【完結】彼女が本当に得難い人だったなんて、後から気づいたってもう遅いんだよ。

すだもみぢ

文字の大きさ
5 / 7

第五話 過去のこと

しおりを挟む

 俺はゆっくりとビールを口にしながら、昔のことを振り返る。
 今からもう五年くらい前になるだろうか。
 あとはプロポーズだけというような結婚まで秒読み段階で、付き合っていた篠原から唐突に会社が危ないと言われた亜里沙は、途方に暮れて自分と早苗に相談をしにきた。

 あれは夏の日の夕暮れ時だった。

 俺の住むワンルームの部屋で、暑いねえ、外に出たくないねえと二人でだらだら寝転んで過ごしていた平和な土曜日だった。
 そこに電話から流れた緊迫した亜里沙の声に二人して跳ね起き、身支度を始めたのを覚えている。
 様子がおかしい亜里沙をここまで来させるより、自分たちが動いた方が安全だと思い、早苗に亜里沙のいる場所を聞き出させてその場に急行して。
 そこで篠原の会社が危なくなって、当分結婚のことも考えられないと言われたと亜里沙が取り乱していたのだ。

「結婚のことはとりあえずいいの。でも今まで俺の仕事の事に口を出すなと言っていたのに、どうして急にそんなことを言い出すの? 篠原くんが私に何がしてほしいのかわからなくて……」
「はぁ? 篠原の会社が危ない?」

 とりあえず目についたところにあった喫茶店に入る。早苗を亜里沙の隣に座らせて自分は二人の向かい側に陣取りメニューも見ずにアイスコーヒーを2つにアイスティーを1つオーダーする。ここに篠原がいたら、アイスコーヒーが3つだっただろう。
 大学時代はそれを察するくらい親しくしていた仲だったのに、この場に彼がいないのが当たり前になってきている事実が残念だった。
 
「あいつ、SNSでは元気そうだったぞ?」
「啓介くん、篠原くんと繋がってたの?」
「うん」

 当時、SNSを宣伝や仕事に使う実業家も増えてきていて、篠原も使っていた。しかしそういう対外的なアカウントとは別に個人的なことを流すアカウントも篠原は持っていた。いわゆる裏アカウントなるものだ。
 学生時代にそのアカウントを友人に教えていたことなど、篠原は覚えていなかったのかもしれない。
 その頃はもう実際に篠原と会うことはなかったが、元気そうだな、と生存確認をするくらいの距離にはまだいたのだ。自分の方は。
 
「ほんとに会社危ないんかなー。あいつ今朝とかも、朝飯のアップしてたぞ」

 これが仕事に使っているアカウントで見せかけだけでも平常心をアピールしたいというのならわかるが、誰も見てないような個人のアカウント。そこで演技をする必要などどこにあるというのだろうか。

「なんかおかしいよ。篠原の会社の経理状態とかって調べられない?」
「取引先とかならわかると思う。あと、同じ業種でも噂でそういうのって流れるものだからわかるもんだよ」

 俺と早苗が言うと亜里沙が大きく頷いて自分のケータイを取り出して立ち上がる。

「それなら心当たりあるわ。父に頼めばなんとかなるかもしれない……ちょっと店の外で電話してくる」
 
 その時はまだ、亜里沙の親がどういう人だったかなんて自分も早苗も知らなかった。だから亜里沙の親はたまたま篠原と同業者だったのかな、みたいに二人して呑気にしていて。

 ――そして数時間も経たないうちに篠原の嘘が発覚した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

友人の結婚式で友人兄嫁がスピーチしてくれたのだけど修羅場だった

海林檎
恋愛
え·····こんな時代錯誤の家まだあったんだ····? 友人の家はまさに嫁は義実家の家政婦と言った風潮の生きた化石でガチで引いた上での修羅場展開になった話を書きます·····(((((´°ω°`*))))))

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

【完結】夜に咲く花

すだもみぢ
現代文学
タワーマンションの最上階にある展望台。ショウコとアズサとレイはいつもそこで出会う。 お互いのことを深く訊いたりせず、暗闇の中で会うだけのそれが暗黙のルールだ。 だからお互いに知っていることはわずかなことだけ。 普通すぎるショウコに比べて、アズサとレイは神様から特別を与えられている存在だった。 アズサは優秀さで。レイは儚い美しさで。 しかし二人はショウコに言うのだ。「貴方はそのままでいて」と。 ショウコは夢を持つこともできずにいるのに。 自分はこのまま枯れるだけの存在だというのに、なぜ二人はそんなことを言うのだろうか。 そんなある日、レイが二人の側からいなくなった。 そして、ショウコも引っ越すことを親から告げられて……。 大人になる前の少女の気持ちを書いた作品です。 6/1 現代文学ジャンル1位ありがとうございました<(_ _)>

フッてくれてありがとう

nanahi
恋愛
【25th Anniversary CUP】にて、最終ランキング3位に入りました。投票してくださった皆様、読んでくださった皆様、ありがとうございました! 「子どもができたんだ」 ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。 「誰の」 私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。 でも私は知っている。 大学生時代の元カノだ。 「じゃあ。元気で」 彼からは謝罪の一言さえなかった。 下を向き、私はひたすら涙を流した。 それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。 過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──

処理中です...