【完結】裏切られたあなたにもう二度と恋はしない

たろ

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7話

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「アイシャ、お前に素敵な話が舞い込んだんだ」

 お父様が嬉しそうに話しかけた。

 わたしには嫌な予感しかしないのだけど。
 聞きたくない!耳を塞ぎたくなる。

 どうしてそう思うのかよくわからない。

 耳の周りで何かが囁いている気がするのに何も聞こえないし、目の前がチカチカするのに何も見えないの。

「………素敵な………はな…しってなんでしょう?」

 恐々とお父様の顔を見上げた。

「アイシャに婚約の話がきたんだよ。それもなんと陛下から第二王子のシルヴィオ殿下なんだよ。この前庭園でお会いしただろう?」

 お父様は目を輝かせて話を続けた。

「アイシャを怖がらせてすまなかったと青い薔薇を贈ってくださったんだ。殿下は9歳ながらに優秀なお方だ。将来はとても有望で王太子殿下の片腕になるだろうと言われている。
 僕の大切なアイシャをシルヴィオ殿下になら任せられるよ。いやあ、よかったよかった」

 お父様は庭園での出来事を忘れたのかしら?わたしが必死で謝罪をしてトーマスを許して欲しいと願ったことを。

 あまりの恐怖の中お父様がきてくれて安心した途端気を失ったことを。
 その後高熱で倒れて寝込んでしまった。今も完全ではないことを。

「お父様、あ、あの、わたしはまだ6歳です」

 戸惑いながら夢中で話すお父様に声をかけた。

「ああ、だが、高位貴族になれば婚約者は生まれた時からいる者もいる。王太子殿下も8歳の時には婚約者がいらっしゃった。
 お前達の出会いはなんだと思う」

 ーー運命?

 その言葉が気持ち悪く感じた。

「わたし……嫌です」

 俯いて震えながらお父様に自分の気持ちを伝えた。

 わたしの言葉に悲しそうな顔をしたお父様。

「アイシャ、どうしたんだ?眉目秀麗、剣の腕も優れていると言われている殿下だよ?いずれは臣下に降りて公爵の地位を承り、王太子殿下と共にこの国を背負うお人だ。婚約者として選ばれたことはとても光栄なことなんだ」

「だったら……お父様が婚約されたらいいでしょう?わたしは絶対に嫌!」

 唇を噛み締めてお父様を睨みつけた。

 わたしの幸せを勝手に決めないで!








 ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎ ✴︎




「アーシャ、この前庭園であったシルヴァ殿下のことを覚えているかい?」

 お忙しいお父様が珍しくはやく帰ってきたと思ったらにこにこ笑顔ではなしかけてきた。

「もちろん!とっても優しい王子様だったもの。たくさんお話を聞いてくれたの」

 わたしの初恋の優しい王子様。

「優しい王子様か……うんうん、殿下ならアーシャを幸せにしてくれるだろう」

「しあわせ?」
 お父様の言葉にキョトンとした。

「ああ。シルヴァ殿下がアーシャのことをこの国で一番幸せにしてくれるんだよ」

「どうして?殿下が?」

「アーシャと殿下の婚約が決まったんだ」

「ほんとに?わたしが殿下のお嫁さんになるの?」

「そうだよ、だからこれから少しだけ忙しくなると思う。勉強も頑張らないといけないし、ダンスやマナー、刺繍や社交と覚えなければいけないことばかりだ。だけどアーシャなら頑張れると思う。そして殿下の横に堂々と並ぶことができるはずだ」

「わたし、シルヴァ殿下のためにいっぱい努力するわ!!またお会いできるのかな?」

「今度顔合わせがあるよ」

「ふふっ、とても楽しみ!」

 優しくてかっこよくて絵本から出てきた王子様みたいなシルヴァ殿下。

 シルヴァ殿下のお嫁さんになれる!

 精霊達がわたしに“おめでとう”と言ってくれた。

 キラキラした光の中、ずっとずっと幸せは続くのだと思っていた。









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