だがミズキには違う意味に聞こえている。
大きなため息をついて黙り込む祐輝を見てミズキは動揺が隠せずにいる。
下を向いて自分の胸元を見ていた。
「必ず抑える。」
「む、無理しなくてもいいんだよ・・・?」
「いや。 抑えなくちゃダメだ。」
「え、ま、まあそっか・・・」
「じゃあ今度家庭科の授業頼むわ。 じゃあな!」
祐輝も自転車に乗って帰った。
その場に残ったミズキはふうっと息を吐いた。
服を引っ張って胸を覗き込んでいる。
「やっぱり男の子ってそうなんだ・・・」
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ミズキの思いは届くのか・・・
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