上 下
11 / 27

遭遇

しおりを挟む


あの後すぐ、パーティー会場である大広間に入った。

先ほどの話がもう噂になっているのか、最初は不思議そうに見ていた他の貴族達も、うっとりした表情で私達を見ている。

「先ほど聞いた噂は本当みたいですね。実際見ていた方達に話を聞いたら、熱烈な愛の言葉を囁く殿下と、頬を染めるランバート公爵令嬢が初々しくて、その場は甘酸っぱい空気で溢れていたとか···。私も見たかったですわ。」

会場のあちらこちらから同じような会話が聞こえ、私もエリックも顔が真っ赤になった。

(途中から周りが見えなくなって暴走してしまったわ。穴があったら入りたい。)

途中から二人の世界に入ってしまい、気付いた時には周りの貴族達から生ぬるい目で見られていたのに気付き、二人は茹で蛸のように真っ赤になった。

(とても気まずい!)

チラッと顔を見合せモジモジしてしまう。

その時、タイミングよくエリックの護衛騎士でエリックの乳兄弟であるルデオン様がやって来た。

ルデオン・エステバン。
エリックの乳兄弟で、グレモア王国の暴れ竜と呼ばれる騎士家系のエステバン侯爵家の長男。ゲームの攻略対象だ。

「エリックやっと来たか。すごい噂になってたぞ?そろそろ俺にもお前の大事な大事なお姫様を紹介してくれてもいいんじゃないか?」

私の方を見てニヤニヤ笑うルデオン様。

エリックと赤ん坊の時から乳兄弟として育ち、エリックの親友でもある。

高い身長に焼けた肌、くすんだ金髪、薄いエメラルドグリーンの瞳。鍛え上げられた逞しい肉体。ワイルドで精悍な顔立ち。

前世でワイルドイケメン好きな親友が発狂するほどだった。

「ルデオンうるさい。エレノアの目が穢れるからどっか行って。」

エリックの機嫌がなぜか悪くなった。

「エレノア嬢初めまして。ルデオン・エステバン。エリックの護衛騎士であり、エリックの親友です。エリックはいつもエレノア嬢がいないとあんな感じで、絶対他の男に紹介したがらない嫉妬深い男なんだよ。束縛が嫌になったら俺の所へおいでね?」

と言いウインクをしてくるルデオン様。

「ルデオン!名前呼びは許してない!!お前はランバート公爵令嬢と呼べ!!」

珍しく声を粗げているエリック。
エリックの珍しい姿を見て、思わずふふっと声を出して笑ってしまった。

エリックにとって、心許せる友達なんだということがわかる。

するとまた声をかけて来る男性がいた。

「ルデオン!貴方は少し言葉使いに気を付けなさい!これでも王太子なんですよ?エリックは。」

眼鏡をかけたクールそうに見える彼は、宰相のご子息のオースティン・ルドバイヤー。

代々王国の宰相を排出しているルドバイヤー公爵家。

オースティンはルドバイヤー公爵家の長男だ。
彼もまた、ゲームの攻略対象である。

白銀の髪を右肩にまとめ、眼鏡から覗く美しいアイスブルーの瞳は、彼の整った顔をクールな印象に見せる。

ゲームでは、その見た目と性格から「氷の貴公子」と呼ばれ、全国のドM女子を夢中にさせた腹黒ドSのオースティン。

彼もまた、エリックの幼い頃からの親友である。

「オースティン。“これでも”ってどういう意味だ?」

さらにエリックは不機嫌そうな顔になる。

(ゲームと同じく毒舌は健在なのね。)

「エレノア様···お会いできて光栄です。私はオースティン・ルドバイヤー。宰相のルドヴィックの息子です。エリックの補佐をしておりますのでお会いする機会は多々あると思います。以後お見知りおきください。」

ふわっと美しく笑うオースティンだけど、私は彼のドSの本性を知っている。
彼だけは、絶対に敵に回したくない。彼の毒舌に勝てる気がしないから。

なるべくオースティンには近寄らないでおこう。

とうとう···攻略対象が三人も集まってしまった。

さっきまで楽しかった気持ちが一気に落ちてしまった。

なんとも言えない不安な気持ちが私を支配する。


「エレノア様どうしました?少し顔色が悪い様ですが···。」

オースティンがそう言うと、ルデオン様と言い争っていたエリックが慌てて私の側にやってくる。

「エレノア?側を離れてごめん。本当に顔色が悪いよ?具合悪い?とりあえず少し控え室で休もう。」

心配そうな表情で私の顔を覗き込むエリック。

エリックは乙女ゲームの事を知らない。
だから···たくさんの攻略対象に囲まれて怖いなんて言えない。

「心配かけてごめんなさい。ちょっと人に酔ってしまったみたい。もうすぐダンスも始まるし、体調も落ち着いてきたから心配しなくても大丈夫。」

私はニコッと笑って見せる。

「でも···。」と心配そうな顔で私を見るエリック。

今日だけは特別なの。

今日のダンスだけは、絶対エリックと踊りたい。

学園に通えば、必然的に乙女ゲームの舞台に上がる事になる。

エリックとのダンスは、もしかしたらこれが最初で最後になるかもしれない。

だからこそ···今日のダンスは私にとって特別なのだ。

万が一、乙女ゲームのシナリオ通りになっても···今日の日の思い出だけはずっと大事にしたいの。

私は攻略対象達に出会ってしまい、改めてここが乙女ゲームの中である事を思い出し、実感した。

やはりどうなるかわからない。

それなら···。
今日の出来事は、私にとって特別なものになるかもしれない。

今日、この日の思い出だけは誰にも汚されたくない。

心配そうなエリックにエスコートされ、私はダンスホールに向かう。

その時···。


「エリックさま~!」

甲高い若い女性の声がエリックの名を呼んだ。


ドクン──。

周りの喧騒が聞こえなくなり、自分の心臓の音だけが早鐘を打った。



















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪妃の愛娘

りーさん
恋愛
 私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。  その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。  そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!  いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!  こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。  あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!

婚約者の浮気から、どうしてこうなった?

下菊みこと
恋愛
なにがどうしてかそうなったお話。 婚約者と浮気相手は微妙にざまぁ展開。多分主人公の一人勝ち。婚約者に裏切られてから立場も仕事もある意味恵まれたり、思わぬ方からのアプローチがあったり。 小説家になろう様でも投稿しています。

池に落ちて乙女ゲームの世界に!?ヒロイン?悪役令嬢?いいえ、ただのモブでした。

紅蘭
恋愛
西野愛玲奈(えれな)は少しオタクの普通の女子高生だった。あの日、池に落ちるまでは。 目が覚めると知らない天井。知らない人たち。 「もしかして最近流行りの乙女ゲーム転生!?」 しかしエレナはヒロインでもなければ悪役令嬢でもない、ただのモブキャラだった。しかも17歳で妹に婚約者を奪われる可哀想なモブ。 「婚約者とか別にどうでもいいけど、とりあえず妹と仲良くしよう!」 モブキャラだからゲームの進行に関係なし。攻略対象にも関係なし。好き勝手してやる!と意気込んだエレナの賑やかな日常が始まる。 ーー2023.12.25 完結しました

枯れ専で何が悪い!

嘉ノ海祈
恋愛
 ―何かが違う。侯爵令嬢であるエリワイドはその違和感に頭を抱えていた。違うのだ。かっこいいと思う基準が。周りの令嬢は若くて顔の良い貴族令息に黄色い声を上げる中、エリワイドは一人節くれだったおじさま方の姿に見惚れていた。数多くの有名令息からの縁談も、おじさま好きであるエリワイドの心には響かない。もうすぐ迎える18歳になって初めての社交界で、婚約者をパートナーとして連れて行かなければならないエリワイドはずっと恋焦がれていたとある人物に婚約を申し込む。しかし、その人物は40年以上誰とも結婚をしていないくせ者だった。  絶対に彼と婚約をしたい侯爵令嬢と、絶対に婚約を結びたくない辺境伯の恋の攻防物語。 ※小説家になろうにも掲載しています。

王太子殿下と仲良くなります。さようなら

マルローネ
恋愛
シンディ・プラットは伯爵令嬢。侯爵令息のドルト・マードと婚約していたが、彼の浮気により婚約破棄をされてしまう。 そんなところを助けてくれたのは、なんと王太子殿下のラッド・フェリックスだった。 シンディは王太子のラッドと恋に落ちて行くが、侯爵令息のドルトはシンディを悲しませたことを後悔する羽目に……。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

転生した王妃は親バカでした

ぶるもあきら
恋愛
い、いだーーいぃーー あまりの激痛に目がチカチカする。 それがキッカケの様にある景色が頭にうかぶ、 日本…東京… あれ?私アラフォーのシングルマザーだったよね? 「王妃様、もう少しです!頑張ってください!!」 お、王妃様って!? 誰それ!! てかそれより いだーーーいぃー!! 作家をしながらシングルマザーで息子と2人で暮らしていたのに、何故か自分の書いた小説の世界に入り込んでしまったようだ… しかも性格最悪の大ボスキャラの王妃バネッサに! このままストーリー通りに進むと私には破滅の未来しかないじゃない!! どうする? 大ボスキャラの王妃に転生したアラフォーが作家チートを使いながら可愛い我が子にメロメロ子育てするお話 我が子をただ可愛がっていたらストーリー上では夫婦ながらバネッサを嫌い、成敗するヒーローキャラの国王もなんだか絡んできて、あれれ?これってこんな話だったっけ?? *・゜゚・*:.。..。.:*・'(*゚▽゚*)'・*:.。. .。.:*・゜゚・* 拙い本作品を見つけてくれてありがとうございます。 毎日24時更新予定です。 (寝落ちにより遅れる事多々あり) 誤字脱字がありましたら、そっと教えてくれると嬉しいです。

長編版 王太子に婚約破棄されましたが幼馴染からの愛に気付いたので問題ありません

天田れおぽん
恋愛
 頑張れば愛されると、いつから錯覚していた?  18歳のアリシア・ダナン侯爵令嬢は、長年婚約関係にあった王太子ペドロに婚約破棄を宣言される。  今までの努力は一体何のためだったの?  燃え尽きたようなアリシアの元に幼馴染の青年レアンが現れ、彼女の知らなかった事実と共にふたりの愛が動き出す。  私は私のまま、アナタに愛されたい ――――――。 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼   他サイトでも掲載中 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼  HOTランキング入りできました。  ありがとうございます。m(_ _)m ★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★  初書籍 「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」  が、レジーナブックスさまより発売中です。 よろしくお願いいたします。m(_ _)m

処理中です...