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ヌーッティの挑戦

6.いつものヌーッティ

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 トゥーリは厳しい眼差しでヌーッティを見やると指さした。
「ヌーッティ、木を倒すとか言って、キッチンのお菓子を大量に食べたんだよ!」
 沈黙が訪れた。
 数秒後、それを破ったのはアキであった。
「具体的に何を食べたのか知ってるんだな?」
 アキの声は自然と低くなっていた。
 トゥーリは険しい面持ちで首肯した。
「ビスケットとラクリッツのチョコとグミだよ」
 アキはダイニングルームから出るとキッチンへ行き、ビスケットとラクリッツのチョコ、そして、グミが入っていた棚やかごを確認した。
 ビスケットがしまわれていた吊戸棚を開けると、食い散らかされた痕跡があった。
 ラクリッツのチョコとグミが入れてあったかごは、中身が空になったタッパーと袋だけが残されていた。
 アキは無言のまま、ダイニングルームへと戻って来た。
 ヌーッティはちらりとアキを見た。
 アキの目は凍るような冷たさを放っていた。
 ヌーッティは身震いした。
 いつも以上に怖いアキの形相を見たヌーッティは押し黙るほかなかった。
 アキはさっと3人分のランチプレートを手と腕を使って持つと、キッチンへと運んでいった。それから、戻って来たかと思うと、今度は3組のナイフとフォークを持っていってしまった。
 再びダイニングルームへ戻ってきたアキはヌーッティの目の前に立った。
「弁明は?」
 冷や汗をだらだらとかいているヌーッティは打開策を思いつけなかった。
「な、ないヌー……」
 こう答える以外、選択肢がなかった。
 しかし、それでも、ヌーッティは自身の主張をしなければと思った。
「でもでも、ヌーはただ強くなりたかっただけだヌー! お菓子をいっぱい食べなくちゃ強くなれないヌー!」
「却下」
 アキのひとことでヌーッティの主張は退けられた。
「お菓子をいっぱい食べるイコール強くなるじゃないだろ! 少しの間ここで反省すること! そうしたら、お昼ごはんは食べてよし! ただし!」
「やだヌー!」
 先を見越したかのようにヌーッティは異を唱えた。だが、
「年末までケーキを含むお菓子の一切を食べることを禁止!」
 悲劇の鉄槌がヌーッティに下されたのであった。
 30分ほど泣いてからヌーッティはキッチンへ、アキとトゥーリが食事をとっているところへやって来た。
 目とお尻が赤いヌーッティはアキに謝ると、一緒にごはんを食べ始めた。
 なお、数日間、ヌーッティは、いたずら好きのアレクシから「赤尻のヌーッティ」というあだ名でからかわれた。
「ヌーは赤鼻のトナカイさんじゃないヌー!」
 それを聞いたアキとトゥーリとアレクシは「言い得て妙だなぁ」と思った。
 こうして、ヌーッティの必殺技習得の特訓は悲劇と喜劇のうちに幕を閉じたのであった。
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