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2部
140話 父親として
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ナルガはハローに連れられて、湖のほとりにやってきていた。
ラコ村近辺の森にあり、村人にとっての憩いの場所だ。ハローは休みを取り、二人をピクニックに連れて来たのだ。
とても静かで落ち着く場所だ。ナルガはリナルドと手を繋ぎ、ハローの後ろを歩いた。彼の小脇には、昼食の入ったバケットが抱えられている。
「体調は平気?」
「おかげでさまでいい具合だ。つわりも思ったより酷くないしな」
「よかった。先輩お母さん達様々だね」
ナルガが妊娠したと知って、農婦達が色々アドバイスをしてくれたのだ。ハローも協力してくれているし、ナルガはとても助かっていた。
「まだお腹、目立たないね」
「三ヶ月目だからな、あとふた月もすれば膨らんでくるだろう」
「楽しみだなぁ、女の子かな、男の子かな。名前も考えておかないと。リナルドはどんな名前がいいと思う?」
「えっ? わ、わかんない……ナルガぁ」
リナルドは戸惑い、ナルガに助けを求めた。
ナルガは苦笑し、リナルドを抱き上げた。
「ナルガではないぞ、何度も言っただろう」
「……お母さん……?」
まだリナルドはそう呼ぶのに慣れておらず、困惑した様子だ。彼の笑顔も、未だ引き出せていない。
焦る必要はない、リナルドのペースに合わせて、時間が解決するのを待てばいい。
「ここらにしようか、お昼ご飯にしよう」
ハローはバケットを下ろし、料理を広げた。
サンドイッチを始め、持ち運びしやすい料理が並ぶ。全てハローお手製だ。
「ハローも料理、上手だよね」
「それなりに一人暮らししてたからね。あと、お父さんね」
「あ、うん。いただきます」
ハローはしっかり父親をしていて、ナルガは頼もしく思っていた。出産後の心配もなさそうだ。
先のアルター戦が嘘のような、穏やかな時間が流れる。昼食を終えた後、ハローとリナルドは釣りを始めた。
ナルガもぽやっと空を眺め、のんびりした。ここ最近慌ただしかったから、静かな時間を過ごせるのは久しぶりだ。
それでも、ふとした時に不安が過ぎる。次の満月の時、ハローは一人で戦うと言っている。ナルガ達には、傍で見守っていてほしいと伝えていた。
ナルガは戦えないが、せめてオクトの救援があってもいいのではないだろうか。
「ハロー、アルターへの勝算はあるのか。お前以上の怪物相手に、無策で挑むわけではないだろうな?」
「策は、ないよ。けど、負けるつもりはない。正面からぶつかって、必ず勝つ」
「根拠がないぞ、なぜ勝てると言い切れる」
「俺とアルターの間にあった差が、分かったからだよ」
ハローはリナルドの頭を撫でた。
「あいつは破滅的だけど、「この世から俺を消す」って強い意志があった。俺はあいつを否定する気持ちが強すぎて、戦う意思を忘れていた。昔の自分と向き合い、今の自分を受け入れてなくて、ずっと恐がりながら戦っていた。それにリナルドが教えてくれた事もあるんだ」
「僕、何もしてないよ?」
「してるさ。リナルドと生活する中で、学んで、感じた事があるんだ。だから次の満月で、俺は俺のありったけを使い切る。過去の俺が抱いている憎悪と怒りを、今の俺が抱く決意で超えるんだ」
要は気合と根性でアルターとの差を埋めるつもりのようだ。
ハローとアルターの間には壮絶な差がある、ナルガの見立てでは、アルターの戦力はハローの倍以上だ。
その差を無策でごり押す等、無謀でしかないのに、今のハローならやれそうな気がした。
「二人に頼みがある、俺とアルターの結末を、見守ってほしいんだ。大丈夫、必ず俺は帰ってくる。約束する」
「分かった、お前がそう言うのなら、私はもう止めんよ」
身重のナルガでは、出来る事はそう多くない。でも相手がもう一人のハローならば、ナルガにもアルターを止める手立てがある。
ハローに全てを任せはしない、自身に出来る最大限で、夫を支えよう。
ラコ村近辺の森にあり、村人にとっての憩いの場所だ。ハローは休みを取り、二人をピクニックに連れて来たのだ。
とても静かで落ち着く場所だ。ナルガはリナルドと手を繋ぎ、ハローの後ろを歩いた。彼の小脇には、昼食の入ったバケットが抱えられている。
「体調は平気?」
「おかげでさまでいい具合だ。つわりも思ったより酷くないしな」
「よかった。先輩お母さん達様々だね」
ナルガが妊娠したと知って、農婦達が色々アドバイスをしてくれたのだ。ハローも協力してくれているし、ナルガはとても助かっていた。
「まだお腹、目立たないね」
「三ヶ月目だからな、あとふた月もすれば膨らんでくるだろう」
「楽しみだなぁ、女の子かな、男の子かな。名前も考えておかないと。リナルドはどんな名前がいいと思う?」
「えっ? わ、わかんない……ナルガぁ」
リナルドは戸惑い、ナルガに助けを求めた。
ナルガは苦笑し、リナルドを抱き上げた。
「ナルガではないぞ、何度も言っただろう」
「……お母さん……?」
まだリナルドはそう呼ぶのに慣れておらず、困惑した様子だ。彼の笑顔も、未だ引き出せていない。
焦る必要はない、リナルドのペースに合わせて、時間が解決するのを待てばいい。
「ここらにしようか、お昼ご飯にしよう」
ハローはバケットを下ろし、料理を広げた。
サンドイッチを始め、持ち運びしやすい料理が並ぶ。全てハローお手製だ。
「ハローも料理、上手だよね」
「それなりに一人暮らししてたからね。あと、お父さんね」
「あ、うん。いただきます」
ハローはしっかり父親をしていて、ナルガは頼もしく思っていた。出産後の心配もなさそうだ。
先のアルター戦が嘘のような、穏やかな時間が流れる。昼食を終えた後、ハローとリナルドは釣りを始めた。
ナルガもぽやっと空を眺め、のんびりした。ここ最近慌ただしかったから、静かな時間を過ごせるのは久しぶりだ。
それでも、ふとした時に不安が過ぎる。次の満月の時、ハローは一人で戦うと言っている。ナルガ達には、傍で見守っていてほしいと伝えていた。
ナルガは戦えないが、せめてオクトの救援があってもいいのではないだろうか。
「ハロー、アルターへの勝算はあるのか。お前以上の怪物相手に、無策で挑むわけではないだろうな?」
「策は、ないよ。けど、負けるつもりはない。正面からぶつかって、必ず勝つ」
「根拠がないぞ、なぜ勝てると言い切れる」
「俺とアルターの間にあった差が、分かったからだよ」
ハローはリナルドの頭を撫でた。
「あいつは破滅的だけど、「この世から俺を消す」って強い意志があった。俺はあいつを否定する気持ちが強すぎて、戦う意思を忘れていた。昔の自分と向き合い、今の自分を受け入れてなくて、ずっと恐がりながら戦っていた。それにリナルドが教えてくれた事もあるんだ」
「僕、何もしてないよ?」
「してるさ。リナルドと生活する中で、学んで、感じた事があるんだ。だから次の満月で、俺は俺のありったけを使い切る。過去の俺が抱いている憎悪と怒りを、今の俺が抱く決意で超えるんだ」
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その差を無策でごり押す等、無謀でしかないのに、今のハローならやれそうな気がした。
「二人に頼みがある、俺とアルターの結末を、見守ってほしいんだ。大丈夫、必ず俺は帰ってくる。約束する」
「分かった、お前がそう言うのなら、私はもう止めんよ」
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