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2部
139話 夫婦達のひととき
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オクトはひと月後の再訪を約束し、都へ戻った。
ハローの決意を聞いたエドウィンは、不安を抱いていた。対話なんかで本当にアルターを止められるのだろうか。
でもアルターは正真正銘、もう一人のハローだ。エドウィンは実際にアルターと対話したから、奴が乱暴な殺戮者でないのは分かっている。奴はハローが抱いてきた後悔その物なのだ。
次の満月で何が起こるのか。エドウィンはやきもきしながら、一週間を過ごした。
「カルテの整理、終わりました。ちょっと休憩しませんか」
「ん、そうだな。確かまだ、茶葉が残ってたっけ」
ミネバにお茶を淹れ、一息つく。
「ハロー様の事、ご心配ですか」
「まぁな。はっきり言ってアルターとの対話なんざ無茶にも程がある、出たとこ勝負でどうにかなる相手じゃない。けど……」
「けど?」
「あいつさ、前みたいに殺気を放たなくなったんだよな」
ナルガと出会う以前、ハローはキグナス島のトラウマから、強い狂気を抱いていた。
そんなハローは、彼女と生活を共にしてから狂気が薄れ、リナルドを迎えてからは明らかに穏やかになった。心が壊れる前のハローに戻りつつあるのだ。
心が癒えたハローならば、傷ついたアルターを解放できるかもしれない。
「正直、最初は傷のなめ合いだと思ってた。ナルガもどうせ、すぐにここから出ていくと思ってたんだ。でもどうだ? ナルガの心は完治して、ハローの心も治りかけている。医者として力不足を感じるよ。僕じゃ結局、ハローを救えなかったからな」
「私は、そう思いません。私は、エドウィン様が献身的にハロー様に寄り添っているのを知っています。アルターのハロー様も、エドウィン様に感謝されていました。エドウィン様が傍に居てくれたから、ハロー様はとても心強かったはずです。貴方が居なければ、ハロー様はきっと、自ら命を絶っていたでしょう。エドウィン様も、ハロー様を救っているのですよ」
「……ま、そう思う事にするよ。気休め、ありがとさん」
エドウィンは照れくさそうに目を逸らした。
そしたら、窓から若い男女の姿が見えた。何やら初々しさの残る様子である。
エドウィンの視線に気づいたか、二人が寄って来た。
「よう、どうした」
「先生にも伝えとこうと思って。俺達、結婚しようと思うんです」
「まぁ、おめでとうございます」
「そういや最近、二組くらい結婚宣言してたな。なんだってこんな結婚ラッシュが起こってるんだ」
「先生とハローさんの影響ですよ。お二人とも結婚されて、幸せそうで、私達も当てられてしまいまして」
「子供が出来たらよろしくお願いしますね、先生」
去っていく若い夫婦を見送り、エドウィンは肩を竦めた。
僕ら二人に触発されて、若者どもが色気づいてるわけか。幸福は周囲に広がっているようだ。
「あいつら、今日ピクニックに行くとか言ってたな。こんな時にのんきなもんだ」
「いいじゃないですか、気持ちの良いお日和ですし、緊張しっぱなしなのも苦しいですし。何よりナルガ様は身重ですから、気晴らししていただきませんと」
「変なストレスかかって流産されても困るしな。ハローが父親か、ちゃんとやれるかね」
「大丈夫ですよ。心配性ですね」
「ハローと十数年も付き合ってりゃこうもなるって」
エドウィンは茶をすすり、
「……私達も子供、欲しいですね」
「ぐぶっ!?」
吹き出した。
ハローの決意を聞いたエドウィンは、不安を抱いていた。対話なんかで本当にアルターを止められるのだろうか。
でもアルターは正真正銘、もう一人のハローだ。エドウィンは実際にアルターと対話したから、奴が乱暴な殺戮者でないのは分かっている。奴はハローが抱いてきた後悔その物なのだ。
次の満月で何が起こるのか。エドウィンはやきもきしながら、一週間を過ごした。
「カルテの整理、終わりました。ちょっと休憩しませんか」
「ん、そうだな。確かまだ、茶葉が残ってたっけ」
ミネバにお茶を淹れ、一息つく。
「ハロー様の事、ご心配ですか」
「まぁな。はっきり言ってアルターとの対話なんざ無茶にも程がある、出たとこ勝負でどうにかなる相手じゃない。けど……」
「けど?」
「あいつさ、前みたいに殺気を放たなくなったんだよな」
ナルガと出会う以前、ハローはキグナス島のトラウマから、強い狂気を抱いていた。
そんなハローは、彼女と生活を共にしてから狂気が薄れ、リナルドを迎えてからは明らかに穏やかになった。心が壊れる前のハローに戻りつつあるのだ。
心が癒えたハローならば、傷ついたアルターを解放できるかもしれない。
「正直、最初は傷のなめ合いだと思ってた。ナルガもどうせ、すぐにここから出ていくと思ってたんだ。でもどうだ? ナルガの心は完治して、ハローの心も治りかけている。医者として力不足を感じるよ。僕じゃ結局、ハローを救えなかったからな」
「私は、そう思いません。私は、エドウィン様が献身的にハロー様に寄り添っているのを知っています。アルターのハロー様も、エドウィン様に感謝されていました。エドウィン様が傍に居てくれたから、ハロー様はとても心強かったはずです。貴方が居なければ、ハロー様はきっと、自ら命を絶っていたでしょう。エドウィン様も、ハロー様を救っているのですよ」
「……ま、そう思う事にするよ。気休め、ありがとさん」
エドウィンは照れくさそうに目を逸らした。
そしたら、窓から若い男女の姿が見えた。何やら初々しさの残る様子である。
エドウィンの視線に気づいたか、二人が寄って来た。
「よう、どうした」
「先生にも伝えとこうと思って。俺達、結婚しようと思うんです」
「まぁ、おめでとうございます」
「そういや最近、二組くらい結婚宣言してたな。なんだってこんな結婚ラッシュが起こってるんだ」
「先生とハローさんの影響ですよ。お二人とも結婚されて、幸せそうで、私達も当てられてしまいまして」
「子供が出来たらよろしくお願いしますね、先生」
去っていく若い夫婦を見送り、エドウィンは肩を竦めた。
僕ら二人に触発されて、若者どもが色気づいてるわけか。幸福は周囲に広がっているようだ。
「あいつら、今日ピクニックに行くとか言ってたな。こんな時にのんきなもんだ」
「いいじゃないですか、気持ちの良いお日和ですし、緊張しっぱなしなのも苦しいですし。何よりナルガ様は身重ですから、気晴らししていただきませんと」
「変なストレスかかって流産されても困るしな。ハローが父親か、ちゃんとやれるかね」
「大丈夫ですよ。心配性ですね」
「ハローと十数年も付き合ってりゃこうもなるって」
エドウィンは茶をすすり、
「……私達も子供、欲しいですね」
「ぐぶっ!?」
吹き出した。
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