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エンマとトゥーリ Emma ja Tuuli
3.森の女主人 <Mielus Metsolan Mielikki>
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エンマとトゥーリ、アレクシとリュリュの四人は、風の妖精たちの案内で森の奥深くへ足を踏み入れていく。
森に入ってしばらくのうちは小鳥たちの囀りが聞こえていた。太陽の輝きも木々の枝から差し込んでいた。けれども、歩みを進めるに従って、森の内部へと行くうちに、小鳥たちの鳴き声は耳に届かなくなり、陽の明かりも薄らいできた。辺りには霧が立ちこめてきて、エンマは少し怖くなった。
「ねえ、トゥーリ。本当にこっちであってるのかな? 鳥の話し声も聞こえないよ」
エンマの横を並んで歩くトゥーリは、きょろきょろと辺りを見回すと、少し唸った。
「風の妖精たち! 本当にこの先にヌーッティがいるの?」
トゥーリは先導する風の妖精たちに声を掛けた。
「何も問題はないさ」
くすくすと笑い声を上げながら妖精たちは答えた。
そうして森の中へ進むと霧が次第に濃くなって、数メートル先がまったく見えなくなってしまった。
異変を感じてトゥーリは立ち止まった。アレクシもリュリュも止まったので、エンマもつられて歩みを止めた。
「おかしいですわね」
鼻をひくひくさせてリュリュが周囲に気を張る。
「なにがおかしいの?」
リュリュに訊ねると、エンマはきょろきょろ辺りに目を配らせながら手を固く握った。
すると冷たい風が森の奥深く、濃い霧の中から吹いてきた。
あまりの冷たさにエンマは身震いした。
「完全にだまされた……!」
トゥーリはぽそりと独り言ちた。けれども、その言葉はエンマの耳にも、アレクシの長い耳とリュリュの小さな耳に届いた。
「風の妖精たち。どういうことだい?」
怒気を含んだ口調でアレクシが風の妖精たちに訊ねた。
風の妖精たちはにやりといたずらな笑みを浮かべると、次々に霧の中へと散らばっていった。
「だましたりなんてしてないさ。ただ、風の精霊が横柄な態度を取るから悪いんだ。僕らの、私たちの、大切なベリーの実を断りもなしに食べるからいけないんだ」
トゥーリたちの視線が宙に漂っているアレクシに向けられる。アレクシは口笛を吹きながら明後日のほうを向いて、目を合わせないようにしている。
「アレクシ最低」
トゥーリとリュリュの声が重なった。
「アレクシ。お友だちの物を勝手に取っちゃだめじゃない」
エンマは逃げようとしていたアレクシの外套(マント)の裾を片手で掴むと、溜め息混じりに諫めた。
風の妖精たちは姿を消すと、
「ここから先は進めない。霧深い森の中には入れない。森の主の住処へ辿りつけはしない。来るよ、来るよ。霧を掻き分け、魔物のヒーシたちがやって来るよ。ああ、怖い怖い。僕たちは、私たちは早く逃げなくちゃ!」
そう言い置くと、あっという間に消え去った。
「ヒーシ?!」
トゥーリとリュリュ、アレクシは同時にその名を口にした。エンマは怪訝な表情を浮かべ、
「ヒーシってなぁに?」
トゥーリに訊ねた。
「邪悪な魔物。魔術は使わないけれど、とっても厄介なやつなの」
答えたトゥーリはエンマの前に立ち、迎撃態勢を取っている。
「アレクシ、リュリュ! エンマを守ることを最優先に!」
エンマの肩から地面へと降り立ったトゥーリの言葉に応える形で、アレクシは前方と右側方に注意を払い、リュリュは左側方と後方に意識を集中させた。トゥーリは全方位に気を払った。
「来るぜ!」
アレクシが叫んで、三人に注意を促す。
すると、先程よりも強い冷風が森の奥から吹いてきてエンマたちの肌を撫でた。
エンマは背すじがぞくっとして、恐怖を覚えた。
風鳴りが霧の立ち込める森に響き渡った。
同時に、白い筋状の靄の群れがエンマたちの眼前に現れた。
その靄の群れはエンマたちを囲うように漂い始める。
「小人と精霊だ」
「人間の子どももいるぞ」
その声らしき音は漂う靄から聞こえてきた。
「おいしそうな人間だ」
「ひさしぶりのごちそうだ。さあ、食べてしまおう!」
靄たちの動きが変わった。
エンマを目指し、突き進んでくる。
「来ないで!」
エンマが悲痛なる叫びを上げた。
「だいじょうぶ! わたしたちがエンマを守る!」
トゥーリは言い終えて口早に詩を歌い始める。
Rukoilen Tellervolle.
——わたしは祈る、森に住まうタピオの乙女へ
Tellervo, anna tuulta maalle.
テッレルヴォ、タピオの乙女よ、この地へ風をもたらせ
Ajattakaa häntä täältä!
追い払え、彼の者を、この地より!
歌に応えて一陣の風が巻き起こる。
突進してきたヒーシたちの動きを鈍らせる。
そのわずかな隙で充分であった。
アレクシが詩を歌い上げるには。
Kerron tuulisen runoa.
——僕は語る、風の詩を
Kuulostele mistä kerron!
聞け、僕の表す言葉を!
Vastaele laulantaani!
答えよ、僕の歌に!
「さあ、吹き荒れろ! 風よ!」
アレクシたちを中心に、円を描くように烈風が吹き荒れ始める。
ヒーシたちは荒れ狂う風によって、身動きを封じられた。
そこへ、リュリュの詩も完成した。
Lumen tiedän syntysanat.
——わたくしは知っている、雪の誕生の始まりを
Lumi, taivu käskyihini!
雪よ! わたくしの意に従いなさい!
ひらりひらりとエンマたちの頭上から粉雪が舞い降り始める。
「Lumi, taivu tahtohoni! ——雪よ! わたくしの命じるままに!」
リュリュの号令一下、雪はアレクシの生み出した荒々しい風に重なって、吹雪と化した。
何体かのヒーシたちが吹きすさぶ雪によって凍り、地面へ落ちた。
その時であった。
凍結を免れた数体のヒーシたちが荒れる吹雪をかいくぐり、エンマの目前に現れた。
「エンマ!」
叫んでトゥーリはエンマを力いっぱい押し倒した。
倒れたエンマの頭上を、歯を剥き出しにしたヒーシたちが通り過ぎる。
「トゥーリ?!」
エンマは上半身を起こすと、腹の上に乗っているトゥーリを見た。
すると、トゥーリの右腕に鋭い刃物で切り裂かれたような傷ができていた。傷口からは血が滲んでいる。
「ごめん、強く押しすぎちゃった。怪我はない?」
額に汗を浮かべながらトゥーリは笑顔を作って、エンマに向ける。
「けがをしてるのはトゥーリだよ! わたしは大丈夫だから」
エンマの瞳が潤み、涙がぽたぽたとこぼれ落ちた。
泣きながらエンマは、急いでワンピースのポケットからハンカチを取り出すと、トゥーリの傷口にそっと当てた。
「アレクシ! リュリュ! トゥーリが……!」
エンマの震えた声を聞いたアレクシとリュリュは、トゥーリをちらりと見やると、互いに顔を見合わせて頷いた。
そして、二人は同時に詩を紡ぎ始める。アレクシは風の詩を、リュリュは水の詩を。
Vesi kuuntelee mietteitäni.
——水がわたくしの心に耳を傾ける
Tuuli kuiskaa tunteitani.
風が僕の気持ちを囁く
Pulpahda vettä minun eteeni.
水はわたくしの前に湧き出で、
Räjähdä tuuli täällä maalla.
風はこの大地に吹き荒れる
Suojelkaa meitä, vesi ja tuuli!
水よ、風よ、われらを守れ!
Poistakaa meidän vihollisia!
水よ、風よ、われらの敵を追い払え!
風がエンマたちを囲うと吹き回り、急流のような水はヒーシを近づけさせないようにエンマたちの前に立ち塞がった。
「きりがないな」
風を操りながらアレクシはぼやいた。
「けれども、トゥーリ様が負傷していては、ここから逃げ出すことも難しいですわ」
リュリュはトゥーリの様子を見やりつつ、次なる一手を考えていた。
「アレクシ、リュリュ! どうすればいいの?! わたしにもできることを教えて!」
泣きじゃくりながらトゥーリを抱えているエンマが二人に訊いた。
しかし、問われた二人はどう答えたらよいかわからず押し黙ってしまった。
「一つだけあるよ。みんなが無事に帰れる方法」
返答はトゥーリからであった。
「わたしにもできる?」
しゃくり上げているエンマがトゥーリに訊ねた。トゥーリはこくりと頷いた。
「できるよ。でも、とても怖いかもしれない」
「だいじょうぶ。怖くても、わたしにしかできないのならやるよ!」
覚悟を決めたエンマの顔がトゥーリの瞳に映し出された。
その表情を見たトゥーリはエンマにそっと耳打ちした。その話を聞いたエンマは唇をぎゅっと結ぶと、
「まかせて!」
力強く立ち上がると、目尻に浮かんでいた涙を手の甲で拭った。
「アレクシ、リュリュ! できる限りヒーシたちを引き付けて、エンマを援護して!」
トゥーリの言葉に応えて、アレクシとリュリュは詩を歌い、風と水、雪を操り、ヒーシたちを牽制した。
トゥーリも、痛みを堪えて詩を歌い、ヒーシたちをエンマに近づけさせないようにした。
エンマは深呼吸一つすると、祈りを捧げるように両手を合わせた。
Mielus Mielikki, ystävämme.
——森の女主人(おんなあるじ)ミエルス・ミエリッキはわたしたちのお友だち
Suojele meitä vihollisilta!
助けて! 敵からわたしたちを!
エンマの力強い声が、歌が、森中に響き渡った。
霧で薄暗くなっていた森に一筋の光が差し込んだ。
「可愛い私の友人よ。願いは届いた、私の胸に」
どこからともなく女性の美しい声が聞こえてきた。
同時に、森の奥から風が吹き込んできて、白い霧が一掃され、辺りは目映い光で満たされた。
そして、エンマたちを囲っていたヒーシたちは悲鳴をあげることなく、暖かで力強い陽の光によって霧散し、消え去った。
「たすかったの?」
エンマは周囲をきょろきょろと見回した。
「もう、大丈夫。森の女主人がエンマの願いに応えて、助けてくれたんだよ」
トゥーリがエンマの問いかけに答えた。
「よかったぁ」
緊張が解けたエンマは胸を撫で下ろし、足元に立つトゥーリを抱きかかえると、両腕に力を入れた。トゥーリも両手を大きく開いてエンマを抱きしめると、頬ずりをした。
エンマの顔に笑顔が戻ったのを見たアレクシとリュリュは、ほっとし、喜んだ。
エンマはそうだと思って空を見上げた。
「ミエリッキ! この森の中で小熊の妖精をみかけなかった? わたしたち、その小熊の妖精ヌーッティを探しているの!」
エンマの声が森にこだました。
小鳥たちの鳴き声、動物たちの動く音、柔い風の響きは聞こえてくるものの、ミエリッキの美しい声は響かなかった。けれども、しばしの間を置いて、森の中に一本の光の道が現れた。そこには、食べ物の欠片が道筋を作るように点々と落ちていた。
「この光の道を辿りなさい。お菓子の道を歩みなさい。小鳥の案内に従って森を進みなさい。貴方たちの探し求める小熊はその道の先にいるはずだから」
どこからともなく聞こえてくるミエリッキの返事を聞いたエンマたちは、
「ありがとう!」
森の女主人に感謝を伝え、森の奥からやって来た一羽の小鳥を先頭に、光の道を歩み始めた。
森に入ってしばらくのうちは小鳥たちの囀りが聞こえていた。太陽の輝きも木々の枝から差し込んでいた。けれども、歩みを進めるに従って、森の内部へと行くうちに、小鳥たちの鳴き声は耳に届かなくなり、陽の明かりも薄らいできた。辺りには霧が立ちこめてきて、エンマは少し怖くなった。
「ねえ、トゥーリ。本当にこっちであってるのかな? 鳥の話し声も聞こえないよ」
エンマの横を並んで歩くトゥーリは、きょろきょろと辺りを見回すと、少し唸った。
「風の妖精たち! 本当にこの先にヌーッティがいるの?」
トゥーリは先導する風の妖精たちに声を掛けた。
「何も問題はないさ」
くすくすと笑い声を上げながら妖精たちは答えた。
そうして森の中へ進むと霧が次第に濃くなって、数メートル先がまったく見えなくなってしまった。
異変を感じてトゥーリは立ち止まった。アレクシもリュリュも止まったので、エンマもつられて歩みを止めた。
「おかしいですわね」
鼻をひくひくさせてリュリュが周囲に気を張る。
「なにがおかしいの?」
リュリュに訊ねると、エンマはきょろきょろ辺りに目を配らせながら手を固く握った。
すると冷たい風が森の奥深く、濃い霧の中から吹いてきた。
あまりの冷たさにエンマは身震いした。
「完全にだまされた……!」
トゥーリはぽそりと独り言ちた。けれども、その言葉はエンマの耳にも、アレクシの長い耳とリュリュの小さな耳に届いた。
「風の妖精たち。どういうことだい?」
怒気を含んだ口調でアレクシが風の妖精たちに訊ねた。
風の妖精たちはにやりといたずらな笑みを浮かべると、次々に霧の中へと散らばっていった。
「だましたりなんてしてないさ。ただ、風の精霊が横柄な態度を取るから悪いんだ。僕らの、私たちの、大切なベリーの実を断りもなしに食べるからいけないんだ」
トゥーリたちの視線が宙に漂っているアレクシに向けられる。アレクシは口笛を吹きながら明後日のほうを向いて、目を合わせないようにしている。
「アレクシ最低」
トゥーリとリュリュの声が重なった。
「アレクシ。お友だちの物を勝手に取っちゃだめじゃない」
エンマは逃げようとしていたアレクシの外套(マント)の裾を片手で掴むと、溜め息混じりに諫めた。
風の妖精たちは姿を消すと、
「ここから先は進めない。霧深い森の中には入れない。森の主の住処へ辿りつけはしない。来るよ、来るよ。霧を掻き分け、魔物のヒーシたちがやって来るよ。ああ、怖い怖い。僕たちは、私たちは早く逃げなくちゃ!」
そう言い置くと、あっという間に消え去った。
「ヒーシ?!」
トゥーリとリュリュ、アレクシは同時にその名を口にした。エンマは怪訝な表情を浮かべ、
「ヒーシってなぁに?」
トゥーリに訊ねた。
「邪悪な魔物。魔術は使わないけれど、とっても厄介なやつなの」
答えたトゥーリはエンマの前に立ち、迎撃態勢を取っている。
「アレクシ、リュリュ! エンマを守ることを最優先に!」
エンマの肩から地面へと降り立ったトゥーリの言葉に応える形で、アレクシは前方と右側方に注意を払い、リュリュは左側方と後方に意識を集中させた。トゥーリは全方位に気を払った。
「来るぜ!」
アレクシが叫んで、三人に注意を促す。
すると、先程よりも強い冷風が森の奥から吹いてきてエンマたちの肌を撫でた。
エンマは背すじがぞくっとして、恐怖を覚えた。
風鳴りが霧の立ち込める森に響き渡った。
同時に、白い筋状の靄の群れがエンマたちの眼前に現れた。
その靄の群れはエンマたちを囲うように漂い始める。
「小人と精霊だ」
「人間の子どももいるぞ」
その声らしき音は漂う靄から聞こえてきた。
「おいしそうな人間だ」
「ひさしぶりのごちそうだ。さあ、食べてしまおう!」
靄たちの動きが変わった。
エンマを目指し、突き進んでくる。
「来ないで!」
エンマが悲痛なる叫びを上げた。
「だいじょうぶ! わたしたちがエンマを守る!」
トゥーリは言い終えて口早に詩を歌い始める。
Rukoilen Tellervolle.
——わたしは祈る、森に住まうタピオの乙女へ
Tellervo, anna tuulta maalle.
テッレルヴォ、タピオの乙女よ、この地へ風をもたらせ
Ajattakaa häntä täältä!
追い払え、彼の者を、この地より!
歌に応えて一陣の風が巻き起こる。
突進してきたヒーシたちの動きを鈍らせる。
そのわずかな隙で充分であった。
アレクシが詩を歌い上げるには。
Kerron tuulisen runoa.
——僕は語る、風の詩を
Kuulostele mistä kerron!
聞け、僕の表す言葉を!
Vastaele laulantaani!
答えよ、僕の歌に!
「さあ、吹き荒れろ! 風よ!」
アレクシたちを中心に、円を描くように烈風が吹き荒れ始める。
ヒーシたちは荒れ狂う風によって、身動きを封じられた。
そこへ、リュリュの詩も完成した。
Lumen tiedän syntysanat.
——わたくしは知っている、雪の誕生の始まりを
Lumi, taivu käskyihini!
雪よ! わたくしの意に従いなさい!
ひらりひらりとエンマたちの頭上から粉雪が舞い降り始める。
「Lumi, taivu tahtohoni! ——雪よ! わたくしの命じるままに!」
リュリュの号令一下、雪はアレクシの生み出した荒々しい風に重なって、吹雪と化した。
何体かのヒーシたちが吹きすさぶ雪によって凍り、地面へ落ちた。
その時であった。
凍結を免れた数体のヒーシたちが荒れる吹雪をかいくぐり、エンマの目前に現れた。
「エンマ!」
叫んでトゥーリはエンマを力いっぱい押し倒した。
倒れたエンマの頭上を、歯を剥き出しにしたヒーシたちが通り過ぎる。
「トゥーリ?!」
エンマは上半身を起こすと、腹の上に乗っているトゥーリを見た。
すると、トゥーリの右腕に鋭い刃物で切り裂かれたような傷ができていた。傷口からは血が滲んでいる。
「ごめん、強く押しすぎちゃった。怪我はない?」
額に汗を浮かべながらトゥーリは笑顔を作って、エンマに向ける。
「けがをしてるのはトゥーリだよ! わたしは大丈夫だから」
エンマの瞳が潤み、涙がぽたぽたとこぼれ落ちた。
泣きながらエンマは、急いでワンピースのポケットからハンカチを取り出すと、トゥーリの傷口にそっと当てた。
「アレクシ! リュリュ! トゥーリが……!」
エンマの震えた声を聞いたアレクシとリュリュは、トゥーリをちらりと見やると、互いに顔を見合わせて頷いた。
そして、二人は同時に詩を紡ぎ始める。アレクシは風の詩を、リュリュは水の詩を。
Vesi kuuntelee mietteitäni.
——水がわたくしの心に耳を傾ける
Tuuli kuiskaa tunteitani.
風が僕の気持ちを囁く
Pulpahda vettä minun eteeni.
水はわたくしの前に湧き出で、
Räjähdä tuuli täällä maalla.
風はこの大地に吹き荒れる
Suojelkaa meitä, vesi ja tuuli!
水よ、風よ、われらを守れ!
Poistakaa meidän vihollisia!
水よ、風よ、われらの敵を追い払え!
風がエンマたちを囲うと吹き回り、急流のような水はヒーシを近づけさせないようにエンマたちの前に立ち塞がった。
「きりがないな」
風を操りながらアレクシはぼやいた。
「けれども、トゥーリ様が負傷していては、ここから逃げ出すことも難しいですわ」
リュリュはトゥーリの様子を見やりつつ、次なる一手を考えていた。
「アレクシ、リュリュ! どうすればいいの?! わたしにもできることを教えて!」
泣きじゃくりながらトゥーリを抱えているエンマが二人に訊いた。
しかし、問われた二人はどう答えたらよいかわからず押し黙ってしまった。
「一つだけあるよ。みんなが無事に帰れる方法」
返答はトゥーリからであった。
「わたしにもできる?」
しゃくり上げているエンマがトゥーリに訊ねた。トゥーリはこくりと頷いた。
「できるよ。でも、とても怖いかもしれない」
「だいじょうぶ。怖くても、わたしにしかできないのならやるよ!」
覚悟を決めたエンマの顔がトゥーリの瞳に映し出された。
その表情を見たトゥーリはエンマにそっと耳打ちした。その話を聞いたエンマは唇をぎゅっと結ぶと、
「まかせて!」
力強く立ち上がると、目尻に浮かんでいた涙を手の甲で拭った。
「アレクシ、リュリュ! できる限りヒーシたちを引き付けて、エンマを援護して!」
トゥーリの言葉に応えて、アレクシとリュリュは詩を歌い、風と水、雪を操り、ヒーシたちを牽制した。
トゥーリも、痛みを堪えて詩を歌い、ヒーシたちをエンマに近づけさせないようにした。
エンマは深呼吸一つすると、祈りを捧げるように両手を合わせた。
Mielus Mielikki, ystävämme.
——森の女主人(おんなあるじ)ミエルス・ミエリッキはわたしたちのお友だち
Suojele meitä vihollisilta!
助けて! 敵からわたしたちを!
エンマの力強い声が、歌が、森中に響き渡った。
霧で薄暗くなっていた森に一筋の光が差し込んだ。
「可愛い私の友人よ。願いは届いた、私の胸に」
どこからともなく女性の美しい声が聞こえてきた。
同時に、森の奥から風が吹き込んできて、白い霧が一掃され、辺りは目映い光で満たされた。
そして、エンマたちを囲っていたヒーシたちは悲鳴をあげることなく、暖かで力強い陽の光によって霧散し、消え去った。
「たすかったの?」
エンマは周囲をきょろきょろと見回した。
「もう、大丈夫。森の女主人がエンマの願いに応えて、助けてくれたんだよ」
トゥーリがエンマの問いかけに答えた。
「よかったぁ」
緊張が解けたエンマは胸を撫で下ろし、足元に立つトゥーリを抱きかかえると、両腕に力を入れた。トゥーリも両手を大きく開いてエンマを抱きしめると、頬ずりをした。
エンマの顔に笑顔が戻ったのを見たアレクシとリュリュは、ほっとし、喜んだ。
エンマはそうだと思って空を見上げた。
「ミエリッキ! この森の中で小熊の妖精をみかけなかった? わたしたち、その小熊の妖精ヌーッティを探しているの!」
エンマの声が森にこだました。
小鳥たちの鳴き声、動物たちの動く音、柔い風の響きは聞こえてくるものの、ミエリッキの美しい声は響かなかった。けれども、しばしの間を置いて、森の中に一本の光の道が現れた。そこには、食べ物の欠片が道筋を作るように点々と落ちていた。
「この光の道を辿りなさい。お菓子の道を歩みなさい。小鳥の案内に従って森を進みなさい。貴方たちの探し求める小熊はその道の先にいるはずだから」
どこからともなく聞こえてくるミエリッキの返事を聞いたエンマたちは、
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