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ろく
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わたしが落ち込んでいるのを心配してお祖母様が遊びに来るようにと声をかけてくれた。
バズールが態々屋敷まで迎えに来てくれたのだ。
「ライナ、早くしてくれよ」
「ちょっと待ってて、お泊まりだから持っていくものが色々あるの」
「必要なものは買えばいいだろう。俺だって忙しいんだからな」
「だったら迎えに来なくてもいいのに。うちの馬車で行くから先に帰っててよ!」
「ったく素直じゃないな、迎えにきてくれてありがとうだろう?」
「いやいや別に感謝することなんて何もないから!」
「シエルに振られて落ち込んでると思って顔出したのに……」
聞こえないくらいの声でぶつぶつ言ってるバズールにわたしはクスッと笑った。
本当はわたしが落ち込んでいないか心配で顔を見せにきてくれたのだ。
今、学校では学園祭に向けて最終準備中だった。生徒会長のバズールは休日返上で学園に通っている。
なのにわたしのことが心配で学園に行くのを遅らせて来てくれているのだ。
そんな優しさがあるのにこの口の悪いバズールは素直に心配だとは言わない。
「後で必要なものは持ってきてもらうわ、行きましょう」
「よし、行こう!」
バズールはわたしに手を差し出した。
彼の手を取って馬車に乗った。
サマンサも一緒について来てくれた。
「お嬢様に少し笑顔が戻って安心しました」
わたしの暗い顔ばかりを見せていたのでサマンサはずっと心配してくれていたのだ。
馬車の中で書類を読んでいるバズールに声をかけた。
「学園祭って今度の土曜日だよね?わたしも行ってみたいな」
行けるわけないのについポロッと言うと
「チケットあるよ、はい」と軽く渡してくれた。
「え?いいのかしら?学園祭のチケットって入手するの難しいのよね?」
「生徒一人に2枚配布されるからね、一枚につき2名入れるからサマンサがついて来てくれたら安心して来れるだろう?」
「嬉しい!サマンサ、一緒について来てくれるかしら?」
「もちろんです。お嬢様の頼みなら喜んでついて行きます」
サマンサはわたしの3歳年上で姉のようにいつもわたしを見守ってくれている大好きな人。一緒にいて安心できる。
わたしとサマンサは屋敷に着くとさっさと降ろされて、バズールは急いで学園へと向かった。
「本当に急いでいたのね」
わたしは苦笑して屋敷に入った。
「いらっしゃいませ、ライナ様」
みんなが迎え入れてくれたので荷物をお願いして「お祖母様はお忙しいかしら?」と聞いた。
「大奥様はご自分の部屋にいらっしゃいます。ずっと楽しみにお待ちしておりました」
「ではお祖母様のところへ顔を出してくるわ」
わたしの誕生日の日以来お会いしていなかったので二月ぶりになる。
「お祖母様、数日お世話になります」
「ライナ、ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます」
そして二人で庭園へと散歩に出た。
お祖母様も70歳を過ぎて少し足腰も弱くなって来ていた。
「あなたの花嫁姿を見る日が伸びてしまったけどそれまでは元気でいないといけないから寿命も伸びたかもしれないわね」
お祖母様の愛情が伝わる柔らかな笑みを浮かべた。
「お祖母様、ご心配おかけして申し訳ございません。もう少しお待たせすると思いますが……気長にお待ちくださいね」
わたしも笑顔で返した。
家族の誰もシエルとのことを責めようともしないし話題にすら出さないようにしてくれていることに感謝しかなかった。
昼間に過ごすお祖母様と伯母様との時間はゆっくりと過ぎていった。
三人で街へ買い物に行ったり美味しいカフェに行ったりバズールおすすめの『マルシェ』にも行った。
「あら?ライナではないの?」
わたしがお店で服を選んだいると後ろから声が聞こえて来た。振り向くとそこにいたのはリーリエ様のお母様であるミレガー伯爵夫人だった。
「お久しぶりでございます」
わたしが挨拶をすると、お祖母様と伯母様も奥様に気がついて挨拶をした。
「ライナはフェルドナー伯爵夫人の親戚だったわね」
奥様はいつもの優しい笑顔で聞いて来た。
「はい、母方の実家になります」
奥様はお祖母様に対して深々と頭を下げた。
お祖母様は頭を下げたままの奥様をじっと見つめて「頭を上げてください」と言った。
「……………」
「あ、あの……」
お祖母様の無言に動揺している奥様。
「ミレガー伯爵夫人またゆっくりとお話いたしましょう」
わたしはお祖母様の普段の優しい声しか知らない。こんなに冷たい態度と言葉を言う人だと初めて知った。
お祖母様はさっさと歩き出した。わたしは仕方なく奥様に頭を下げてお祖母様の後を追った。
「どうしたのですか?突然不機嫌になられて」
お祖母様はわたしに振り返り溜息をついた。
「大人気なかったわね、ライナごめんね。あのミレガー伯爵夫人はね、昔息子に媚びて来ていた人なのよ。顔を見て思い出したわ、よりによってミレガー伯爵と結婚していたのね。問題のあのシエルのところのお嬢様はあの女の娘なのでしょう?」
「………はい」
「気をつけなさい、あの女も執着が凄いの。あんな優しそうな顔をして裏ではどう思っているのかわからないわ」
隣で立っている伯母様もお祖母様の剣幕に驚いていた。
ーー奥様はわたしに対していつも優しい言葉はかけてくれていた。でもリーリエ様を諌めることもわたしとシエルが婚約しているのだからと伝えることも確かにしてくれることはなかった。
そう、いつもいつも微笑んで「リーリエがごめんなさいね」と言うばかりだった。
なんだか奥様とリーリエ様の放った蜘蛛の糸に少しずつ絡まれていくようで不気味さを感じた。
ーーーーー
屋敷に戻り家族全員で夕飯をいただいてから、サマンサと庭園へ出た。夕暮れ時の庭園はいつもと風景が変わり見飽きることがない。
特にここの花達は種類も多く、かなり手をかけて世話をされているのでとても立派な庭園だ。
暖かい季節はここでお茶会がよく行われている。
四阿のベンチに座りサマンサと二人でお茶を飲んでいると
「やっぱりここに居たんだ」
バズールがわたし達がここに居るのをわかってやって来た。
「何か用があったのかしら?」
「つれないな、落ち込んでいないか心配したんだ」
「落ち込む?」
「今日買い物の途中で例のお嬢様の母親に会ったんだろう?母上が心配してた」
「……あっ、うん、わたし……気がつかなかったみたいなの……奥様の優しい言葉の裏には、わたしへの優しさなんて全くなかった。「ごめんなさいね娘が」と言いながらわたしのことを嘲笑っていたのではないかとやっと気がついたの」
バズールが態々屋敷まで迎えに来てくれたのだ。
「ライナ、早くしてくれよ」
「ちょっと待ってて、お泊まりだから持っていくものが色々あるの」
「必要なものは買えばいいだろう。俺だって忙しいんだからな」
「だったら迎えに来なくてもいいのに。うちの馬車で行くから先に帰っててよ!」
「ったく素直じゃないな、迎えにきてくれてありがとうだろう?」
「いやいや別に感謝することなんて何もないから!」
「シエルに振られて落ち込んでると思って顔出したのに……」
聞こえないくらいの声でぶつぶつ言ってるバズールにわたしはクスッと笑った。
本当はわたしが落ち込んでいないか心配で顔を見せにきてくれたのだ。
今、学校では学園祭に向けて最終準備中だった。生徒会長のバズールは休日返上で学園に通っている。
なのにわたしのことが心配で学園に行くのを遅らせて来てくれているのだ。
そんな優しさがあるのにこの口の悪いバズールは素直に心配だとは言わない。
「後で必要なものは持ってきてもらうわ、行きましょう」
「よし、行こう!」
バズールはわたしに手を差し出した。
彼の手を取って馬車に乗った。
サマンサも一緒について来てくれた。
「お嬢様に少し笑顔が戻って安心しました」
わたしの暗い顔ばかりを見せていたのでサマンサはずっと心配してくれていたのだ。
馬車の中で書類を読んでいるバズールに声をかけた。
「学園祭って今度の土曜日だよね?わたしも行ってみたいな」
行けるわけないのについポロッと言うと
「チケットあるよ、はい」と軽く渡してくれた。
「え?いいのかしら?学園祭のチケットって入手するの難しいのよね?」
「生徒一人に2枚配布されるからね、一枚につき2名入れるからサマンサがついて来てくれたら安心して来れるだろう?」
「嬉しい!サマンサ、一緒について来てくれるかしら?」
「もちろんです。お嬢様の頼みなら喜んでついて行きます」
サマンサはわたしの3歳年上で姉のようにいつもわたしを見守ってくれている大好きな人。一緒にいて安心できる。
わたしとサマンサは屋敷に着くとさっさと降ろされて、バズールは急いで学園へと向かった。
「本当に急いでいたのね」
わたしは苦笑して屋敷に入った。
「いらっしゃいませ、ライナ様」
みんなが迎え入れてくれたので荷物をお願いして「お祖母様はお忙しいかしら?」と聞いた。
「大奥様はご自分の部屋にいらっしゃいます。ずっと楽しみにお待ちしておりました」
「ではお祖母様のところへ顔を出してくるわ」
わたしの誕生日の日以来お会いしていなかったので二月ぶりになる。
「お祖母様、数日お世話になります」
「ライナ、ゆっくりしていってね」
「ありがとうございます」
そして二人で庭園へと散歩に出た。
お祖母様も70歳を過ぎて少し足腰も弱くなって来ていた。
「あなたの花嫁姿を見る日が伸びてしまったけどそれまでは元気でいないといけないから寿命も伸びたかもしれないわね」
お祖母様の愛情が伝わる柔らかな笑みを浮かべた。
「お祖母様、ご心配おかけして申し訳ございません。もう少しお待たせすると思いますが……気長にお待ちくださいね」
わたしも笑顔で返した。
家族の誰もシエルとのことを責めようともしないし話題にすら出さないようにしてくれていることに感謝しかなかった。
昼間に過ごすお祖母様と伯母様との時間はゆっくりと過ぎていった。
三人で街へ買い物に行ったり美味しいカフェに行ったりバズールおすすめの『マルシェ』にも行った。
「あら?ライナではないの?」
わたしがお店で服を選んだいると後ろから声が聞こえて来た。振り向くとそこにいたのはリーリエ様のお母様であるミレガー伯爵夫人だった。
「お久しぶりでございます」
わたしが挨拶をすると、お祖母様と伯母様も奥様に気がついて挨拶をした。
「ライナはフェルドナー伯爵夫人の親戚だったわね」
奥様はいつもの優しい笑顔で聞いて来た。
「はい、母方の実家になります」
奥様はお祖母様に対して深々と頭を下げた。
お祖母様は頭を下げたままの奥様をじっと見つめて「頭を上げてください」と言った。
「……………」
「あ、あの……」
お祖母様の無言に動揺している奥様。
「ミレガー伯爵夫人またゆっくりとお話いたしましょう」
わたしはお祖母様の普段の優しい声しか知らない。こんなに冷たい態度と言葉を言う人だと初めて知った。
お祖母様はさっさと歩き出した。わたしは仕方なく奥様に頭を下げてお祖母様の後を追った。
「どうしたのですか?突然不機嫌になられて」
お祖母様はわたしに振り返り溜息をついた。
「大人気なかったわね、ライナごめんね。あのミレガー伯爵夫人はね、昔息子に媚びて来ていた人なのよ。顔を見て思い出したわ、よりによってミレガー伯爵と結婚していたのね。問題のあのシエルのところのお嬢様はあの女の娘なのでしょう?」
「………はい」
「気をつけなさい、あの女も執着が凄いの。あんな優しそうな顔をして裏ではどう思っているのかわからないわ」
隣で立っている伯母様もお祖母様の剣幕に驚いていた。
ーー奥様はわたしに対していつも優しい言葉はかけてくれていた。でもリーリエ様を諌めることもわたしとシエルが婚約しているのだからと伝えることも確かにしてくれることはなかった。
そう、いつもいつも微笑んで「リーリエがごめんなさいね」と言うばかりだった。
なんだか奥様とリーリエ様の放った蜘蛛の糸に少しずつ絡まれていくようで不気味さを感じた。
ーーーーー
屋敷に戻り家族全員で夕飯をいただいてから、サマンサと庭園へ出た。夕暮れ時の庭園はいつもと風景が変わり見飽きることがない。
特にここの花達は種類も多く、かなり手をかけて世話をされているのでとても立派な庭園だ。
暖かい季節はここでお茶会がよく行われている。
四阿のベンチに座りサマンサと二人でお茶を飲んでいると
「やっぱりここに居たんだ」
バズールがわたし達がここに居るのをわかってやって来た。
「何か用があったのかしら?」
「つれないな、落ち込んでいないか心配したんだ」
「落ち込む?」
「今日買い物の途中で例のお嬢様の母親に会ったんだろう?母上が心配してた」
「……あっ、うん、わたし……気がつかなかったみたいなの……奥様の優しい言葉の裏には、わたしへの優しさなんて全くなかった。「ごめんなさいね娘が」と言いながらわたしのことを嘲笑っていたのではないかとやっと気がついたの」
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