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作れ! 新しいお洋服!
2.救世主、現る?
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トゥーリの着ているワンピースの脇腹の縫い目が引き裂けた。
ヌーッティのせいではないが、間接的にはヌーッティのせいでもあった。
だからこそ、ヌーッティは直感した。
このままでは、トゥーリに刈られると。
そう、バリカンで。毛が。
「ヌーはなにも悪いことしてないヌー!」
ヌーッティはトゥーリに力の限り無実を訴えた。
「ヌーはただお菓子を探してただけだヌー!」
ついうっかり、ヌーッティは正直に自身の行いを白状した。
ヌーッティの怯える瞳に、殺気立つトゥーリの姿が映った。
ヌーッティはトゥーリが怒る理由を理解していた。
それは、トゥーリの着ているワンピースがアキのお手製で、アキのことを大好きなトゥーリがとっても大切にしていたからであった。
「ヌーッティィイイイイイイ!」
トゥーリは家を震わせるほどの低い声でヌーッティの名を呼んだ。
同時に、トゥーリはヌーッティめがけて突進した。
そこへ、
「どうした⁈」
青年の声が聞こえて、トゥーリの動きがぴたっと止まった。
ヌーッティは顔だけ横へ向け、キッチンの入り口を見た。
すると、アキが慌てた面持ちでキッチンの中を覗き込んでいた。
アキの顔を見たヌーッティは緊張の糸が切れたように涙をこぼし始めた。
「アキー!」
泣きながらヌーッティがアキの元へ助けを求めるように駆け出した——が、しかし、トゥーリに腕を引っつかまれ、放り投げられた。
「アキー! ヌーッティが服やぶいたー!」
トゥーリはしゃがみこんだアキの胸の中に飛び込んだ。
いつもは大人びたトゥーリが珍しく大泣きした。
アキはため息をひとつ吐くと、目を細め、むくりと起き上がっているヌーッティを見た。
「で、今度は何をやらかしたんだ?」
説明を求められたヌーッティは事の転末を話し始めた。
ヌーッティがおやつを食べられなくなったので、お菓子を探していたこと。
そこへ、トゥーリがやって来て、ヌーッティの行動を妨げたこと。
その過程で、トゥーリの服が勝手に破けたこと。
ヌーッティはそれらを真剣に話した。
「つまり、ヌーは悪くないヌー!」
「いや、ヌーッティが悪い」
アキはばっさりとヌーッティを断罪した。
「なんでだヌー⁈」
ヌーッティはひどくうろたえた。
ここで引き下がるとおやつ断食期間が伸びる可能性があると気づいたからであった。
「ヌーはただ逃げただけだヌー!」
「だから、そもそもおやつ禁止してるのにお菓子を食べようとしたのが悪いんだろ? それに、こんなにキッチンを散らかして……」
アキは散らかったキッチンの惨状を見回した。
「まあ、ひとまずキッチンの片付けだな」
アキはため息混じりに頭をかいた。
「アキとトゥーリも手伝ってくれ——」
「わけないだろ。ヌーッティがひとりで片付けること」
「やだヌー! ヌーひとりぼっちはやだヌー!」
「ただし! ひとりで片付けられたらおやつ禁止はなし!」
「片付けるヌー! ヌーはやればなんでもできる子だヌー! お片付けのプロだヌー!」
ヌーッティは意気揚々と張り切ってキッチンを片付け始めた。
アキは泣きじゃくるトゥーリをなだめながら、キッチンの入り口近くにあぐらをかいて座りつつ、ヌーッティの片付けを見守っていた。
そして、1時間くらい経過した頃。
キッチンは元通りとはいかないまでも、一応は片付いた。
「どうだヌー!」
自信に満ちあふれたヌーッティは両手を腰にあてて、ドヤ顔でアキに尋ねた。
「40点。ギリ合格」
「やったヌー!」
ヌーッティははしゃぐ気持ちを全身で表現するかのように、ぴょんぴょん跳ねた。
「さてと、トゥーリの新しい服を作らなきゃだな。ここまで破けちゃってると修繕は難しいし、布は今よりももっと伸縮性があったほうがいいかな」
「じゃあ、布を買いに行くヌー?」
ヌーッティはアキに尋ねた。
「その前に採寸しないとかな」
「やだ」
アキの言葉をトゥーリが拒否した。
「え? やだ? 新しい服はいやだった?」
アキは心配な面持ちで、アキの胸に顔を埋めるトゥーリを見た。
トゥーリは首を横に振った。
「アキに採寸されたくない」
きっぱりとトゥーリは言い放った。
困った表情を浮かべるアキを見て、ヌーッティは閃いた。
「それなら、ヌーが測ってあげるヌー!」
「測ったら正拳突きする」
ヌーッティは押し黙った。
困惑するヌーッティとアキの耳に、玄関のドアベルの音が聞こえてきた。
ぎぃぃっと軋んだ音を立てて、玄関のドアが開く音が玄関ホールに響いた。
「アキ? いる?」
ハンナの声であった。
ヌーッティははっとした。
もしかしたら、あのハンナが救世主になるかもしれないと。
はたして、事態は好転するのであろうか——否。ヌーッティは好転することに、ハンナにいちるの望みを賭けることにした。
ヌーッティのせいではないが、間接的にはヌーッティのせいでもあった。
だからこそ、ヌーッティは直感した。
このままでは、トゥーリに刈られると。
そう、バリカンで。毛が。
「ヌーはなにも悪いことしてないヌー!」
ヌーッティはトゥーリに力の限り無実を訴えた。
「ヌーはただお菓子を探してただけだヌー!」
ついうっかり、ヌーッティは正直に自身の行いを白状した。
ヌーッティの怯える瞳に、殺気立つトゥーリの姿が映った。
ヌーッティはトゥーリが怒る理由を理解していた。
それは、トゥーリの着ているワンピースがアキのお手製で、アキのことを大好きなトゥーリがとっても大切にしていたからであった。
「ヌーッティィイイイイイイ!」
トゥーリは家を震わせるほどの低い声でヌーッティの名を呼んだ。
同時に、トゥーリはヌーッティめがけて突進した。
そこへ、
「どうした⁈」
青年の声が聞こえて、トゥーリの動きがぴたっと止まった。
ヌーッティは顔だけ横へ向け、キッチンの入り口を見た。
すると、アキが慌てた面持ちでキッチンの中を覗き込んでいた。
アキの顔を見たヌーッティは緊張の糸が切れたように涙をこぼし始めた。
「アキー!」
泣きながらヌーッティがアキの元へ助けを求めるように駆け出した——が、しかし、トゥーリに腕を引っつかまれ、放り投げられた。
「アキー! ヌーッティが服やぶいたー!」
トゥーリはしゃがみこんだアキの胸の中に飛び込んだ。
いつもは大人びたトゥーリが珍しく大泣きした。
アキはため息をひとつ吐くと、目を細め、むくりと起き上がっているヌーッティを見た。
「で、今度は何をやらかしたんだ?」
説明を求められたヌーッティは事の転末を話し始めた。
ヌーッティがおやつを食べられなくなったので、お菓子を探していたこと。
そこへ、トゥーリがやって来て、ヌーッティの行動を妨げたこと。
その過程で、トゥーリの服が勝手に破けたこと。
ヌーッティはそれらを真剣に話した。
「つまり、ヌーは悪くないヌー!」
「いや、ヌーッティが悪い」
アキはばっさりとヌーッティを断罪した。
「なんでだヌー⁈」
ヌーッティはひどくうろたえた。
ここで引き下がるとおやつ断食期間が伸びる可能性があると気づいたからであった。
「ヌーはただ逃げただけだヌー!」
「だから、そもそもおやつ禁止してるのにお菓子を食べようとしたのが悪いんだろ? それに、こんなにキッチンを散らかして……」
アキは散らかったキッチンの惨状を見回した。
「まあ、ひとまずキッチンの片付けだな」
アキはため息混じりに頭をかいた。
「アキとトゥーリも手伝ってくれ——」
「わけないだろ。ヌーッティがひとりで片付けること」
「やだヌー! ヌーひとりぼっちはやだヌー!」
「ただし! ひとりで片付けられたらおやつ禁止はなし!」
「片付けるヌー! ヌーはやればなんでもできる子だヌー! お片付けのプロだヌー!」
ヌーッティは意気揚々と張り切ってキッチンを片付け始めた。
アキは泣きじゃくるトゥーリをなだめながら、キッチンの入り口近くにあぐらをかいて座りつつ、ヌーッティの片付けを見守っていた。
そして、1時間くらい経過した頃。
キッチンは元通りとはいかないまでも、一応は片付いた。
「どうだヌー!」
自信に満ちあふれたヌーッティは両手を腰にあてて、ドヤ顔でアキに尋ねた。
「40点。ギリ合格」
「やったヌー!」
ヌーッティははしゃぐ気持ちを全身で表現するかのように、ぴょんぴょん跳ねた。
「さてと、トゥーリの新しい服を作らなきゃだな。ここまで破けちゃってると修繕は難しいし、布は今よりももっと伸縮性があったほうがいいかな」
「じゃあ、布を買いに行くヌー?」
ヌーッティはアキに尋ねた。
「その前に採寸しないとかな」
「やだ」
アキの言葉をトゥーリが拒否した。
「え? やだ? 新しい服はいやだった?」
アキは心配な面持ちで、アキの胸に顔を埋めるトゥーリを見た。
トゥーリは首を横に振った。
「アキに採寸されたくない」
きっぱりとトゥーリは言い放った。
困った表情を浮かべるアキを見て、ヌーッティは閃いた。
「それなら、ヌーが測ってあげるヌー!」
「測ったら正拳突きする」
ヌーッティは押し黙った。
困惑するヌーッティとアキの耳に、玄関のドアベルの音が聞こえてきた。
ぎぃぃっと軋んだ音を立てて、玄関のドアが開く音が玄関ホールに響いた。
「アキ? いる?」
ハンナの声であった。
ヌーッティははっとした。
もしかしたら、あのハンナが救世主になるかもしれないと。
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