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第2章 出会い アイリス、クロ編 (16話〜48話)
報酬②
しおりを挟む「クロが主と居るのは当たり前。主だから。まだだけど」
「そ、そうなんですか…………」
何事でもないように発したクロの言葉に、なぜか俺の腹部に跨ったアイリスがしゅんと落ち込む。
一体どうしたのだろう。
「てかクロ、アイリスと知り合いだったの?」
「ん。クロの家ここ」
初耳なんですが。
でもそっか、それなら納得出来ることもいくつかある。
初めてクロに会った時もタイミングが良すぎたしね。
きっとダグラスさんが気を利かせて助っ人としてつけてくれたのだろう。
「いえ、私は何もしていませんよ。クロの行動は全て自己判断です」
受け付けの奥からダグラスさんが姿を現した。
自己判断って、どういうことだ?
奴隷なら何かしらの制約で自由な行動は遮られるはずだけど……………。
「クロはアイリスとはまた違う特殊な奴隷でして……………奴隷であって奴隷にあらず。名義上、私が仮の主となっておりますが、クロに命令できるのは本当の主だけなのです」
なるほど分からん。
とりあえず主の居ない今はめちゃくちゃ自由って事くらいしか理解できなかった。
……………あれ?でもクロ、俺の事を主って……………んん~?
やっぱ分からん。
あ、て言うか俺って、そもそもこの世界の奴隷制度について全く知らないからなぁ。
アイリスを買うならそこら辺もちゃんと調べとかなくちゃ。
「ですが、何も言わずに出かけてしまったのは初めてですね。いつもはどこに行くかだけは教えてくれるのですが……………」
「見つけた、主」
「なるほど。やはりそうでしたか…………」
ちらりと俺の方を見て意味深に頷くダグラスさん。
いや、二人で納得してないで俺にも教えてよ!
「いえいえお気になさらず。それよりもマシロさん、驚きましたよ。あの紅魔の魔王を討伐したそうですね」
「情報早いね…………さっきギルドに報告したばっかなんだけど」
「商人にとって情報は大きな武器ですから」
なるほどね。
確かに〈眷属化〉スキルについて調べられる情報収集能力があれば、それくらい造作もないか。
さもありなん。
「ほいじゃあ、これお金。ちゃんと値段分入ってるはずだよ」
【ストレージ】から取り出した小袋の中から白金貨を数枚抜いてダグラスさんに渡す。
ダグラスさんは丁寧に中身を確認すると、受け付けのお姉さんを連れて一度奥の部屋に行き、何やら魔法陣が描かれた古そうな紙と台座を持ってきた。
〈鑑定〉によると詳細や名前は"unknown"なものの、奴隷との契約の際に必須のアイテムであることが分かった。
「確かにお受け取り致しました。それでは、アイリス。たった今からあなたの主人はマシロさんです」
「はい──────────って、えぇっ!?」
俯き気味だったアイリスが返事から少し間を置いて、突然驚きの声を上げながらガバッ!と顔を上げた。
驚きのあまり視線があっちこっちに行き交い、言葉にならないようで口をパクパクさせている。
可愛い。
「ですが、もちろんあなたには拒否権も──────────」
「なります!マシロさんの…………いえ、ご主人様の奴隷になります!」
ダグラスさんが最終確認を取ろうとするが、興奮したように顔を上気させたアイリスがそれを遮って食い気味に答える。
しかしすぐに我に返ったのか、恥ずかしそうに前のめりの体を元に戻しながら、ちらりと俺の方を見てテレテレとはにかんだ。
え、何この子可愛すぎない?
「ではここで主従契約の要である奴隷紋を首輪に刻みますが、よろしいですか?」
「ん?あ、あぁ、分かった」
いかんいかん、照れてるアイリスが可愛くて話を聞き逃すところだった。
えっと、確か奴隷紋ってのはダグラスさんが言う通り、奴隷と主人の間を結ぶ契約の要である印だったはず。
これを首輪に刻むことで、主人の存在と制約なんかを上書きするんだったよな…………。
とりあえず帰ったらちゃんと調べよう。
奴隷を買うと決めた割には知識が無さすぎる。
そんな事を考える俺の視線の先では、アイリスが台座の横に置いてあった小さいナイフで指先を切り、出てきた血をポタリと紙の上に垂らす。
普通はシミになるはずが、その血は吸い込まれるように紙の中に消えてしまった。
「クロも行きますね?」
「ん、当然」
こくりと頷いたクロが、アイリスに習って指先を切って魔法陣の上に血を垂らす。
…………えっ、ちょ、ちょっと待って!?
「さすがに楽々クロを買えるお金を持ってるか分かんないんだけど…………」
「大丈夫ですよ、クロの分のお代はいりません」
「その心は?」
そう言えばアイリスがダグラスさんは商魂逞しい人だって言ってたな…………。
まさかこれを借りにして俺に何かさせる気では?
「先程言ったように、クロは奴隷であって奴隷じゃ無い。そもそも商品でない子に値段は付けられません。私はただ、この子が選ぶ主人に興味があっただけですから」
「ふーん………」
んまぁそういう事ならありがたくクロも一緒に来てもらおうかな。
よし、これでいつでもクロの猫耳としっぽをもふもふできるぞ!
ケモ耳万歳!
「最後に主人であるマシロさんが血を与えれば完了です」
「はいよ」
俺も続いて指先に傷をつけて一滴血を垂らす。
すると、血が中央に触れた途端に、魔法陣の線一本一本に染み渡るように純白が広がり神々しい光を放つ。
眩い光に思わず目を細める。
徐々に光の中から純白と金色の塊が生成され、球体を形取ったそれは二人の首輪目掛けて飛翔。
ちょうど正面のど真ん中に命中すると、淡い残光を辺りに散らして消えていった。
それと同時に魔法陣の光も消える。
二人の首輪には、球体が命中した一箇所だけに謎の幾何学模様が残されていた。
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