アラサーでクビになった魔王四天王ですが勇者に「結婚しよ」と告白され、溺愛されてるので今は幸せです

歩く、歩く。

文字の大きさ
16 / 207
1部

16話 偽装結婚

しおりを挟む
 翌朝、ナルガが目を覚ますと、ハローがにこやかに「おはよう」と声をかけてきた。



「よく眠れたかい?」

「それなりに」

「良かった」



 ハローは特に変わった様子はない。いつものように、明るく笑いかけてくる。

 昨夜の胸騒ぎは、杞憂だったのだろう。形見のコインを握りしめ、ナルガはほっとした。



「朝飯出来てるからね、顔洗ってきなよ」

「……そうか」



 ナルガは顔をしかめた。また食事をしなければならないか、気が重くなる。

 ハローの用意してくれる、味のしない朝食を必死に飲み下した。気持ちが悪くなって、何度も吐きそうになってしまう。



 ……いつまでも、ハローの世話になるわけにはいかない。早くここから出た方がいいのだろう、けど……。



 ナルガは身分がない。恐らく指名手配されているだろうから、どこにも住む事が出来ない。ならば死を選べばいいのに、魔王の言葉が、ナルガに逃げを許さない。

 フォークを置き、ナルガは目を伏せた。これから、どうやって生きればいいのかな。



「どうした。不味かったかな」

「そうじゃない……」

「これからどうしようって、考えてた?」



 流石に気付かれてしまった。ハローはしばし考える素振りを見せると、手を叩いた。



「ナルガ、もし君さえ良ければなんだけど、いいかな」

「なんだ?」

「俺に嫁がないか?」

「……は?」



 あまりに突飛な提案に、ナルガは言葉を失った。

 嫁ぐ? 嫁になれだと? こいつは突然何を言い出すんだ?



「いや! 嫁ぐって言っても、その……仮だよ仮。ナルガはまだ、身も心も癒えてないだろ? その傷を治す間だけでも、仮の身分が必要だと思うんだ」

「つまり、私が動けるようになるまで、お前の妻を演じろと」

「そうそれ! 俺の嫁って事にすれば、ラコ村の周辺なら自由に動けるようになる。悪い提案じゃないと思うんだけど、どうかな」

「偽装結婚とはまた、相当滅茶苦茶な案だな……しかし、一理ある提案でもある、な」



 ハローの庇護下に入れば、少なくとも死にはしないだろう。ある程度、行動の自由を確保できるのも大きい。



 ナルガには信用できる者は居ないが、剣を交えた好敵手として、ハローだけは信頼できる。彼は他者のためなら、自分の利にならない事も平気で断行する男だ。この提案、受けてナルガの害になる要素はない。



 奇妙なものだ。かつて幾度となく殺し合いを演じた相手と、まさか手を取り合うようになるとはな。



「いいだろう。癒えるまでの間、お前の妻を演じよう。短い間だろうが、夫役をよろしく頼む」

「あ、ああ! こちらこそ!」



 ハローは握手を求めてきた。躊躇った後、ナルガは彼の手を握った。

 心を閉ざした女と、心が壊れた男。仮初の歪な夫婦が誕生した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

国外追放だ!と言われたので従ってみた

れぷ
ファンタジー
 良いの?君達死ぬよ?

処理中です...