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第二章 出会い
第14話 スカウト
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私があの時「空から宣伝すれば?」みたいに気楽に言ったことからスタートして、八か月あまりで、まさかこんなに世界が変わるとは。
もともと私の場合は世界が違うのだけれど、それはノーカンで。
ついでに説明するとこの世界も一年は360日くらいで、一か月は30日くらいというのは現代日本と同じらしい。それにうるう年のような調整日がまとめて数日、年末年始に放り込まれて、そのあたりで調整されているようだ。
この仕組みになれると一か月30日の方がわかりやすいから、なんで31日だったり28日だったりするんだろうと、現代の仕組みの方に違和感を感じてきてしまうのが不思議だ。
それはともかく、私の軽いたわごとから、この街に、新しい名物が誕生した。
結局、私は権利をマルコーさんに委譲し、その売却資金をそのまま融資する形で変換した。ただし、私も同じような事業を打ち立てるので、その権利に関しては融通をきかせてもらいたいとお願いをしたけれど。
そして、その事業の売り上げの数パーセントはまた、マルコーさんに投資することにした。
つまり、マルコーさんとの関係はマルコーさんの方が主体だけれど、私とも共同事業になったとも言える。
その私の事業は、大きな風船で人を一定時間だけ高いところに浮かせて、地面に戻すだけというもの。
物見やぐらや人力観覧車のようなものはこの世界にもあるのだけれど、なんの支えもないのに空中に浮くというのが物珍しいらしくて、評判になった。
最初は観光客の誘致用にと思ったものだけれど、ところがどっこい、地元民に大受けだった。
高いところから迷子になった子供を見つけたりもできて、意外な面で便利らしい。高いところまで自力で上るという体力的な手間もないし。
安全面を考慮するから、絶対に広い場所で、火気厳禁で、事故にあっても保証はできないと説明の上でやっているが、それでも命に係わる高さにはしたくないので8~9mくらいだし、下にはマットレスがあるのだけれど、それでも楽しいらしい。
連日大賑わいで、さすがにそろそろ人手を追加しなくてはいけないだろうということになった。
今はセイラ先生のお店のアドバルーンを利用した広報の人達にお手伝いを頼んではいたのだけれど、さすがにこのままでは無理だし迷惑だ。
この国は、何かをする時は必ず誰かの紹介が必要だというコネ社会だ。
この場合も、新しい仕事ではあるけれど、この事業を行っている人間の知り合いから仕事をする人を探さなければいけないらしい。
一般から公募するということの方がやる気がある人が集まっていいような気もするのだが……。
でも逆に、紹介でないといけないというのなら、この公爵邸で自分の目で見て気に入った人を引き抜くのでもいいということだろう。
自分の事業へのヘッドハンティングだから真剣にもなる。
新しい人にやってもらいたいのは、バルーンへの誘導や呼び込みをすることだから、人あたりがよくて、念書の読み上げもするのだから、字が読めるならなおよくて、なにより辞めない人がいい。
いろいろと考えた上で、まず、シングルマザーのマイナに声をかけることにした。
「貴方に話があるの」
マイナは公爵邸には通いで来ていることからも、家庭を大事にするイメージだ。街に住んでいるから街の事情にも詳しい。それならば顧客をより知っていて気働きができるのではないだろうか。
字は読めないけれど、そこは念書の内容を覚えてもらえればカバーできる問題だ。
それと、この女の地位が低い世界なのに、彼女は新しい男を探して頼ろうとしてなくて、自分の手で子供を育てようとしているその気概を見ると応援したくなるし、そのガッツからも、条件のよい仕事なら辞めようと思わないのではないだろうか。
しかし、新しい仕事を覚えるのを嫌がられたらどうしよう。
メイドとして働いている人は、他に仕事を見つけるにしても同じメイドをしようと思うだろう。それがキャリアを積んできた人間の考え方なのだから。
「どうしたの? リリアンヌ」
「えっとね、貴方は、ここでなく街で働いた方が楽じゃないかなって思うんだけれど……」
「そりゃ当たり前じゃない。住んでるところと職場が近かったら楽だもの」
何を言ってるの? と笑われてしまった。そういう考えを持ってる人なら好都合だ。
運動になるから職住近接反対とか言われたらどうしようもない。
「それなら、公爵邸を辞めて、私の知り合いのところで働いてみない? 今、人を探しているのだけれど。ここの給料の2倍出すみたいだし。私、紹介するから……」
「やるわ。紹介して」
意図的に伝聞口調にしたのは、私がオーナーだと思われない方がいいと思ったからだが、もうちょっとごねるかと思ったら、思ったより早い反応が返ってきて驚いた。
どんな仕事かもまだ言ってないのに。
あまりにも驚きすぎて、自分が誘ったのに、相手を疑わしそうな目で見てしまった。
「いいの?」
「もともとお金のために働いているのよ。いいお給料を出してくれるのなら、そちらに乗り換えるのが当たり前でしょ? それに、リリアンヌの紹介の仕事なら、外れはないでしょうしね」
カラカラ、と笑うマイナは、おっと、と声を潜める。
私に対する信頼の厚さにいささか感動を覚えていたが、急に小声で囁いてきた。
「どんな仕事なの、それ」
「ほら、広場のバルーン知ってる? 高いところから街を見せてくれるやつ。あれの補助よ」
「ああ、あれ! そんなことなのに、給料ここよりいいの?」
どんな激務なのかしら、と不安そうだけれど、そんなブラック企業なつもりはない。大体、暗くなったら主な仕事は終わりなのだから。街灯もなく暗くなって見えない街を見下ろして楽しいという客もいないだろうから。
「詳しいことは後で話すわ。総執事長に話をして、退職することを伝えておかないとね」
「ええ、でも私の仕事なんて大したことないから、すぐに引き継ぎ終わると思うわよ」
マイナの笑顔と、彼女の話の内容にほっとした。とりあえず、他に話をされないように口止めはしておくが。こんな露骨な引き抜き、私がしたとばれたら今度こそ、この家を追い出されてしまう。
そして、もう一人くらいほしい。もう一人にはドロテアの専属メイドであるランに目をつけている。
メリュジーヌお嬢様の乳母子という立場の私にも気さくに話しかけるコミュニケーション能力の高さや、素直さもさることながら、彼女は字が読めて書けるという教養の持ち主だ。
それを買われて専属メイドをやっているのだとは思うけれど。
彼女をヘッドハンティングしても、ドロテアが彼女を手放すかはわからない。
専属メイドはお嬢様のお気に入りであるから勤まるものだからだ。
この家の奥様の三人の娘の中でも、ドロテアはよくわからない人だ。感情表現に乏しく、何を考えているかがわからない。メリュジーヌお嬢様に対してだけでなく、他の物事に関しても、何が好きだとかそういう情報すら知らない。
ドロテアお嬢様の専属メイドの選び方を聞いた時も、くじ引きだとかそういう理由だったと言っていたが本当だろうか。知れば知るほど、その噂は真実だったのかもしれないと思う。
「ラン……話があるのだけれど」
とりあえず当たって砕けろと、ランに話をしてみることにするが、ランには悩まれてしまった。どうも、彼女は貴族の男と結婚したくて公爵家で勤めているようだから。
やはり、結婚した相手で人生が変わるから、慎重になるのだろう。
他の人を引き抜くとしても、このあたりの彼女たちの希望をなんとかしないとうまいこといかないだろう。合コンとか無理だろうしなぁ。
ランは据え置きとしても、もう一人くらいはなんとかしたいなぁ、と思うが……適任者がなかなかいない。
能力の高さからいったら、ミレディも悪くはないのだけれど、メリュジーヌお嬢様への反感の高さを鑑みると、ちょっと引き抜くのは遠慮したいし。
お嬢様への態度は優しいし、いい子ではあるけれどシンシアは仕事の内容にストレスを感じそうな気がする。
「あと、数字に強い人も欲しいかな」
経理も頼めそうな人もどこかにいないか、と考えて、一つのアイディアを思いついた。
もともと私の場合は世界が違うのだけれど、それはノーカンで。
ついでに説明するとこの世界も一年は360日くらいで、一か月は30日くらいというのは現代日本と同じらしい。それにうるう年のような調整日がまとめて数日、年末年始に放り込まれて、そのあたりで調整されているようだ。
この仕組みになれると一か月30日の方がわかりやすいから、なんで31日だったり28日だったりするんだろうと、現代の仕組みの方に違和感を感じてきてしまうのが不思議だ。
それはともかく、私の軽いたわごとから、この街に、新しい名物が誕生した。
結局、私は権利をマルコーさんに委譲し、その売却資金をそのまま融資する形で変換した。ただし、私も同じような事業を打ち立てるので、その権利に関しては融通をきかせてもらいたいとお願いをしたけれど。
そして、その事業の売り上げの数パーセントはまた、マルコーさんに投資することにした。
つまり、マルコーさんとの関係はマルコーさんの方が主体だけれど、私とも共同事業になったとも言える。
その私の事業は、大きな風船で人を一定時間だけ高いところに浮かせて、地面に戻すだけというもの。
物見やぐらや人力観覧車のようなものはこの世界にもあるのだけれど、なんの支えもないのに空中に浮くというのが物珍しいらしくて、評判になった。
最初は観光客の誘致用にと思ったものだけれど、ところがどっこい、地元民に大受けだった。
高いところから迷子になった子供を見つけたりもできて、意外な面で便利らしい。高いところまで自力で上るという体力的な手間もないし。
安全面を考慮するから、絶対に広い場所で、火気厳禁で、事故にあっても保証はできないと説明の上でやっているが、それでも命に係わる高さにはしたくないので8~9mくらいだし、下にはマットレスがあるのだけれど、それでも楽しいらしい。
連日大賑わいで、さすがにそろそろ人手を追加しなくてはいけないだろうということになった。
今はセイラ先生のお店のアドバルーンを利用した広報の人達にお手伝いを頼んではいたのだけれど、さすがにこのままでは無理だし迷惑だ。
この国は、何かをする時は必ず誰かの紹介が必要だというコネ社会だ。
この場合も、新しい仕事ではあるけれど、この事業を行っている人間の知り合いから仕事をする人を探さなければいけないらしい。
一般から公募するということの方がやる気がある人が集まっていいような気もするのだが……。
でも逆に、紹介でないといけないというのなら、この公爵邸で自分の目で見て気に入った人を引き抜くのでもいいということだろう。
自分の事業へのヘッドハンティングだから真剣にもなる。
新しい人にやってもらいたいのは、バルーンへの誘導や呼び込みをすることだから、人あたりがよくて、念書の読み上げもするのだから、字が読めるならなおよくて、なにより辞めない人がいい。
いろいろと考えた上で、まず、シングルマザーのマイナに声をかけることにした。
「貴方に話があるの」
マイナは公爵邸には通いで来ていることからも、家庭を大事にするイメージだ。街に住んでいるから街の事情にも詳しい。それならば顧客をより知っていて気働きができるのではないだろうか。
字は読めないけれど、そこは念書の内容を覚えてもらえればカバーできる問題だ。
それと、この女の地位が低い世界なのに、彼女は新しい男を探して頼ろうとしてなくて、自分の手で子供を育てようとしているその気概を見ると応援したくなるし、そのガッツからも、条件のよい仕事なら辞めようと思わないのではないだろうか。
しかし、新しい仕事を覚えるのを嫌がられたらどうしよう。
メイドとして働いている人は、他に仕事を見つけるにしても同じメイドをしようと思うだろう。それがキャリアを積んできた人間の考え方なのだから。
「どうしたの? リリアンヌ」
「えっとね、貴方は、ここでなく街で働いた方が楽じゃないかなって思うんだけれど……」
「そりゃ当たり前じゃない。住んでるところと職場が近かったら楽だもの」
何を言ってるの? と笑われてしまった。そういう考えを持ってる人なら好都合だ。
運動になるから職住近接反対とか言われたらどうしようもない。
「それなら、公爵邸を辞めて、私の知り合いのところで働いてみない? 今、人を探しているのだけれど。ここの給料の2倍出すみたいだし。私、紹介するから……」
「やるわ。紹介して」
意図的に伝聞口調にしたのは、私がオーナーだと思われない方がいいと思ったからだが、もうちょっとごねるかと思ったら、思ったより早い反応が返ってきて驚いた。
どんな仕事かもまだ言ってないのに。
あまりにも驚きすぎて、自分が誘ったのに、相手を疑わしそうな目で見てしまった。
「いいの?」
「もともとお金のために働いているのよ。いいお給料を出してくれるのなら、そちらに乗り換えるのが当たり前でしょ? それに、リリアンヌの紹介の仕事なら、外れはないでしょうしね」
カラカラ、と笑うマイナは、おっと、と声を潜める。
私に対する信頼の厚さにいささか感動を覚えていたが、急に小声で囁いてきた。
「どんな仕事なの、それ」
「ほら、広場のバルーン知ってる? 高いところから街を見せてくれるやつ。あれの補助よ」
「ああ、あれ! そんなことなのに、給料ここよりいいの?」
どんな激務なのかしら、と不安そうだけれど、そんなブラック企業なつもりはない。大体、暗くなったら主な仕事は終わりなのだから。街灯もなく暗くなって見えない街を見下ろして楽しいという客もいないだろうから。
「詳しいことは後で話すわ。総執事長に話をして、退職することを伝えておかないとね」
「ええ、でも私の仕事なんて大したことないから、すぐに引き継ぎ終わると思うわよ」
マイナの笑顔と、彼女の話の内容にほっとした。とりあえず、他に話をされないように口止めはしておくが。こんな露骨な引き抜き、私がしたとばれたら今度こそ、この家を追い出されてしまう。
そして、もう一人くらいほしい。もう一人にはドロテアの専属メイドであるランに目をつけている。
メリュジーヌお嬢様の乳母子という立場の私にも気さくに話しかけるコミュニケーション能力の高さや、素直さもさることながら、彼女は字が読めて書けるという教養の持ち主だ。
それを買われて専属メイドをやっているのだとは思うけれど。
彼女をヘッドハンティングしても、ドロテアが彼女を手放すかはわからない。
専属メイドはお嬢様のお気に入りであるから勤まるものだからだ。
この家の奥様の三人の娘の中でも、ドロテアはよくわからない人だ。感情表現に乏しく、何を考えているかがわからない。メリュジーヌお嬢様に対してだけでなく、他の物事に関しても、何が好きだとかそういう情報すら知らない。
ドロテアお嬢様の専属メイドの選び方を聞いた時も、くじ引きだとかそういう理由だったと言っていたが本当だろうか。知れば知るほど、その噂は真実だったのかもしれないと思う。
「ラン……話があるのだけれど」
とりあえず当たって砕けろと、ランに話をしてみることにするが、ランには悩まれてしまった。どうも、彼女は貴族の男と結婚したくて公爵家で勤めているようだから。
やはり、結婚した相手で人生が変わるから、慎重になるのだろう。
他の人を引き抜くとしても、このあたりの彼女たちの希望をなんとかしないとうまいこといかないだろう。合コンとか無理だろうしなぁ。
ランは据え置きとしても、もう一人くらいはなんとかしたいなぁ、と思うが……適任者がなかなかいない。
能力の高さからいったら、ミレディも悪くはないのだけれど、メリュジーヌお嬢様への反感の高さを鑑みると、ちょっと引き抜くのは遠慮したいし。
お嬢様への態度は優しいし、いい子ではあるけれどシンシアは仕事の内容にストレスを感じそうな気がする。
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