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1部
28話 五感が戻った
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目を覚ますと、ナルガは寝床に居た。どうやら月見中に寝落ちしてしまったようだ。
ハローに迷惑をかけてしまったか。髪を掻きながら体を起こすと、ナルガは異変に気付いた。
景色に、色がついている。昨日までモノクロだったはずの世界に、光が満ちていた。
葉擦れの音が澄んで聞こえる、秋に近づく柔らかな気温が肌に伝わる。土の匂いが、胸いっぱいに広がった。
「おはようナルガ! よく眠れたかい?」
くぐもっていないハローの声に、ナルガは飛び起きた。彼の声を、本当の意味で耳にできた。
人々を安心させる、力強い声だ。十年前と同じ、聞く者に勇気を与える声だ。彼の髪も肌も、瞳も……昔と変わらぬ色をしていた。
「手ぬぐい濡らしてあるから、顔拭いてきなよ」
「ああ……」
恐る恐る、桶の水に触れると、冷たかった。顔をぬぐうのって、こんなに気持ちよかっただろうか。
家の中にいい匂いが満ちていく。振り向けば、ハローが朝食を並べていた。パンに野菜スープ、初日に出してくれたのと同じメニューだ。
……もしかしたら、味覚も……!
ナルガはそっと、パンをかじった。小麦の味と匂いが、口いっぱいに広がった。
パンって、こんなに美味しかっただろうか。スープも野菜の甘味がたまらない。久しぶりに食べ物を美味しく感じられて、ナルガはつと、涙を流した。
「ナルガ!? どうしたの急に泣いて、そんな不味かったかな?」
「そうじゃない……そうじゃないんだ……!」
慌てふためくハローに、ナルガは首を振った。
「ずっと、何も感じなかったんだ……景色からは色が消えて、音もよく聞こえなくて……温度も感触も、匂いも……ましてや味すらも……私は失っていたんだ……」
「ずっと、暗い世界に居たんだね」
「でも、やっと、戻ってこれた……はは、生まれ変わった気分だよ」
ナルガは涙を拭き、またパンを齧った。
「美味しいな、このスープも美味しいよ。全部、美味しいよ」
「ナルガがそう言ってくれるなんて、凄く嬉しいな」
朝食を終えるなり、ナルガは外に出た。朝日を受けて、小麦畑が金色に輝いている。初めて見る色のついたラコ村は、緑に囲まれた自然豊かな村落だった。
雲が二重に浮かぶ高い空を見上げ、大きく息を吸うと、また涙が出てきた。
ハローはナルガを見捨てなかった。いつだって笑顔でナルガを支え、孤独に怯えないよう、一緒に居てくれた。ずっと、ナルガを優しく守ってくれていた。
ハローの献身が、心を閉じたナルガを救い出したのだ。
「ありがとう、ハロー。私を救ってくれて、本当に……ありがとう……!」
涙を流しながら、ナルガはハローへ微笑んだ。
その笑顔が、ハローへの何よりの報酬であった。
ハローに迷惑をかけてしまったか。髪を掻きながら体を起こすと、ナルガは異変に気付いた。
景色に、色がついている。昨日までモノクロだったはずの世界に、光が満ちていた。
葉擦れの音が澄んで聞こえる、秋に近づく柔らかな気温が肌に伝わる。土の匂いが、胸いっぱいに広がった。
「おはようナルガ! よく眠れたかい?」
くぐもっていないハローの声に、ナルガは飛び起きた。彼の声を、本当の意味で耳にできた。
人々を安心させる、力強い声だ。十年前と同じ、聞く者に勇気を与える声だ。彼の髪も肌も、瞳も……昔と変わらぬ色をしていた。
「手ぬぐい濡らしてあるから、顔拭いてきなよ」
「ああ……」
恐る恐る、桶の水に触れると、冷たかった。顔をぬぐうのって、こんなに気持ちよかっただろうか。
家の中にいい匂いが満ちていく。振り向けば、ハローが朝食を並べていた。パンに野菜スープ、初日に出してくれたのと同じメニューだ。
……もしかしたら、味覚も……!
ナルガはそっと、パンをかじった。小麦の味と匂いが、口いっぱいに広がった。
パンって、こんなに美味しかっただろうか。スープも野菜の甘味がたまらない。久しぶりに食べ物を美味しく感じられて、ナルガはつと、涙を流した。
「ナルガ!? どうしたの急に泣いて、そんな不味かったかな?」
「そうじゃない……そうじゃないんだ……!」
慌てふためくハローに、ナルガは首を振った。
「ずっと、何も感じなかったんだ……景色からは色が消えて、音もよく聞こえなくて……温度も感触も、匂いも……ましてや味すらも……私は失っていたんだ……」
「ずっと、暗い世界に居たんだね」
「でも、やっと、戻ってこれた……はは、生まれ変わった気分だよ」
ナルガは涙を拭き、またパンを齧った。
「美味しいな、このスープも美味しいよ。全部、美味しいよ」
「ナルガがそう言ってくれるなんて、凄く嬉しいな」
朝食を終えるなり、ナルガは外に出た。朝日を受けて、小麦畑が金色に輝いている。初めて見る色のついたラコ村は、緑に囲まれた自然豊かな村落だった。
雲が二重に浮かぶ高い空を見上げ、大きく息を吸うと、また涙が出てきた。
ハローはナルガを見捨てなかった。いつだって笑顔でナルガを支え、孤独に怯えないよう、一緒に居てくれた。ずっと、ナルガを優しく守ってくれていた。
ハローの献身が、心を閉じたナルガを救い出したのだ。
「ありがとう、ハロー。私を救ってくれて、本当に……ありがとう……!」
涙を流しながら、ナルガはハローへ微笑んだ。
その笑顔が、ハローへの何よりの報酬であった。
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