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ようやく晩御飯 3

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「なあ、ソフィア。こんな飯の時間にエミリアが掃除始めることがあんのか?」
「さあ、私には分かりかねますけれど、他の用事を済ませる時間の都合で、ちょうど時間が重なってしまったのではないでしょうか。エミリアさんはアリシアお嬢様だけでなく、レジーナお嬢様のお世話もしてますから」

「それにしたってだろ。危うくメロディが怪我しかけたんだぞ? 大丈夫か?」
リオナがメロディの方を見た。
「メロディは平気だよ! リオナちゃんが守ってくれたもん!」
「あの、今のって地震じゃないんですか?」
わたしは尋ねた。

エミリアの掃除時間がどうこうとか言っていたけれど、大規模な魔法か何か使ったということ? エミリアという人は優秀なメイドのようだから、強い魔法を使えるということだろうか。けど、掃除と家を揺らすような魔法はあまり関係はなさそうだけど……。実際、家を揺らした結果綺麗になるどころか、家具がめちゃくちゃになっているわけだし。

「エミリアさんって人は、この屋敷の中を掃除してくれたんですか?」
「んなわけねーだろ。あいつがあたしたちのためになることなんてするわけねえだろ」
だとしたら、わざわざ家が揺れるような大きな魔法を使って、一体何を掃除したのだろうか。

「リオナさん、口が悪いですよ。エミリアさんは食事の用意だってしてくれているのですし、先ほどの掃除だって、結果的には私達の屋敷に埃や虫が入らないために清潔にしてくれているという意味もあるのですから」
ソフィアがリオナの目の前に顔をグッと突き出して、嗜めた。

ソフィアの言葉を聞いて、キャンディとメロディがお互いに抱きつきあって、震えた。
「キャンディ、埃はマズイから嫌い!」
「メロディ、虫さんは怖いから嫌い!」
ソフィアが、ね?、と言ってリオナの方を見る。

「ああ、もう。わかったよ。エミリア様いつもありがとうございます~。これで良いんだろう?」
リオナが口を尖らせて、ふざけた調子で言った。
「そういうのは本人に直接お伝えした方が宜しいですよ」
「絶対嫌!」
リオナは不貞腐れたように、顔を背けてしまった。

「まあ、何でもいいですけど。とりあえず、私はダイニングに戻って食事の様子を確認して来ますね。あの腹黒さんがきちんと料理を見てくれていたら良いのですが……」
ソフィアがそそくさと部屋から出て行ってしまった。その後で、リオナに尋ねた。

「腹黒さんって?」
「ベイリーのことだな」
「ベイリーさんって腹黒いの?」
四六時中穏やかに糸目で微笑む彼女のことを思い出す。そんなに悪い印象はないし、どちらかと言えば面倒見が良さそうなイメージだった。

「優しいよ!」
「良い人だよ!」
「あたしにとっては優しい姉貴って感じだし、こいつらが言うんだから、間違いなく悪い人ではないと思うが、ソフィアとは合わねえんじゃねえのか?」
厳格な雰囲気のソフィアとのんびりとした感じのベイリー。たしかに2人は気は合わないのかもしれない。

「とりあえず、あたしらがここに来た時から、ずっとあいつらは仲悪いからな」
「リオナさんはいつ頃ここにきたの?」
「まだ半年も経ってねえよ」
「あの2人は?」
「さあな。でもかなり昔からいるみてえだからな。あんだけ仲悪いんだったら一体どうやってこの小さなメイド屋敷で2人で一緒に過ごしてたんだろうな」

「他にもメイドがこの屋敷内にいたとか?」
「あたしらが来た時点ではあの2人だけだったから詳細はわからねえけど、あんまり人がいた感じもしねえぞ」
「昔は仲良かったとか?」
「さあ、どうだろうな。そうは見えねえけど」
リオナから話は聞いたけれど、結局わたしたちで話したところで憶測でしかない。

そんな話をしている間にも、お腹の音は鳴っていた。
「ねえ、そろそろご飯食べに行かない?」
「そうだな」
「ご飯!」
「ご飯!」
手を繋いで急いで部屋から出て行ったキャンディとメロディの小さな背中を追いながら、リオナとともにのんびりとダイニングに向かった。
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