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惨劇のお留守番
2.悲劇のヌーッティ
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夜は賑やかに過ぎていった。
ヌーッティとトゥーリにとって、誰かの家に宿泊するのは初めてのことであった。
ハンナの可愛らしい部屋で、三人はカードゲームをしたり、動画を見たり、お菓子を食べたり、ハンナの淹れた紅茶を飲んだりして過ごした。
ハンナはぐいっとマグカップに入った紅茶を飲み干すと、カップをベッドサイドテーブルの上に置いた。
それから、口まわりにジャムをつけながらレットゥを食べるヌーッティとマグカップを交互に見た。
「そういえば、前に、ヌーッティがティーポットに入って出られなくなったことあったよね」
ハンナは好奇に溢れんばかりの瞳をヌーッティに向けている。
「ヌ? ヌーはもうへっぽこしないヌー」
自信満々に、二度と同じ轍を踏まないぞ! といった顔をハンナに向けるヌーッティ。
「あれって、どういう原理で出られたんだっけ?」
ハンナは疑問を口に出しながら、空になったマグカップを手に取り、もう片方の手でヌーッティを鷲掴みにした。
「どうしたヌー?」
両手でレットゥを持ち、むしゃむしゃ食べながらヌーッティはハンナに訊いた。
「ちょっと実験してみよう!」
すると、ハンナによってヌーッティはマグカップの中に強引に突っ込まれた。
「マグカップでもヌーッティははまるのか……。実験は大事よね」
ヌーッティは独り言つハンナを疑問の表情で見つめる。
「何をしたヌー? ヌーはお人形じゃないヌー」
「知ってるよ。ただ、またヌーッティがティーポットにはまったときのことを考えて、マグカップで実験してみるの。さあ、ヌーッティ! マグカップから出てみて!」
ヌーッティは嫌な予感を抱きつつ、マグカップの縁に両手を置き、カップから出ようと試みた。
しかし、お尻でつかえて出ることはできなかった。
「ヌーッティ、また太ったんじゃない?」
「し、失礼だヌー! ヌーはイケグマだヌー! 八等身のスラリとした手足に、筋肉ムキムキのおなか! 完璧で完全無敵の小熊の妖精さんだヌー! こんなマグカップ、すぐに出て……ヌ? なんでお尻でつっかえるヌー? ヌーのおしりはキュートだヌー。おかしいヌー!」
ものの見事にヌーッティはマグカップにもはまった。
「よし! それじゃあ、マグカップから出しますか!」
ハンナは息巻いて、長袖のカーディガンの袖をまくった。
それから、片方の手でマグカップを掴み、もう片方の手でヌーッティの半身を鷲掴んだ。
そして、ハンナは、まず、そのまま抜けるか実験をした。
力を込めてヌーッティとマグカップを引っ張った。
「痛いヌー! 痛いヌー! 痛いヌー!」
ヌーッティの顔は次第に青ざめていった。
思い出したのだ。ティーポットにはまった惨劇のことを。
「やっぱり、この方法はだめか。それなら……」
ハンナはヌーッティの胴体を躊躇なく捻った。
「ヌゥウウウウウウウウウウウウウウ!」
得も言われぬヌーッティの絶叫が部屋に響いた。
だが、ヌーッティが叫んだ五秒後、すぽんっ! とコルクが瓶から抜けるような音と共に、ヌーッティの体がマグカップから引き抜かれた。
ヌーッティのお尻には赤い線がついていた。
「ま、まずいヌー。ハンナが恐怖の大魔王だということを忘れていたヌー」
ヌーッティの顔は真っ青。いつぞやの記憶がすべて蘇っていた。
「逃げるヌー!」
ヌーッティはハンナの手を振りほどいて空中にジャンプした。
ぽてっ! と床に落ちたヌーッティはすぐに立ち上がると思いっきり駆け出し、部屋のドアを目指した。
ドアまであともう少しのところだった。
ヌーッティを第二の悲劇が襲った。
なんと、ブリキでできた丸い輪っかの罠に引っかかったのであった。
「なんで罠が置いてあるヌー⁈」
ヌーッティの右足が完全にはまっていた。がちゃがちゃと動かし引き抜こうにも引き抜けず、固定されているため罠を付けたまま走り出すことができなかった。
「それは、ヌーッティがキッチンに行くのを防ぐための罠だよ。もう、本当に食い意地が張ってるんだから!」
ハンナは、ヌーッティがハンナから逃げようとしたということに考えが至らなかった。
「違うヌー! ヌーはキッチンに行くんじゃないヌー! おうちに帰ろうとしただけだヌー!」
このヌーッティの主張は真実であった。恐怖の大魔王ハンナから逃げようとしただけであったのだ。
だが、あのハンナがその主張が真であると思うことはなかった。
これは、ヌーッティの日頃の行いの結果である。
ハンナはブリキの罠と、罠にかかったヌーッティを持つと、力任せにヌーッティを引っ張った。
悲痛なるヌーッティの叫びが部屋にこだました。
そして、引き抜かれたはいいものの、ヌーッティは強引に引っ張られたせいで脱臼した。
ヌーッティは涙と鼻水を流しながら床に横たわった。
そこへ事態を見かねたトゥーリがやってきた。
「トゥーリ。もう、おうちに帰りたいヌー」
ヌーッティは切実なる願いをトゥーリに打ち明けた。
「残念だけど、今夜はハンナの家にお泊まりだよ。ひとまず脱臼を治すから。せーの……」
トゥーリはヌーッティの脱臼した右足を思いっきり股関節に向かって押しやった。
悲鳴は上がらなかった。あまりの痛さにヌーッティは悲鳴を上げられなかったのである。
「もう、大丈夫だよ。ヌーッティ、立って」
トゥーリは泣きじゃくるヌーッティの手を取って、無理やり立たせた。すると、
「あれ? 痛くないヌー。治ったヌー?」
トゥーリはヌーッティを見つめながらため息をついた。
「それじゃあ、もう夜も遅いし、寝ようか」
ハンナのそのひとことにヌーッティは歓喜した。それは、ハンナが寝るということは、ヌーッティを使った実験、もとい奇行を行わなくなるからだ。
こうして、三人は同じベッドで一緒に寝ることにしたのである。
夜は穏やかに、静かに更けていったのであった。
ヌーッティとトゥーリにとって、誰かの家に宿泊するのは初めてのことであった。
ハンナの可愛らしい部屋で、三人はカードゲームをしたり、動画を見たり、お菓子を食べたり、ハンナの淹れた紅茶を飲んだりして過ごした。
ハンナはぐいっとマグカップに入った紅茶を飲み干すと、カップをベッドサイドテーブルの上に置いた。
それから、口まわりにジャムをつけながらレットゥを食べるヌーッティとマグカップを交互に見た。
「そういえば、前に、ヌーッティがティーポットに入って出られなくなったことあったよね」
ハンナは好奇に溢れんばかりの瞳をヌーッティに向けている。
「ヌ? ヌーはもうへっぽこしないヌー」
自信満々に、二度と同じ轍を踏まないぞ! といった顔をハンナに向けるヌーッティ。
「あれって、どういう原理で出られたんだっけ?」
ハンナは疑問を口に出しながら、空になったマグカップを手に取り、もう片方の手でヌーッティを鷲掴みにした。
「どうしたヌー?」
両手でレットゥを持ち、むしゃむしゃ食べながらヌーッティはハンナに訊いた。
「ちょっと実験してみよう!」
すると、ハンナによってヌーッティはマグカップの中に強引に突っ込まれた。
「マグカップでもヌーッティははまるのか……。実験は大事よね」
ヌーッティは独り言つハンナを疑問の表情で見つめる。
「何をしたヌー? ヌーはお人形じゃないヌー」
「知ってるよ。ただ、またヌーッティがティーポットにはまったときのことを考えて、マグカップで実験してみるの。さあ、ヌーッティ! マグカップから出てみて!」
ヌーッティは嫌な予感を抱きつつ、マグカップの縁に両手を置き、カップから出ようと試みた。
しかし、お尻でつかえて出ることはできなかった。
「ヌーッティ、また太ったんじゃない?」
「し、失礼だヌー! ヌーはイケグマだヌー! 八等身のスラリとした手足に、筋肉ムキムキのおなか! 完璧で完全無敵の小熊の妖精さんだヌー! こんなマグカップ、すぐに出て……ヌ? なんでお尻でつっかえるヌー? ヌーのおしりはキュートだヌー。おかしいヌー!」
ものの見事にヌーッティはマグカップにもはまった。
「よし! それじゃあ、マグカップから出しますか!」
ハンナは息巻いて、長袖のカーディガンの袖をまくった。
それから、片方の手でマグカップを掴み、もう片方の手でヌーッティの半身を鷲掴んだ。
そして、ハンナは、まず、そのまま抜けるか実験をした。
力を込めてヌーッティとマグカップを引っ張った。
「痛いヌー! 痛いヌー! 痛いヌー!」
ヌーッティの顔は次第に青ざめていった。
思い出したのだ。ティーポットにはまった惨劇のことを。
「やっぱり、この方法はだめか。それなら……」
ハンナはヌーッティの胴体を躊躇なく捻った。
「ヌゥウウウウウウウウウウウウウウ!」
得も言われぬヌーッティの絶叫が部屋に響いた。
だが、ヌーッティが叫んだ五秒後、すぽんっ! とコルクが瓶から抜けるような音と共に、ヌーッティの体がマグカップから引き抜かれた。
ヌーッティのお尻には赤い線がついていた。
「ま、まずいヌー。ハンナが恐怖の大魔王だということを忘れていたヌー」
ヌーッティの顔は真っ青。いつぞやの記憶がすべて蘇っていた。
「逃げるヌー!」
ヌーッティはハンナの手を振りほどいて空中にジャンプした。
ぽてっ! と床に落ちたヌーッティはすぐに立ち上がると思いっきり駆け出し、部屋のドアを目指した。
ドアまであともう少しのところだった。
ヌーッティを第二の悲劇が襲った。
なんと、ブリキでできた丸い輪っかの罠に引っかかったのであった。
「なんで罠が置いてあるヌー⁈」
ヌーッティの右足が完全にはまっていた。がちゃがちゃと動かし引き抜こうにも引き抜けず、固定されているため罠を付けたまま走り出すことができなかった。
「それは、ヌーッティがキッチンに行くのを防ぐための罠だよ。もう、本当に食い意地が張ってるんだから!」
ハンナは、ヌーッティがハンナから逃げようとしたということに考えが至らなかった。
「違うヌー! ヌーはキッチンに行くんじゃないヌー! おうちに帰ろうとしただけだヌー!」
このヌーッティの主張は真実であった。恐怖の大魔王ハンナから逃げようとしただけであったのだ。
だが、あのハンナがその主張が真であると思うことはなかった。
これは、ヌーッティの日頃の行いの結果である。
ハンナはブリキの罠と、罠にかかったヌーッティを持つと、力任せにヌーッティを引っ張った。
悲痛なるヌーッティの叫びが部屋にこだました。
そして、引き抜かれたはいいものの、ヌーッティは強引に引っ張られたせいで脱臼した。
ヌーッティは涙と鼻水を流しながら床に横たわった。
そこへ事態を見かねたトゥーリがやってきた。
「トゥーリ。もう、おうちに帰りたいヌー」
ヌーッティは切実なる願いをトゥーリに打ち明けた。
「残念だけど、今夜はハンナの家にお泊まりだよ。ひとまず脱臼を治すから。せーの……」
トゥーリはヌーッティの脱臼した右足を思いっきり股関節に向かって押しやった。
悲鳴は上がらなかった。あまりの痛さにヌーッティは悲鳴を上げられなかったのである。
「もう、大丈夫だよ。ヌーッティ、立って」
トゥーリは泣きじゃくるヌーッティの手を取って、無理やり立たせた。すると、
「あれ? 痛くないヌー。治ったヌー?」
トゥーリはヌーッティを見つめながらため息をついた。
「それじゃあ、もう夜も遅いし、寝ようか」
ハンナのそのひとことにヌーッティは歓喜した。それは、ハンナが寝るということは、ヌーッティを使った実験、もとい奇行を行わなくなるからだ。
こうして、三人は同じベッドで一緒に寝ることにしたのである。
夜は穏やかに、静かに更けていったのであった。
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