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変わってしまった婚約者1(エリックside)

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私の名は、エリック・グレモア。
このグレモア王国の王太子だ。

私には、生まれた時から決められた婚約者がいる。

婚約者の名はエレノア・ランバート。
ランバート公爵家の令嬢だ。

他の公爵家には、年の近い令嬢が生まれなかった為、必然的に彼女との婚約は決まった。

しかし、「彼女を第一王子の婚約者に」という話を彼女の家に打診した時、一悶着あったらしい。

娘を溺愛するランバート公爵が、政略での婚約に難色を示したのだ。

「大事な娘の婚姻を、政治的な道具にしたくない」と固くなに反対した。

ランバート公爵家からすれば、領地は経済的に潤っているし、武力も国軍に負けないほど、強力な兵を有している。
海に面しているので、貿易や物流にも困らない。

なので、王家と無理に縁を結ばねばならない事情などないのだ。

むしろ、ランバート公爵家と縁が結べないと困るのは、王家の方だった。

私が生まれた時、高位貴族に女児が非常に少なかった。
王子を立太子させるには、有力な家の後ろ楯が必須なのだ。

そして、条件に当てはまるほどの有力な家は少ない。

婚約者候補は、ランバート公爵家、次がエリニード侯爵家。

しかしエリニード侯爵家は、数年前に領地で大きな災害がおきて、とても王家の後ろ楯になれる状況ではないので辞退。

次が、マグラス伯爵家だったが····。
王太子の後ろ楯として、マグラス伯爵家では力不足が否めない。

王家はランバート公爵家に、どうにか後ろ楯になってほしいと頼み込むが、ランバート公爵は、愛娘の幸せが最優先だった。

何回も泣きつき、必ず彼女を大切にする事を条件に、渋々ランバート公爵に婚約を認めさせた。

そうして、彼女は私の婚約者になった。

幼い頃から決められた婚約ではあったけど、最初からこんな状況ではなかった。

事実···。私は、エレノアをとても好いていた。

エレノアは、小さな頃は···それは素直で、無邪気で可愛らしい少女だった。

彼女が笑うと、辺りに花が咲き誇っているように明るく、和やかな雰囲気になり、彼女の前では、誰でも笑顔になってしまうほどだった。

彼女は···私の、初恋の女の子だったのだ。


しかし、淑女教育が始まってから彼女は変わってしまった。

あまり笑わなくなり、ツンケンした態度を取るようになった。

昔は、あんなに素直で可愛いかったのに···。

それに、あんな態度なのに、しつこいほど私に付きまとうようになった彼女に····私は、どう対応して良いのかわからず、一方的に避けるようになってしまったのだ。

一度距離を置いてしまうと、どんどん彼女の心がわからなくなっていく。

どうして彼女は、あんなに変わってしまったのだろうか···。

何故かはわからないが、私はこの頃の記憶が曖昧なのだ。

なぜ、彼女を避け始めたのか···ハッキリとした理由が思い出せない。

この頃に、彼女と何かあったんだと思う。

そうでなければ···。
あんなに、彼女を邪険にしなかっただろうから。

私がわかるのは、この頃に彼女と何かあった事、それをきっかけに彼女を避けるようになってしまった事だ。

彼女を見ると、胸が酷く痛み···その痛みを隠すように、彼女を避ける。

そんな事を繰り返していた。

そして先日、事件が起きた。

いつものように彼女に追い回され、うんざりしていた時···彼女が、足を滑らせて階段から落ちたのだ。

彼女が階段から落ちる瞬間、彼女と目が合った。

私は、必死に手を差し伸べるが···間に合わなかった。
彼女の顔に、一瞬だけ悲しみの色が浮かんだのがわかった。

まるで、全てを諦めてしまったように···彼女は、受け身すら取ろうとせず、階段を落ちていく···。

私は····頭が真っ白になった。

彼女の、一瞬見せた悲しそうな顔が脳裏に貼り付いて離れない。

エレノアは、なんとか一命を取り留めたが···。
一週間たった今も、目を覚ましていない。

彼女がこんな事になってしまったのは、私のせいだ····。

あの時、彼女は······。

きっと、私の今までの酷い態度のせいで、すべてを諦めてしまったのかもしれない。

もしかしたら、生きる事すらも···。
そんな考えが頭を過るとゾッとした。

彼女にまだ何も気持ちを伝えてない。
人が変わってしまった今でも····彼女が好きだ。

どうして、こうなる前に···気持ちをちゃんと伝えなかったんだろう。

どうして···ちゃんと、彼女と向き合わなかったんだろう。

彼女が目覚めたら、···誠心誠意謝ろう。

そして、今まで彼女に酷い態度を取り続けていたことを···ちゃんと謝ろう。

彼女が変わってしまった時、ちゃんと彼女と向き合うべきだった。

彼女に何があったのか···ちゃんと、彼女の話を聞くべきだったのに···。

私は、彼女に寄り添う事をしなかった。

怖かったのだ···。彼女が変わってしまうことを認めることが。

きっと、そんな私の態度のせいで···彼女は余計に苦しみ、変わってしまったのではないだろうか?

しかし、この頃の事を思い出そうとすると···酷い頭痛がして思い出せないのだ。

一体···彼女と私の間に、何があったというのか?


ただわかるのは···。私は彼女が変わってしまうことが怖かった。

私への好意も、全てがなくなってしまうようで···。恐れていたのだ。

彼女の心に、私の存在がなくなってしまうのを···。


王家とランバート公爵家との約束があるのに···どうして私は、彼女にあんな態度を取り続けてしまったのだろう··。


私は、彼女が大好きだったはずなのに···。
もう、彼女に会えないかもしれない。

そんな状況になってやっと自分の本当の気持ちに気付くなんて···。

彼女を諦めたくない。
今すぐ、彼女に会いたい···。

彼女の事を考えると、ズキンと痛む胸。

もっと早く····自分の気持ちに気付くべきだった。


しかし、全てが手遅れだった。
気づくのが遅すぎたんだ···。

彼女に、あんな酷い態度を取り続けた罰が下ったんだと思う。

彼女に酷い態度を取り続けた、愚かな自分への罰は、まさに···自分が恐れていたことだったのだから。








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