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手がかりを探そう! 1

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「とはいえ、これからどうするかだよな。残念だけどあたしらにできることなんてたかがしれてんぞ」
今のわたしたちの体では、アリシアお嬢様の部屋から出ることすら難しい。ましてや、構造の分からない巨大な屋敷の中を歩いて探すことなんてできるはずがない。

「小さくなった時の状況整理からしようよ。そしたら何かわかるかもよ?」
「状況整理って言ってもなぁ……。カロリーナは何か手がかり持ってんのかよ?」
「何か手がかりかぁ……」
何かと言われても、あのときは空腹でほとんど意識もなかったから、あまり思い出せなかった。無理やりこの屋敷にくる直前の記憶をさらい出そうとしたら、パッと浮かんできたのが甘いチーズケーキだった。

「そういえば、わたしはその場でチーズケーキをもらうか、メイドとして3食ご飯付きの環境で働くかの2択を迫られたかな」
「それで、メイドを選んでここに来たってわけか。その2択ならまあ元お嬢様でもメイドを選ぶよな」
「ううん、わたしは初めはチーズケーキを選んだ。でも、メイドを選んだらチーズケーキももらえるって聞いたから、結局メイドを選んでここにきたって感じかな?」

「なんでその2択でチーズケーキ選ぶんだよ……。そんなにメイドになるのが嫌だったのか? しかも結局チーズケーキももらえてるんだったら、何のための2択なんだよ……」
「お腹減ってたから、チーズケーキ食べたくて……」
「いや、なんかさっきから思いつきで行動しすぎじゃねえか……?」
リオナに呆れられてしまった。

「で、そのままチーズケーキを食べさせてもらう時に、口移しでチーズケーキもらったの」
「口移しって……」
リオナが顔を顰めた。

「わたし、そのとき胃がすっからかんだったから、食べやすいように一応気遣ってくれたみたい」
「それにしたって、初対面の人から口移しでチーズケーキもらうってお前なかなかすげえな」
「甘くて美味しかったよ」
「そういう問題じゃねえよ……」
リオナがため息をついてから続けた。

「で、その後どうなったんだよ。何か小さくなる魔法みたいなのかけられたりしたのかよ?」
「うーん……」
わたしは頭を悩ませた。

「どうしたんだよ? 何か言えないことかよ?」
「いやー……、お恥ずかしながら、わたし寝ちゃって……」
「はぁ?」
リオナが呆れたように言う。

「お前、寝ちゃったって。どんだけ呑気なんだよ……」
「いやー、面目ない……。お腹に食べ物が入って安心しちゃったからかわからないけれど、眠くなっちゃって……」
苦笑いしてから、わたしは尋ね返した。

「そういうリオナはどうやって小さくされたわけ?」
わたしが尋ねると、リオナが少し悩んでから話だした。
「あたしか……」
リオナが少し表情を曇らせた。

「覚えてないの?」
「いや、忘れられねえよ。あの真っ赤ルージュの女は多分相当強力な魔法を使える魔女っぽい。あたしは殺されかけてたところを助けてもらったんだから、インパクトはかなりある」
「殺されかけたところって、そんな大変なところを助けてもらったの!?」
想像していたよりも殺伐なエピソードが出てきて驚いていたら、リオナが苦笑いをする。

「あたしが住んでいたところは結構殺伐としてたからさ、その時は昔金を奪った相手に因縁つけられてたんだよ」
「ねえ、待って、情報が追いつかない」
わたしは頭を抱えた。

「リオナがお金を奪ったってこと? リオナは悪い人なの?」
にはわかんねえかも知れねえけど、生きるためにはいろいろやらなきゃならねえときもあるんだよ」
普段とは違う重たい声を出されたから、わたしは何も言えなくなった。少なくとも、当時のリオナは不本意にそういうことをしなければならない状況にあったのだ。

そっか……、とわたしは小さくため息をついた。視線の先のリオナは普段と変わらない少し気の強そうなだけでどこにでもいそうな赤髪の少女なのに、なんだか普段とは違うリオナに見えてしまった。

「あたしだってカロリーナみたいに平穏に生きたかったよ……、だからさっきからこの環境は悪くないって言ってんだろ……。たとえ簡単にエミリアたちに踏み潰されちまうような弱っちい大きさだとしても、人を傷つけずに食う飯の美味さには勝てねえよ」
もう一度、「そっか……」と言ってから、「ごめん、続けて」とできるだけ普段通りの笑みを浮かべながら伝えた。
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