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6話
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「おはようございます」
ミズナがカーテンを開けると明るい陽射しが部屋にたくさん入ってきた。
「おはよう」
ミズナの顔を見るとホッとする。
王城で気を失ったわたしはお父様に抱えられて屋敷へと連れ帰られた。
そして高熱を出してそのまま1週間ほど寝込んでしまった。
いまだに食欲もないし体に力が入らない。
目の前には青い薔薇が花瓶に入っていた。
わたしが寝込んだことを知った陛下がお見舞いにと王家にしか持つことができない珍種である青い薔薇が贈られてきたらしい。
青いバラの花言葉を調べたら『夢 かなう』『奇跡』『神の祝福」』だった。
かつては『不可能』『存在しない』だった。なぜなら青いバラは自然界に存在せず、交配による品種改良でも実現することがずっと出来なかったから。それを実現させたのは、花の精霊に愛された人がいたからだと言い伝えられている。
わたしはこの青い薔薇を見るとなぜか心がざわついてしまう。
まるでわたしに何かを訴えているようで。そんな青い薔薇がなぜか怖い。でも目が離せない。
王家からのお見舞いの花を捨てることもできず、目の前からどこか違うところへ置いて欲しいと思うのに、なぜかその言葉が出てこない。
陽の光に照らされた青い薔薇はとても冷たく感じる。わたしのことを冷たい目で見ているようでゾッとするのに、どうしてなのかやっぱり目が離せない。
青い薔薇がキラキラと光っている。
わたしはまだ怠い体と上手く考えることができずにいるボーッとした頭の中でただ綺麗すぎる青い薔薇を見ていた。
「アイシャ様、少しだけでも何かお食べになりませんか?」
ミズナの声に我に返った。
「………ごめんなさい。まだ食欲がないの。出来れば喉が渇いたのでお水が欲しいわ」
「お水………せめて何か果物のジュースでもお飲みになりませんか?」
ミズナは何か口に入れようと提案してくる。
あまりにも心配そうな顔をしているミズナに悪くて。
「じゃあ、リンゴジュースを少しだけ」と言うと嬉しそうな顔をしたミズナ。
やっとベッドから出ることができたのはあの王城で気を失ってから2週間をすぎた頃だった。
まだお見舞いでいただいた青い薔薇は枯れもせずに花瓶の中でしっかりと咲いていた。
最近では青い薔薇を見ても見慣れたのか心がざわつくことは減った。
毎日花瓶の水を変えてくれるミズナ。
お父様は相変わらずお忙しいらしく、起きている時にお会いすることはない。
わたしが寝込んでいる間も今もお父様は屋敷に帰ってくるとわたしの寝顔を見にきてくれるらしいのだけど、ぐっすりと眠っているわたしは全く知らない。
トーマスがあの時の事をとても心配してくれている。
お父様がわたしのことをとても心配しているのに仕事が忙しくて時間が取れないことや、あの日泣きそうな顔をしてわたしを抱えて屋敷に帰ってきたことを教えてくれた。
毎日部屋に来てはわたしの寝顔にそっと手を触れて優しく撫でてくれていると言われて、嬉しい気持ちになった。
お母様がいつも眠る時に頭を優しく撫でてくれた。それを今はお父様がしてくださっている。
もうそれだけで十分。わたしはお父様に愛されているんだと思う。
「お父様が?」
トーマスがお父様が今日は早めにお帰りになると教えてくれた。
倒れてからひと月。やっとお父様にお会いすることができるわ。
お父様にお出掛けの時に買ってもらったリボンをつけてもらった。
淡い黄色の生地に白い刺繍糸で花の刺繍をされたリボン。
とても珍しいリボンを見て「綺麗だわ」と言ったら「アイシャに似合うと思うよ」と買ってくれた。
お父様は覚えていてくれるかしら?
ソワソワしながらお父様の帰りを待った。
家庭教師から宿題をいくつか出されていたので急いで宿題を終わらせた。
お父様と久しぶりに夕餉を食べるので大好きなおやつも少し減らした。
だってお父様と美味しく食べたいんだもの。高熱を出してからあまり食欲がないわたしは今もたくさん食べることができない。
お父様には心配をかけたくない。
「お帰りになられました」
本を読んで待っていると使用人が呼びに来た。
「ありがとう、玄関にお迎えに行くわ」
急いで鏡で髪型と服をチェックして「うん、大丈夫」と写っている自分にニコッと笑った。
玄関へと向かうと使用人たちが整列をして出迎えていた。
普段は早朝と夜遅い時間しか帰ってこないお父様。
こうやって出迎えるのは使用人達も久しぶりで少し緊張感があった。
「お父様!お帰りなさいませ」
飛びつこうと思ったけど、躊躇ってやめた。
スカートを両手に持ち、ぺこりと頭を下げて淑女の礼で挨拶をした。
「僕の可愛いアイシャ!おいで!」
お父様は両手を広げてわたしが抱きつくのを待ってくれていた。
みんなが見ている前で少し恥ずかしかったけどやっぱり大好きなお父様が抱っこしてくれるのだから、我慢できずに抱きついた。
抱きしめられて抱っこされて頬に何度もキスをしてくれた。
「元気になってよかった。でも少し痩せてしまったのかな?」
心配そうに見るお父様に「元気ですよ?」と明るい笑顔で答えた。
心配なんてかけたくない。
お父様の後ろに控えた執事長のマークが花束を抱えていた。
ーーあれはまさか……青い薔薇?
やっと枯れてわたしの前からなくなったはずの青い薔薇がまたやってきた。
なんだか嫌な気分が押し寄せてきた。
そして…………
ミズナがカーテンを開けると明るい陽射しが部屋にたくさん入ってきた。
「おはよう」
ミズナの顔を見るとホッとする。
王城で気を失ったわたしはお父様に抱えられて屋敷へと連れ帰られた。
そして高熱を出してそのまま1週間ほど寝込んでしまった。
いまだに食欲もないし体に力が入らない。
目の前には青い薔薇が花瓶に入っていた。
わたしが寝込んだことを知った陛下がお見舞いにと王家にしか持つことができない珍種である青い薔薇が贈られてきたらしい。
青いバラの花言葉を調べたら『夢 かなう』『奇跡』『神の祝福」』だった。
かつては『不可能』『存在しない』だった。なぜなら青いバラは自然界に存在せず、交配による品種改良でも実現することがずっと出来なかったから。それを実現させたのは、花の精霊に愛された人がいたからだと言い伝えられている。
わたしはこの青い薔薇を見るとなぜか心がざわついてしまう。
まるでわたしに何かを訴えているようで。そんな青い薔薇がなぜか怖い。でも目が離せない。
王家からのお見舞いの花を捨てることもできず、目の前からどこか違うところへ置いて欲しいと思うのに、なぜかその言葉が出てこない。
陽の光に照らされた青い薔薇はとても冷たく感じる。わたしのことを冷たい目で見ているようでゾッとするのに、どうしてなのかやっぱり目が離せない。
青い薔薇がキラキラと光っている。
わたしはまだ怠い体と上手く考えることができずにいるボーッとした頭の中でただ綺麗すぎる青い薔薇を見ていた。
「アイシャ様、少しだけでも何かお食べになりませんか?」
ミズナの声に我に返った。
「………ごめんなさい。まだ食欲がないの。出来れば喉が渇いたのでお水が欲しいわ」
「お水………せめて何か果物のジュースでもお飲みになりませんか?」
ミズナは何か口に入れようと提案してくる。
あまりにも心配そうな顔をしているミズナに悪くて。
「じゃあ、リンゴジュースを少しだけ」と言うと嬉しそうな顔をしたミズナ。
やっとベッドから出ることができたのはあの王城で気を失ってから2週間をすぎた頃だった。
まだお見舞いでいただいた青い薔薇は枯れもせずに花瓶の中でしっかりと咲いていた。
最近では青い薔薇を見ても見慣れたのか心がざわつくことは減った。
毎日花瓶の水を変えてくれるミズナ。
お父様は相変わらずお忙しいらしく、起きている時にお会いすることはない。
わたしが寝込んでいる間も今もお父様は屋敷に帰ってくるとわたしの寝顔を見にきてくれるらしいのだけど、ぐっすりと眠っているわたしは全く知らない。
トーマスがあの時の事をとても心配してくれている。
お父様がわたしのことをとても心配しているのに仕事が忙しくて時間が取れないことや、あの日泣きそうな顔をしてわたしを抱えて屋敷に帰ってきたことを教えてくれた。
毎日部屋に来てはわたしの寝顔にそっと手を触れて優しく撫でてくれていると言われて、嬉しい気持ちになった。
お母様がいつも眠る時に頭を優しく撫でてくれた。それを今はお父様がしてくださっている。
もうそれだけで十分。わたしはお父様に愛されているんだと思う。
「お父様が?」
トーマスがお父様が今日は早めにお帰りになると教えてくれた。
倒れてからひと月。やっとお父様にお会いすることができるわ。
お父様にお出掛けの時に買ってもらったリボンをつけてもらった。
淡い黄色の生地に白い刺繍糸で花の刺繍をされたリボン。
とても珍しいリボンを見て「綺麗だわ」と言ったら「アイシャに似合うと思うよ」と買ってくれた。
お父様は覚えていてくれるかしら?
ソワソワしながらお父様の帰りを待った。
家庭教師から宿題をいくつか出されていたので急いで宿題を終わらせた。
お父様と久しぶりに夕餉を食べるので大好きなおやつも少し減らした。
だってお父様と美味しく食べたいんだもの。高熱を出してからあまり食欲がないわたしは今もたくさん食べることができない。
お父様には心配をかけたくない。
「お帰りになられました」
本を読んで待っていると使用人が呼びに来た。
「ありがとう、玄関にお迎えに行くわ」
急いで鏡で髪型と服をチェックして「うん、大丈夫」と写っている自分にニコッと笑った。
玄関へと向かうと使用人たちが整列をして出迎えていた。
普段は早朝と夜遅い時間しか帰ってこないお父様。
こうやって出迎えるのは使用人達も久しぶりで少し緊張感があった。
「お父様!お帰りなさいませ」
飛びつこうと思ったけど、躊躇ってやめた。
スカートを両手に持ち、ぺこりと頭を下げて淑女の礼で挨拶をした。
「僕の可愛いアイシャ!おいで!」
お父様は両手を広げてわたしが抱きつくのを待ってくれていた。
みんなが見ている前で少し恥ずかしかったけどやっぱり大好きなお父様が抱っこしてくれるのだから、我慢できずに抱きついた。
抱きしめられて抱っこされて頬に何度もキスをしてくれた。
「元気になってよかった。でも少し痩せてしまったのかな?」
心配そうに見るお父様に「元気ですよ?」と明るい笑顔で答えた。
心配なんてかけたくない。
お父様の後ろに控えた執事長のマークが花束を抱えていた。
ーーあれはまさか……青い薔薇?
やっと枯れてわたしの前からなくなったはずの青い薔薇がまたやってきた。
なんだか嫌な気分が押し寄せてきた。
そして…………
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