上 下
79 / 207
2部

79話 新婚

しおりを挟む
 土起こしが終わった翌日、ラコ村ではささやかな宴が開かれる。無事に冬を越せたのを祝うのと、今年の豊作を祝うためと……余った保存食を処理するためだ。
 ナルガはハローと共に宴の料理を用意しつつ、余った瓶詰を見やった。

「結構な数が余ったな」
「災害とかにも備えてあるからね。でも流石に春を超えると食べられなくなるから、もったいないし」
「だからここで処理してしまおうというわけか」
「アリス! 美味しいの出来た?」

 ナルガの背にミコが飛びついた。ナルガは小さく笑いながら、ミコにピザの切れ端を与えた。

「皆には内緒だぞ? それと、働かざる者食うべからずだからな」
「うん! ハロー兄、瓶洗うの手伝うね」
「ありがと。にしても、お母さんより懐いてるんじゃない」
「彼女からもそう言われているな。だがなミコ、実の母親は大事にしておけよ。離れ離れになっては、大切にしたくとも出来なくなるのだからな」

 ミコにそう伝え、ナルガはふと魔王に思いを馳せた。
 ……できれば、孫の顔くらいは見せたかったな。じっとハローの顔を見る。

「ん? 何、どうしたの?」
「いいや、何でもない」
「そう言われても、その……凄く色っぽい目で見られるとちょっと、恥ずかしいんだけど」
「そのような目などしていない。己惚れるな馬鹿者」
「ごめんなさい……へへ……」

 ハローはデレデレしている。一体私はどんな顔でハローを見ていたと言うのだ。

「……ちょっとだけ、ぎゅってしていい?」
「子供の前だ、我慢しろ」
「そうだよね……」
「そんな顔をするな。……帰ったらいくらでもして構わん」
「よしっ!」

 拳を握りしめて喜ぶハロー、結局甘やかしてしまうナルガである。
 ハローは事あるごとにナルガを「可愛い」だの「愛らしい」だの言ってくるが、ナルガにしてみればハローの方がよっぽど可愛い奴だ。
 いつも自分を考えてくれているし、守ってくれるし、何より心を治してくれたし、感謝してもしきれない。
 ハローと結ばれ、幸運に思っているのも、まぎれない事実である。
 と、ハローとナルガの頭に軽いチョップが落ちる。振り向けばそこには、エドウィンが。

「おいそこの新婚、手ぇ止めてないでとっとと準備しろ」
「すまないな、すぐに終わらせる」

 ナルガは残りの料理を仕上げていく。ハローはエドウィンと共に会場を準備し、ワイン等を並べていった。

「お前な、のべつ幕無しにべたつくんじゃないよ。見てる側が恥ずかしいだろうが」
「ごめんごめん、ナルガが愛しすぎてつい」
「反省する気ないだろ。まぁ、なんだ。こっちもあてられるからほどほどにしてくれ」

 エドウィンは髪を搔いた。ハローは彼を見やり、ふっ、と笑みを浮かべた。

「俺は今、幸せだよ。十分すぎるほどにね」
「そうかい」
「だからさ、もうエドも遠慮しなくていいんだぞ」
「なんの話だ。起きながら寝言を抜かす特技でも身に着けたのか」
「そんなところさ」
「はん、器用な奴だ」

 エドウィンは鼻を鳴らした。その後も二人は、他愛ない話をしながら準備を進めていった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

天界に帰れなくなった創造神様は、田舎町で静かに暮らしたい

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:1,914

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:751

処理中です...