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29話 ハート・リリース
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正午ごろ、ナルガはハローと共に、エドウィンの診療所を訪れた。
それまでの症状を話すと、エドウィンは呆れたように頭を抱えた。
「五感が無くなってただぁ? そんな重要な事をどうして黙ってたんだよ」
「話す気が起きなかった。ここへ来た当初は、何もかもどうでもよくなっていたからな」
「んで日が進むにつれて、切り出すタイミングを失くしたと。お前意外と抜けてるな」
「そんなにナルガを怒らないでくれよ、彼女だっていっぱいいっぱいだったんだし」
「怒ってないっての。追われる身で落ち着かなかっただろうしな、事情は汲むさ。んで、他に自覚症状はあるのか?」
「今の所はない。むしろすっきりしている。なぜ急に五感が戻ったんだろうか」
「心が癒えたんだろ、精神的ストレスで五感の機能が落ちてたわけだからな。そこのピュア男との生活がいい薬になったんだろうさ」
ハローは照れ笑いを浮かべ、ナルガも微笑を浮かべた。
「けど油断するなよ、五感が戻ったからと言って完治したわけじゃないんだからな」
「そうなの?」
「あくまでどん底の状態から抜け出しただけだから、無理すればすぐにぶり返すぞ。心ってのはそれだけ治りにくいんだ。僕ですら……治療しきれないくらいにね」
エドウィンはハローを見上げ、薬棚を漁った。いくつかの粉薬を混ぜると、ナルガに押し付ける。
「こいつを試せ、ストレスを軽減する薬草を調合してある」
「何から何まで助かるよ。ナルガを診てくれて、ありがとな」
「用が済んだらとっとと出てけよ、後閊えてるんだ」
「他に患者は居ないようだが」
「往診ってご存じ? これでも忙しいの」
追い出されるように診療所を後にし、二人は苦笑した。
「ごめんよ、あいつあまのじゃくだから」
「承知している。まだ心身は治り切っていないようだから、もうしばらく世話になるな」
「しばらくと言わず、ずっと居てもいいんだけど……」
「ん?」
「なんでもない」
口ごもったハローに、ナルガは小首をかしげた。
昼食を済ませてから、早速エドウィンの薬を試してみた。のだが……物凄く苦い。舌が曲がりそうだ。
「不味い、不味いなこれは。うん、とっても不味い。ふふっ」
「その割には、笑ってるね」
「味を感じるのが嬉しいんだ、苦い薬だとしてもな」
「アリス! 遊んでー!」
窓から少女が覗き込んできた。ワイルドボアから守った娘で、名前はミコ。ナルガに一番懐いている子だ。
「いいだろう、作業再開まで時間があるしな」
「わーい! 皆も呼んでくるねっ!」
「やっぱ子供好きでしょ」
「否定は出来ないな。今まで気づかなかったよ」
「俺も、少しだけなら付きあえるんだけど……いいかな?」
「ミコに聞け。二つ返事で頷いてくれるだろうがな」
ナルガはにこりとし、子供達の下へ向かった。
それまでの症状を話すと、エドウィンは呆れたように頭を抱えた。
「五感が無くなってただぁ? そんな重要な事をどうして黙ってたんだよ」
「話す気が起きなかった。ここへ来た当初は、何もかもどうでもよくなっていたからな」
「んで日が進むにつれて、切り出すタイミングを失くしたと。お前意外と抜けてるな」
「そんなにナルガを怒らないでくれよ、彼女だっていっぱいいっぱいだったんだし」
「怒ってないっての。追われる身で落ち着かなかっただろうしな、事情は汲むさ。んで、他に自覚症状はあるのか?」
「今の所はない。むしろすっきりしている。なぜ急に五感が戻ったんだろうか」
「心が癒えたんだろ、精神的ストレスで五感の機能が落ちてたわけだからな。そこのピュア男との生活がいい薬になったんだろうさ」
ハローは照れ笑いを浮かべ、ナルガも微笑を浮かべた。
「けど油断するなよ、五感が戻ったからと言って完治したわけじゃないんだからな」
「そうなの?」
「あくまでどん底の状態から抜け出しただけだから、無理すればすぐにぶり返すぞ。心ってのはそれだけ治りにくいんだ。僕ですら……治療しきれないくらいにね」
エドウィンはハローを見上げ、薬棚を漁った。いくつかの粉薬を混ぜると、ナルガに押し付ける。
「こいつを試せ、ストレスを軽減する薬草を調合してある」
「何から何まで助かるよ。ナルガを診てくれて、ありがとな」
「用が済んだらとっとと出てけよ、後閊えてるんだ」
「他に患者は居ないようだが」
「往診ってご存じ? これでも忙しいの」
追い出されるように診療所を後にし、二人は苦笑した。
「ごめんよ、あいつあまのじゃくだから」
「承知している。まだ心身は治り切っていないようだから、もうしばらく世話になるな」
「しばらくと言わず、ずっと居てもいいんだけど……」
「ん?」
「なんでもない」
口ごもったハローに、ナルガは小首をかしげた。
昼食を済ませてから、早速エドウィンの薬を試してみた。のだが……物凄く苦い。舌が曲がりそうだ。
「不味い、不味いなこれは。うん、とっても不味い。ふふっ」
「その割には、笑ってるね」
「味を感じるのが嬉しいんだ、苦い薬だとしてもな」
「アリス! 遊んでー!」
窓から少女が覗き込んできた。ワイルドボアから守った娘で、名前はミコ。ナルガに一番懐いている子だ。
「いいだろう、作業再開まで時間があるしな」
「わーい! 皆も呼んでくるねっ!」
「やっぱ子供好きでしょ」
「否定は出来ないな。今まで気づかなかったよ」
「俺も、少しだけなら付きあえるんだけど……いいかな?」
「ミコに聞け。二つ返事で頷いてくれるだろうがな」
ナルガはにこりとし、子供達の下へ向かった。
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