トゥーリとヌーッティ<短編集>

御米恵子

文字の大きさ
42 / 163
欲望のトライアングル

3.トゥオネラへの分岐点

しおりを挟む
 アレクシは右手を頭に当てて、
「ヌーッティ、重いからどいてくれないか?」
 倒れ伏せているアレクシの上に鎮座するヌーッティへ言葉を掛けた。しかし、
「ヌーッティ。動いてはなりません」
 リュリュの怒気を孕む声にアレクシの体がびくりと震えた。そおっと顔を上げたアレクシの視線の先には、おぞましい目つきでアレクシを見下ろしているリュリュがいた。
「や、やあ、リュリュ。ご機嫌うるわ……」
「わたくしの質問にのみ答えなさい」
 ぴしゃりとリュリュがアレクシの言葉を遮った。
「チョコレートを盗みましたね?」
 じっと見つめるリュリュからアレクシは視線を逸らした。
「きみがあのチョコをすべて食べたら肌に良くないと思って……」
「誰が意見を述べてよいと言いましたか。わたくしは問うているのですよ? チョコレートを盗みましたよね?」
 リュリュは厳しい口調で再び問いただした。アレクシはちらちらとリュリュの顔色を窺っている。
「盗んだのですわね?」
 とどめのリュリュの質問にアレクシは溜め息を吐く。
「そうさ、ぼくがチョコレートを奪ったさ」
 その開き直ったアレクシの返答と態度を見て、リュリュが怒らないわけがなかった。
「貴様! 皮を引っぺがして鍋に放り込んでやる!」
 鋭い爪を出したリュリュがアレクシに飛びかかろうとしたその時。
「待つヌー! ここでアレクシを鍋に入れたらチョコが見つからないヌー! トゥーリに想いを伝えられなくなっちゃうヌー!」
 ヌーッティの制止でリュリュの動きがぴたりと止まった。
「トゥーリ様……? そうですわ! トゥーリ様のために今は堪えなくては!」
 リュリュはアレクシを睨みつけながら爪を引っ込めた。そして、一度深呼吸をした。
「アレクシ。チョコレートを返しなさい。その代わりに、わたくしがあなたにもラクリッツチョコレートを作って差し上げますわ」
 アレクシとヌーッティの表情が変わった。
「いいのかい? ぼくにもチョコレートを渡すっていうことは、ぼくにも愛をくれるということで?」
 アレクシはにやりとほくそ笑んだ。他方、ヌーッティは焦っていた。
「だめだヌー! ヌーのチョコがなくなっちゃうヌー!」
「安心なさい。ヌーッティの取り分も考慮に入れての提案です。さあ、答えをおっしゃい、アレクシ」
 リュリュの催促にアレクシは指を鳴らす。
「その提案を受け容れよう。チョコレートをきみに返すよ」
 その返答を聞いてリュリュは、ヌーッティにアレクシから降りるように言う。起き上がったアレクシはチョコレートを持ってくると言い置き、一度その場を離れた。
 しばらくしてアレクシよりも大きな板チョコレートを1枚背負って持ってくると、
「期待しているよ」
 欲望の眼差しでリュリュを見据えながら、チョコレートをリュリュに返した。
「メッセージカード付きでお渡ししますわ」
 リュリュはアレクシからチョコレートを奪い返した。
 アレクシはくるりと踵を返すと片手を振って、その場を後にした。
「良かったヌー。これでラクリッツチョコレートが作れるヌー」
 安堵の溜め息を吐いたヌーッティが、隣に立つリュリュを見て戦慄した。リュリュが放つ禍々しい気迫に圧倒され、リュリュの冷ややかな眼差しにヌーッティは恐怖を抱いた。
「……クソ赤リスめ。必ず冥府トゥオネラへ送ってやる」
 ぽそりとリュリュが呟いた。
 事はすでにヌーッティの手に追えるものではなくなっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

稀代の悪女は死してなお

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「めでたく、また首をはねられてしまったわ」 稀代の悪女は処刑されました。 しかし、彼女には思惑があるようで……? 悪女聖女物語、第2弾♪ タイトルには2通りの意味を込めましたが、他にもあるかも……? ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

かつて聖女は悪女と呼ばれていた

朔雲みう (さくもみう)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」 この聖女、悪女よりもタチが悪い!? 悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!! 聖女が華麗にざまぁします♪ ※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨ ※ 悪女視点と聖女視点があります。 ※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

ナナの初めてのお料理

いぬぬっこ
児童書・童話
ナナは七歳の女の子。 ある日、ナナはお母さんが仕事から帰ってくるのを待っていました。 けれど、お母さんが帰ってくる前に、ナナのお腹はペコペコになってしまいました。 もう我慢できそうにありません。 だというのに、冷蔵庫の中には、すぐ食べれるものがありません。 ーーそうだ、お母さんのマネをして、自分で作ろう! ナナは、初めて自分一人で料理をすることを決めたのでした。 これは、ある日のナナのお留守番の様子です。

悪女の死んだ国

神々廻
児童書・童話
ある日、民から恨まれていた悪女が死んだ。しかし、悪女がいなくなってからすぐに国は植民地になってしまった。実は悪女は民を1番に考えていた。 悪女は何を思い生きたのか。悪女は後世に何を残したのか......... 2話完結 1/14に2話の内容を増やしました

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

処理中です...