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この痛みは誰のもの?(エレノアside)
しおりを挟むあれから毎日王太子は我が家にやってくる。
城と学園と私の家への移動だけでも大変なはずなのに···。
毎日花やお菓子、時にはアクセサリーや小物をお土産に持ってきて、なんでもない学園の話や今日あった出来事を嬉しそうに話すだけ。
雨の日も嵐の日も···毎日どんな天気の時だってやって来ては、なんでもないような会話をして帰る。
王太子って暇じゃないはず···。
学業だけじゃなくて王太子としての公務もある。
とても忙しいはずなのに···どうして無理をしてまで毎日我が家へ来るの?
ケガの事で罪悪感があるのだとしても、もう十分よ···。
それに、昨日神殿で聖女様から神聖魔法の治療を受けてケガも残っていない。
さすがにこんなに無理を続けたら体が壊れてしまうわ。
今日だって顔色が悪いのに、無理して元気な振りをして私の前で笑っている。
さすがに無理しすぎよ···。
学園ではもうヒロインに出会っているはずなのに···どうなっているの?
今まで一度もヒロインの話は名前すら出てきていない。
それに我が家に来るには、学園で授業が終わってすぐに、学園を出なければならないはず···。
ヒロインと出会っているはずなのにどうして?
その時、王太子が椅子から崩れ落ちそうになった。
「あれ?ちょっと一瞬クラッて来ちゃった···貧血かな?ははっ···」
誤魔化すように笑う彼を見ていられなくて、グイッと彼を引っ張りソファーに寝かせた。
そして私の膝の上に彼の頭を乗せて枕にする。
「エレノア!?何を···!?」
驚く彼の目を、手で隠すように押さえた。
「いいから黙って。目を閉じて少し寝なさい!貴方無理しすぎなのよ。顔色も悪いのに···無理して笑わなくていいの。学業だけじゃなくて公務もあるのに無理して毎日家になんて来るからこうなるのよ?わかったなら少し寝て!」
私が素っ気なく言うと彼は諦めて目を閉じた。
「エレノアはやっぱり優しいね。ありがとう···お言葉に甘えて少し眠らせてもらうね。」
そう言うなり、エリックからすやすやと寝息が聞こえてきた。
彼が眠ったのが分かり安堵する。
「本当に無理するから···。どうせ貴方はヒロインを好きになる癖に···。私に優しくしたって意味ないでしょう?」
その時、チクンと胸が痛んだ。
この胸の痛みはエレノアの痛みなのか?
それとも私のものなのか···?
どちらの痛みなのか···私にはわからなかった。
────
私はエレノアに転生した時から不安な事があった。
エレノアが大ケガをした時に、前世で命を落とした私が運良くエレノアの体で転生した。
じゃあ···本当のエレノアはどこへ?
私の中で知らずに眠っているの?
でも一度も“エレノア”を感じた事はない。
体の記憶?はあるのにエレノアの気配を感じた事がなかった。
エレノアは体を私に乗っ取られた感じなのかしら···?
それとも···エレノアは消滅してしまったの?
それか···いつか“本物の彼女”の意識が戻る時が来るんだろうか···?
そうしたら···私という存在はどうなってしまうんだろう···?
全く経験したことがない体験を私はしている。
この体はエレノアのもの。
だけど···“本物のエレノア”が戻ったら私は一体どうなるの?という不安は消えない。
いつかは彼女に返さないといけないのかもしれない···。
でもそうなったら私は一体どこへ行けばいいのだろう?
その不安は、不安定な私の心に影を落とし始めていた。
そんな事を考えていると私の頭にフワッとした温かな手が触れる。
「エレノア···?泣いてるの?」
私の頭に触れたのは、寝ていたはずのエリックの手だった。
「エリック···起きたの?」
私が話しかけるのを無視してエリックは優しく私の頭を撫でた。
「何か悲しいことがあったの?良ければ私に話してほしい。口下手だから、望む答えは出せないかもしれないけど···エレノアの話を聞くことはできるし、話せば少し気持ちが楽になるかもしれないよ?つらい事も二人でなら半分こになるだろう?」
優しく微笑むエリック。
私は何故か、エリックに心の内を話してもいい気がしてしまった。
いつかは敵になるかもしれないのに···。
「私ね、大ケガをする前の記憶がないじゃない?記憶を失ってからしばらく···ずっと考えてたの。私は前の“本物のエレノア”がいなくなってから現れた、いわば“偽物のエレノア”じゃあ本当のエレノアはどこに?って···。」
私が苦笑いを浮かべるとエリックは私の手をギュッと握ってくれた。その温かな手の感触に安堵し、私は続きを話す。
「ふと···私はここにいていいのかな?って何度も思うの。“本物のエレノア”じゃないのに····。じゃあ私は一体“何者”なんだろうって···もし“本物のエレノア”が戻ったら“偽物のエレノア”な私はどうなってしまうの?って怖くなるの···。もし本物が戻ったら偽物の私はどこへ行けばいいのだろうって悲しくなるの。」
その時フワッと温かいものに体が包まれた。
気づくと私はエリックに抱き締められていた。
「君は何も悪くない。だから自分を責めないで。悪いのは君じゃない。私だよ···。私のせいでエレノアはこうなった。悪いのは全部私なんだから···。私のせいで君もエレノアも悲しませてしまってごめん。君はいなくならないよ。君もケガをする前のエレノアも二人とも合わせて···“今のエレノア”なんじゃないかな?」
私の目元を優しく拭うエリック。
どうやら、私は無意識に泣いていたようだ。
「ケガをする前のエレノアもね、とても優しい子だったんだ。今の君のようにね···。だからエレノアが君を受け入れたなら···エレノアは君を恨んではいないし、君の中にちゃんとエレノアは生きてると思うんだ。君はエレノアから体を奪ってしまったと気に病んでいるのかもしれないけど···優しいけどエレノアは嫌なら嫌ってちゃんと拒絶する子だよ?君の事が嫌なら受け入れないさ。だから大丈夫。不安にならなくても大丈夫だよ。」
私を安心させるように···小さな子に言い聞かせるように優しく頭を撫でてくれるエリックに涙が止まらなくなった。
「君は君のままここにいていいんだ。私はどちらのエレノアも大好きだよ。」
どうして欲しい言葉をくれるのが貴方なの?
いつか私を捨てるのに···。
どうして私に優しくするの?
安堵と相反する胸の痛み。
この痛みは一体なんなのだろう···?
そしてこの痛みは···誰のもの?
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