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17話 大人になった共犯者
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チョキチョキと、ハサミの小気味よい音が響いている。
ハローに髪を切ってもらったナルガは、自分の新しい姿を確認した。
ショートヘアーにすると、随分と印象が変わるものだ。
「本当に良かったの?」
「せめてもの変装だ、髪型を変えるだけでも違うだろう」
ナルガが潜伏して十日が経った。兵士達の捜査網は解け、彼女が外に出られるようになっていた。
仮とは言え、ハローの妻となった以上、いつまでも引きこもってばかりもいられない。ハローの献身のおかげか、とりあえず体の張りは取れた。
「人に相談しないで、勝手に話を進めて。お前は何回僕を困らせれば気が済むんだこのド阿呆」
「だからごめんって、何回も謝ってるじゃないか」
ハローはエドウィンに小言を喰らっていた。ナルガを嫁にしたと聞いた時、エドウィンは酷く怒っていた。
ただでさえナルガはリスクの塊なのに、余計に危険性を高めるような真似をしたのだ。エドウィンが怒るのもむべなるかな。
「ナルガ! ハローの嫁として振る舞えるよう、村長は勿論、近隣の村や教会にも根回しを済ませてやった。僕の苦労を無碍にする真似をしたら追い出すからな!」
「承知している。私もまだ死にたくはない、命令には従おう」
「ちっ……なんだってこんな奴のために働かなきゃならないんだよくそが……ほら! 服も用意しておいたから着替えろ! それと伊達眼鏡! これ付ければ人の目をごまかせるだろ!」
エドウィンはナルガに一式を投げつけ、ハローの首根っこを掴んだ。
「何するんだよ、痛いじゃないか」
「女の着替えを見る気か馬鹿野郎」
「あ、ごめん!」
夫婦とはいえ、あくまで仮だ。ハローの傍で着替えるのは憚られる。
締め切られた部屋で、古傷だらけの肢体を曝け出す。女らしくない、醜い体を見下ろして、ナルガは奥歯を噛み締めた。
こんな体、見るだけで嫌になるな。
着替えを済ませて外に出るなり、久しぶりの日光に目がくらんだ。太陽って、こんなに眩しかっただろうか。モノクロの世界でも、光が目に染みる。
「凄く似合ってるよ、見違えた」
「世辞はいい。そこのシスターは誰だ」
ハローの後ろにいるミネバを示すと、彼女はびくりとした。
「ミネバって言うんだ。マクミード教会のシスターで」
「教会側の協力者だ。この村と教会は密接な関係にあるからな、司祭の目を誤魔化すためにも、共犯者が必要だ」
「シスターにこのような事をさせていいのか」
「えと、本当はいけないんですけど、エドウィン様の頼みですので」
ミネバはナルガを恐れているようだ。魔王四天王を前にしているのだから当然である。
そんなに恐がりながら、なぜエドウィンの頼みに応じるのやら。ナルガはちょっと考え、察した。
「悪い男だ」
「合理的と言ってほしいね」
ハローも口をつぐむ。ミネバの恋心を利用しているのだから、気分は良くなかった。
「それと、ナルガには偽名を使ってもらう。馬鹿正直に本名名乗ったらすぐバレるからな。村人の前ではアリスと名乗れ、ハローとミネバも呼ぶ時は気を付けろ」
「わかりました」
「色々考えてくれてありがとう」
「言い出しっぺのお前がやるべき事なんだけどなぁ、ちゃんと頭蓋骨に脳みそ詰まってんのか、ええおい?」
「ご、ごめんって……」
怒り狂うエドウィンに、ハローは冷や汗を流した。
「……相手の弱みに付け込むたぁ、僕らも悪い奴になったな」
「大人になったもんだよ、互いに」
偽りでもいいから、ナルガを妻にしたかった。嘘であろうと、十年想い焦がれてきた相手と結婚できて、ハローは幸せを感じていた。
ずっと忘れていた、「幸せ」を思い出していた。
「もう二度と、失わない。大事な人を今度こそ、守らなくちゃな」
「ま、あんまはしゃぎすぎるなよ」
こうして、ナルガとハローの、仮初の夫婦生活が始まったのだった。
ハローに髪を切ってもらったナルガは、自分の新しい姿を確認した。
ショートヘアーにすると、随分と印象が変わるものだ。
「本当に良かったの?」
「せめてもの変装だ、髪型を変えるだけでも違うだろう」
ナルガが潜伏して十日が経った。兵士達の捜査網は解け、彼女が外に出られるようになっていた。
仮とは言え、ハローの妻となった以上、いつまでも引きこもってばかりもいられない。ハローの献身のおかげか、とりあえず体の張りは取れた。
「人に相談しないで、勝手に話を進めて。お前は何回僕を困らせれば気が済むんだこのド阿呆」
「だからごめんって、何回も謝ってるじゃないか」
ハローはエドウィンに小言を喰らっていた。ナルガを嫁にしたと聞いた時、エドウィンは酷く怒っていた。
ただでさえナルガはリスクの塊なのに、余計に危険性を高めるような真似をしたのだ。エドウィンが怒るのもむべなるかな。
「ナルガ! ハローの嫁として振る舞えるよう、村長は勿論、近隣の村や教会にも根回しを済ませてやった。僕の苦労を無碍にする真似をしたら追い出すからな!」
「承知している。私もまだ死にたくはない、命令には従おう」
「ちっ……なんだってこんな奴のために働かなきゃならないんだよくそが……ほら! 服も用意しておいたから着替えろ! それと伊達眼鏡! これ付ければ人の目をごまかせるだろ!」
エドウィンはナルガに一式を投げつけ、ハローの首根っこを掴んだ。
「何するんだよ、痛いじゃないか」
「女の着替えを見る気か馬鹿野郎」
「あ、ごめん!」
夫婦とはいえ、あくまで仮だ。ハローの傍で着替えるのは憚られる。
締め切られた部屋で、古傷だらけの肢体を曝け出す。女らしくない、醜い体を見下ろして、ナルガは奥歯を噛み締めた。
こんな体、見るだけで嫌になるな。
着替えを済ませて外に出るなり、久しぶりの日光に目がくらんだ。太陽って、こんなに眩しかっただろうか。モノクロの世界でも、光が目に染みる。
「凄く似合ってるよ、見違えた」
「世辞はいい。そこのシスターは誰だ」
ハローの後ろにいるミネバを示すと、彼女はびくりとした。
「ミネバって言うんだ。マクミード教会のシスターで」
「教会側の協力者だ。この村と教会は密接な関係にあるからな、司祭の目を誤魔化すためにも、共犯者が必要だ」
「シスターにこのような事をさせていいのか」
「えと、本当はいけないんですけど、エドウィン様の頼みですので」
ミネバはナルガを恐れているようだ。魔王四天王を前にしているのだから当然である。
そんなに恐がりながら、なぜエドウィンの頼みに応じるのやら。ナルガはちょっと考え、察した。
「悪い男だ」
「合理的と言ってほしいね」
ハローも口をつぐむ。ミネバの恋心を利用しているのだから、気分は良くなかった。
「それと、ナルガには偽名を使ってもらう。馬鹿正直に本名名乗ったらすぐバレるからな。村人の前ではアリスと名乗れ、ハローとミネバも呼ぶ時は気を付けろ」
「わかりました」
「色々考えてくれてありがとう」
「言い出しっぺのお前がやるべき事なんだけどなぁ、ちゃんと頭蓋骨に脳みそ詰まってんのか、ええおい?」
「ご、ごめんって……」
怒り狂うエドウィンに、ハローは冷や汗を流した。
「……相手の弱みに付け込むたぁ、僕らも悪い奴になったな」
「大人になったもんだよ、互いに」
偽りでもいいから、ナルガを妻にしたかった。嘘であろうと、十年想い焦がれてきた相手と結婚できて、ハローは幸せを感じていた。
ずっと忘れていた、「幸せ」を思い出していた。
「もう二度と、失わない。大事な人を今度こそ、守らなくちゃな」
「ま、あんまはしゃぎすぎるなよ」
こうして、ナルガとハローの、仮初の夫婦生活が始まったのだった。
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