139 / 207
2部
139話 夫婦達のひととき
しおりを挟む
オクトはひと月後の再訪を約束し、都へ戻った。
ハローの決意を聞いたエドウィンは、不安を抱いていた。対話なんかで本当にアルターを止められるのだろうか。
でもアルターは正真正銘、もう一人のハローだ。エドウィンは実際にアルターと対話したから、奴が乱暴な殺戮者でないのは分かっている。奴はハローが抱いてきた後悔その物なのだ。
次の満月で何が起こるのか。エドウィンはやきもきしながら、一週間を過ごした。
「カルテの整理、終わりました。ちょっと休憩しませんか」
「ん、そうだな。確かまだ、茶葉が残ってたっけ」
ミネバにお茶を淹れ、一息つく。
「ハロー様の事、ご心配ですか」
「まぁな。はっきり言ってアルターとの対話なんざ無茶にも程がある、出たとこ勝負でどうにかなる相手じゃない。けど……」
「けど?」
「あいつさ、前みたいに殺気を放たなくなったんだよな」
ナルガと出会う以前、ハローはキグナス島のトラウマから、強い狂気を抱いていた。
そんなハローは、彼女と生活を共にしてから狂気が薄れ、リナルドを迎えてからは明らかに穏やかになった。心が壊れる前のハローに戻りつつあるのだ。
心が癒えたハローならば、傷ついたアルターを解放できるかもしれない。
「正直、最初は傷のなめ合いだと思ってた。ナルガもどうせ、すぐにここから出ていくと思ってたんだ。でもどうだ? ナルガの心は完治して、ハローの心も治りかけている。医者として力不足を感じるよ。僕じゃ結局、ハローを救えなかったからな」
「私は、そう思いません。私は、エドウィン様が献身的にハロー様に寄り添っているのを知っています。アルターのハロー様も、エドウィン様に感謝されていました。エドウィン様が傍に居てくれたから、ハロー様はとても心強かったはずです。貴方が居なければ、ハロー様はきっと、自ら命を絶っていたでしょう。エドウィン様も、ハロー様を救っているのですよ」
「……ま、そう思う事にするよ。気休め、ありがとさん」
エドウィンは照れくさそうに目を逸らした。
そしたら、窓から若い男女の姿が見えた。何やら初々しさの残る様子である。
エドウィンの視線に気づいたか、二人が寄って来た。
「よう、どうした」
「先生にも伝えとこうと思って。俺達、結婚しようと思うんです」
「まぁ、おめでとうございます」
「そういや最近、二組くらい結婚宣言してたな。なんだってこんな結婚ラッシュが起こってるんだ」
「先生とハローさんの影響ですよ。お二人とも結婚されて、幸せそうで、私達も当てられてしまいまして」
「子供が出来たらよろしくお願いしますね、先生」
去っていく若い夫婦を見送り、エドウィンは肩を竦めた。
僕ら二人に触発されて、若者どもが色気づいてるわけか。幸福は周囲に広がっているようだ。
「あいつら、今日ピクニックに行くとか言ってたな。こんな時にのんきなもんだ」
「いいじゃないですか、気持ちの良いお日和ですし、緊張しっぱなしなのも苦しいですし。何よりナルガ様は身重ですから、気晴らししていただきませんと」
「変なストレスかかって流産されても困るしな。ハローが父親か、ちゃんとやれるかね」
「大丈夫ですよ。心配性ですね」
「ハローと十数年も付き合ってりゃこうもなるって」
エドウィンは茶をすすり、
「……私達も子供、欲しいですね」
「ぐぶっ!?」
吹き出した。
ハローの決意を聞いたエドウィンは、不安を抱いていた。対話なんかで本当にアルターを止められるのだろうか。
でもアルターは正真正銘、もう一人のハローだ。エドウィンは実際にアルターと対話したから、奴が乱暴な殺戮者でないのは分かっている。奴はハローが抱いてきた後悔その物なのだ。
次の満月で何が起こるのか。エドウィンはやきもきしながら、一週間を過ごした。
「カルテの整理、終わりました。ちょっと休憩しませんか」
「ん、そうだな。確かまだ、茶葉が残ってたっけ」
ミネバにお茶を淹れ、一息つく。
「ハロー様の事、ご心配ですか」
「まぁな。はっきり言ってアルターとの対話なんざ無茶にも程がある、出たとこ勝負でどうにかなる相手じゃない。けど……」
「けど?」
「あいつさ、前みたいに殺気を放たなくなったんだよな」
ナルガと出会う以前、ハローはキグナス島のトラウマから、強い狂気を抱いていた。
そんなハローは、彼女と生活を共にしてから狂気が薄れ、リナルドを迎えてからは明らかに穏やかになった。心が壊れる前のハローに戻りつつあるのだ。
心が癒えたハローならば、傷ついたアルターを解放できるかもしれない。
「正直、最初は傷のなめ合いだと思ってた。ナルガもどうせ、すぐにここから出ていくと思ってたんだ。でもどうだ? ナルガの心は完治して、ハローの心も治りかけている。医者として力不足を感じるよ。僕じゃ結局、ハローを救えなかったからな」
「私は、そう思いません。私は、エドウィン様が献身的にハロー様に寄り添っているのを知っています。アルターのハロー様も、エドウィン様に感謝されていました。エドウィン様が傍に居てくれたから、ハロー様はとても心強かったはずです。貴方が居なければ、ハロー様はきっと、自ら命を絶っていたでしょう。エドウィン様も、ハロー様を救っているのですよ」
「……ま、そう思う事にするよ。気休め、ありがとさん」
エドウィンは照れくさそうに目を逸らした。
そしたら、窓から若い男女の姿が見えた。何やら初々しさの残る様子である。
エドウィンの視線に気づいたか、二人が寄って来た。
「よう、どうした」
「先生にも伝えとこうと思って。俺達、結婚しようと思うんです」
「まぁ、おめでとうございます」
「そういや最近、二組くらい結婚宣言してたな。なんだってこんな結婚ラッシュが起こってるんだ」
「先生とハローさんの影響ですよ。お二人とも結婚されて、幸せそうで、私達も当てられてしまいまして」
「子供が出来たらよろしくお願いしますね、先生」
去っていく若い夫婦を見送り、エドウィンは肩を竦めた。
僕ら二人に触発されて、若者どもが色気づいてるわけか。幸福は周囲に広がっているようだ。
「あいつら、今日ピクニックに行くとか言ってたな。こんな時にのんきなもんだ」
「いいじゃないですか、気持ちの良いお日和ですし、緊張しっぱなしなのも苦しいですし。何よりナルガ様は身重ですから、気晴らししていただきませんと」
「変なストレスかかって流産されても困るしな。ハローが父親か、ちゃんとやれるかね」
「大丈夫ですよ。心配性ですね」
「ハローと十数年も付き合ってりゃこうもなるって」
エドウィンは茶をすすり、
「……私達も子供、欲しいですね」
「ぐぶっ!?」
吹き出した。
1
お気に入りに追加
131
あなたにおすすめの小説
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!
黒猫
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。
ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。
観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中…
ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。
それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。
帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく…
さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!
フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話
カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。
チートなんてない。
日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。
自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。
魔法?生活魔法しか使えませんけど。
物作り?こんな田舎で何ができるんだ。
狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。
そんな僕も15歳。成人の年になる。
何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。
女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。
になればいいと思っています。
皆様の感想。いただけたら嬉しいです。
面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。
よろしくお願いします!
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。
続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる