婚約破棄された公爵令嬢のお嬢様がいい人すぎて悪女になれないようなので異世界から来た私が代わりにざまぁしていいですか?

すだもみぢ

文字の大きさ
38 / 48
第二章 出会い

第13話 リベラルタスとお嬢様2

しおりを挟む
 そろそろシシリーの元に戻るので、とお嬢様の前を辞して、リベラルタスと二人で戻る。
 階段を下りながら、隣のリベラルタスに話しかけた。

「本当は、別の狙いがあったんでしょう?」
「はい?」
「あんな内容、私から伝えればいいだけじゃない。わざわざお嬢様に直接言う必要ないわよ」
「……リリアンヌさんを通じたら、リリアンヌさんの希望がまじるから、ちゃんとご本人の意向を聞いてこいと言われました」

 うぬぬ、よくわかっているな。
 優しいお嬢様は、私がどうしても、と言ったら絶対その通りにするだろうし、正直、私が仲介だったらお嬢様の意見なんか聞かずに即OKしていただろう。
 セイラ先生はどうして会ったこともないお嬢様と、そして私との関係をそんなにちゃんと把握しているのかしらとも思うが、そういえば、側妃の問題で、私が難色を示していたのを見ているのだ。
 それで、私が独断専行なところがあるのに気づいて、大人なりの方法でサポートしようと思ったのかもしれない。

 そう思うと……なんとなく、嬉しくなってしまった。

 いや、本当なら喜んではいけないのかもしれない。私がないがしろにされているのかもしれないのだから。しかし、私だって完璧な人間でないし。いろいろな人がいろいろな考えのもとで、お嬢様と付き合ってくれた方が、お嬢様には絶対にいいはずだ。
 メリュジーヌお嬢様の未来を、私だけでなく、自分の意思からもセイラ先生は応援してくれようとしているのだとわかったら、やはり嬉しいではないか。

 私がなるほど、とうなずいていたら、リベラルタスが他にも、と続ける。

「あと、人柄と手を見てこいと言われました」
「人柄はともかく、手って?」
「あの縫物の技術を持つ人ですからね。うちの店の者はみんな、メリュジーヌ様がどんな神の手をしているのか興味津々なんですよ」

 単なるオタク的興味だったか……。

「じゃあメリュジーヌお嬢様に対して、なんか思った?」
「……そうですね、縫いタコもありますが、働く人の手をされてましたね。水仕事もされているみたいですか。あと目もよさそうですよね。あんな緻密な作業をあんなに細い体でどうやって続けているのかと興味深いです」

 そういうことを聞いているわけではないのだけれど。リベラルタスは、お嬢様を公爵令嬢という視点ではなく、自分の店にカードを卸している雇い人という視点でしか見ていないようで気が抜けた。

「そうじゃなくて、可愛いなぁとか綺麗だなぁ、とかは?」
「ええ? 公爵令嬢を相手に、そのような恐れ多いこと考えられませんよ」

 その公爵令嬢に、労働者のような視点で感想を言っているのは恐れ多くないのだろうか。
 そういってはいるが、本当のところは、あまり顔を見てなかったようだ。
 前も思ったけれど、この人、意外とシャイだから。
 
「ああ、優しそうなお方ではありますね」

 困ったようなリベラルタスは、なんとか絞り出したような褒め言葉をひねり出す。
 確かにお嬢様は優しい。優しすぎるから困る。
 
「まぁいいわ。お嬢様の将来が傷つくような余計なことは言って回らないでね」
「リリアンヌさんが危惧されていたのは、メリュジーヌお嬢様がご家族から虐待を受けているということに関してでしょうか」

 清潔にはしていても、洗いざらしで古い布地だとか、いくら細部にこだわっていてもシーズン遅れの型のドレスを着ていたとかは、彼にはすぐわかっただろう。
 
「そうよ」

 あんな部屋に住んでる公爵令嬢に対して、変だと思わない人がいたら、そちらの方がどうかしている。

「お約束いたします。絶対に他の人にメリュジーヌ様に対する個人的なことを言うことはしませんが……もし困ったことがあったら言って下さいね。できる限り応援しますので」

 にこやかなリベラルタスに、微笑み返す。
 私たちに同情的なのは助かるが、今は、やってもらうことがあまりない。
 しかし、あ、と思いだした。

「ホセおじさん用に借りた服を用意しないといけないから、選んでおいてくれる? 私が支払いをするわ。それと、貴方にもお詫びをしないとね。お茶かけちゃったし」
「わかりました。庭師の方が使いやすいものを選ばせていただきます。ですが、私へのお詫びは不要ですよ?」
「それは私が困るの」

 ちょっと図書室に連れて行っただけで、リベラルタスは私に高価なインク壺までくれたではないか。
 かけた迷惑ばかりがたまると、こちらの心の負担が大きくなって困ってしまう。
 何か考えておこうと思ったころ、部屋についた。

 シシリーの部屋の扉を開けたら、まだ授業をしているようで、シシリー専属メイドは各々仕事をしていた。戻ってきた私たちを見て、さぼっていたと思われたのか、少し顔が怖い。

「遅かったじゃない」
「ごめんなさい、ちょっといろいろと手間取っていたの」
「私のせいです、申し訳ありません」

 リベラルタスが前に出て、メイドに謝ってくれる。部外者には強く怒れないというのがわかっているからだろう。そのまま、仕方がないわね、とうやむやになったのだが。

 彼は特に意識して私をかばったわけではないだろう。優しい人だから。しかし、彼にかばってもらえたのが無性に嬉しくて、なぜか彼の方を見るのが難しかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

白い結婚のはずでしたが、理屈で抗った結果すべて自分で詰ませました

鷹 綾
恋愛
「完璧すぎて可愛げがない」 そう言われて王太子から婚約破棄された公爵令嬢ノエリア・ヴァンローゼ。 ――ですが本人は、わざとらしい嘘泣きで 「よ、よ、よ、よ……遊びでしたのね!」 と大騒ぎしつつ、内心は完全に平常運転。 むしろ彼女の目的はただ一つ。 面倒な恋愛も政治的干渉も避け、平穏に生きること。 そのために選んだのは、冷徹で有能な公爵ヴァルデリオとの 「白い結婚」という、完璧に合理的な契約でした。 ――のはずが。 純潔アピール(本人は無自覚)、 排他的な“管理”(本人は合理的判断)、 堂々とした立ち振る舞い(本人は通常運転)。 すべてが「戦略」に見えてしまい、 気づけば周囲は完全包囲。 逃げ道は一つずつ消滅していきます。 本人だけが最後まで言い張ります。 「これは恋ではありませんわ。事故ですの!」 理屈で抗い、理屈で自滅し、 最終的に理屈ごと恋に敗北する―― 無自覚戦略無双ヒロインの、 白い結婚(予定)ラブコメディ。 婚約破棄ざまぁ × コメディ強め × 溺愛必至。 最後に負けるのは、世界ではなく――ヒロイン自身です。 -

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

【完結】大魔術師は庶民の味方です2

枇杷水月
ファンタジー
元侯爵令嬢は薬師となり、疫病から民を守った。 『救国の乙女』と持て囃されるが、本人はただ薬師としての職務を全うしただけだと、称賛を受け入れようとはしなかった。 結婚祝いにと、国王陛下から贈られた旅行を利用して、薬師ミュリエルと恋人のフィンは、双方の家族をバカンスに招待し、婚約式を計画。 顔合わせも無事に遂行し、結婚を許された2人は幸せの絶頂にいた。 しかし、幸せな2人を妬むかのように暗雲が漂う。襲いかかる魔の手から家族を守るため、2人は戦いに挑む。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

夫に欠陥品と吐き捨てられた妃は、魔法使いの手を取るか?

里見
恋愛
リュシアーナは、公爵家の生まれで、容姿は清楚で美しく、所作も惚れ惚れするほどだと評判の妃だ。ただ、彼女が第一皇子に嫁いでから三年が経とうとしていたが、子どもはまだできなかった。 そんな時、夫は陰でこう言った。 「完璧な妻だと思ったのに、肝心なところが欠陥とは」 立ち聞きしてしまい、失望するリュシアーナ。そんな彼女の前に教え子だった魔法使いが現れた。そして、魔法使いは、手を差し出して、提案する。リュシアーナの願いを叶える手伝いをするとーー。 リュシアーナは、自身を子を産む道具のように扱う夫とその周囲を利用してのしあがることを決意し、その手をとる。様々な思惑が交錯する中、彼女と魔法使いは策謀を巡らして、次々と世論を操っていく。 男尊女卑の帝国の中で、リュシアーナは願いを叶えることができるのか、魔法使いは本当に味方なのか……。成り上がりを目論むリュシアーナの陰謀が幕を開ける。 *************************** 本編完結済み。番外編を不定期更新中。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

処理中です...