アラサーでクビになった魔王四天王ですが勇者に「結婚しよ」と告白され、溺愛されてるので今は幸せです

歩く、歩く。

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2部

91話 心の傷は今もまだ

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 その夜、ハローは夢を見ていた。無数の屍が転がる大地に一人、血に染まった聖剣を握りしめて、勇者ハローは立っていた。
 キグナス島で自分が殺した者達を踏みしめ、瞬きをすると、今度は裁判所へ場所が移る。勇者にあるまじき所業を責める声が周囲から飛んできて、ハローは耳を塞ぎ、しゃがみこんだ。

「ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 泣きながら、ハローは何度も謝った。勇者なのに人を殺し、のうのうと戻ってきてごめんなさい。そう涙ながらに呟くと、

『ごめんで済むはずが無いだろう』

 マックの声がした。
 顔を上げれば、マックとミレイユが、詰問するようにハローを見下ろしている。なぜ助けなかったと、無言で訴えていた。
 かぶりを振り、ハローは震える足で逃げ出した。いくら走っても、自分を責める声は追いかけてくる。足がもつれて転んで、そこでハローは目を覚ました。

「……悪い夢だ」

 ナルガは穏やかな寝息を立てている。彼女の髪を撫でた後、ハローはそっと起き上がった。
 まだ夜は明けておらず、大きな満月がラコ村を照らしている。ハローは胸に手を当てると、形見のナイフを掲げた。
 ナルガがやってきて、ハローの心の傷は少しずつ癒えている。でも、幸せになればなるほど、ハローを責める声は強く、大きく、数を増やしていた。

「幻聴だと分かってるのに、嫌なもんだな」

 ……ラコ村へ来た直後、ハローは何度もナイフで喉を突こうとした。その度にエドウィンに止められ、彼に縋りついて泣き続けた。

『おれは……いきるかちなんかない……おねがいだ、しなせて……ころしてくれ……!』
「……思えば、酷い時期だったな」

 当時、ハローの心は完全に壊れ、毎日幻聴で精神を削られ、幾度も発狂してのたうち回った。
 エドウィンにミネバ、オクトがどうにか心を繕い、少しずつ復元して、社会生活が出来るまでに五年の月日がかかった。

 どうにか自殺衝動は無くなったものの、今度は罪悪感で悪夢を見る日々。さっきみたいにマックとミレイユが、無言でハローを責める夢を見続けた。
 悪夢と幻聴で疲れ切り、それでも弱い人を、ラコ村を守るために戦って。そんな折にやってきてくれたのが、ナルガだった。

「よう」
「エド? 朝早いね」
「なんか胸騒ぎがしたのさ。どっかの馬鹿が変な事考えてんじゃないかってね」
「はは、当たらずとも遠からず、かな」

 二人は、ラコ村を見下ろせる丘に向かった。そこで座り、ぼんやりと村を眺めた。
 エドウィンはいつも、ハローが悩んでいる時に来てくれる。口こそ悪いが、優しい男だ。

「まだ死にたいか?」
「いいや、死にたくないよ。もう馬鹿な真似はしないから、安心して」
「言いたくないが、ナルガ様様だ。けどその様子じゃ、まだ幻聴が続いているようだな」
「ああ。以前より減ってるけど、時々今日みたいに牙を剥くよ。お医者さんだろ? 原因とか分からない?」
「分かってたらとっくに治してるよ」
「それもそうか」

 けど、エドウィンと話していたら、幻聴は消えた。ただ話すだけでも、ハローには治療になっていた。

「ま、気休めだけどさ。お前の心は確実に治ってきている、それだけは確かだ。僕が暇な時にでも、また話を聞いてやるさ」
「ありがとね」

 エドウィンと帰路に着きながら、ハローは自分に問いかけた。
 いつになったら俺は、自分を許せるのだろうかと。
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