アラサーでクビになった魔王四天王ですが勇者に「結婚しよ」と告白され、溺愛されてるので今は幸せです

歩く、歩く。

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92話 ラコ村に近づく影

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 深い闇に包まれた森の中で、少年が息をひそめていた。
 年齢は五歳くらいだろう。ボロ布を纏った、やせっぽちで、みすぼらしい少年だ。ずっと歩き続けているのか、靴は底が抜けている。
 古ぼけた剣を抱え、恐怖に体を震わせながら、怪物が去るのをひたすらに待つ。すると、荒い息使いが聞こえてきた。

 彼は口に手を当て、悲鳴が出ないようにした。すぐ近くに奴が、怪物が来ている。静かに物陰から覗き込むと、大股に歩く怪物が、暗闇を彷徨っていた。
 黒の有機的な鎧を装備し、龍を思わせる兜を被っている。両腕には鋭い爪を備えており、地鳴りのようなうめき声をあげながら、少年を探していた。

『ウ……ガァァァァァァァァァアアアアアアアアアアア!!!!!!』

 怪物は突然雄たけびを上げ、手あたり次第に樹木へ頭をぶつけている。自身に爪を突き立て、幾度となく心臓や動脈を傷つけるが、瞬く間に治ってしまう。

『ころして……だれかおれをころして……しなせて……ああああああどこだ! どこにいる!! おまえがいたらおれはしねない!!!! おれはこのよにいてはいけない!!! しななければならない!!!! だからでてこい!!! おれを……ごろぜぇぇぇぇぇ!!!』

 怪物は頭を抱えて狂ったように振り乱し、自傷行為を重ねて自殺を試みている。少年は恐怖から身動きが取れず、唇を噛み締めて縮こまった。

 お願い、見つけないで……!

 剣を抱きしめると、鞘が微かに地面を擦ってしまった。しまったと思うも、遅かった。

『そこかぁ!!!!』

 怪物はぐるんと振り向くなり、右腕を振り回した。
 直後、腕が勢いよく伸び、手首から先が肥大化する。鋭利な爪は巨木を粉砕し、少年が衝撃でまろび出た。

『にがさない!!!! にがさないにがさないにがさない!!!! おれをころせ!!! おれをしなせろ!!!! このよからけしてぐれぇ!!!!!』

 怪物は半狂乱に腕を振り回し、森を破壊しながら少年を追いかけた。少年は必死になって逃げたが、崖に追い詰められてしまった。
 だめだ、殺される。竦んだ少年の顔に、一筋の光が差し込んだ。

「あ……朝……?」

 朝日が森に差し込むなり、怪物は壮絶な悲鳴を上げた。光に解けていくように姿が薄れ、消えていく。

『まただめだった……なぜおれをしなせてくれない!!!! おまえさえしねば、おれはしねるんだ!!! おまえはおれが!!! どれだけつみぶかいおとこなのか!!! しらないのか!!!!』

 苦しみ、這いつくばりながら、怪物は少年を威嚇し続ける。逃げ出す少年を充血した目で睨みつけ、

『ぜっだいにごろじてやる!!! おれがじぬだめに!!! ごのよがらぎえるだめに!!!! おまえはぜっだいに!!! ごろじでやるううううううう!!!!』

 朝日にかき消されていった。
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